第2話びしょ濡れの少女 玲奈②

「ゆっくりでいいよ」

俊は、玲奈に声をかけた。


玲奈は、下を向いて、甘酒を啜る。

小さな声だった。

「飲み終えたら、すぐに帰ります」


俊は、ゆっくりと諭した。

「濡れた服を洗濯して、乾燥機にかけているんだよね」

「それを待ってからに」


玲奈は、また下を向く。(その手にはスマホを握りしめている)

「何を言っているんだろう・・・私・・・」

「ダメ女ですよね、マジに」

「だから生きているだけでも迷惑ですよね」


俊は、玲奈の言葉をフンフンと聞いて、質問。

「もしかして・・・誰かに面と向かって言われたの?」



玲奈はうろたえた顔。(少し反発した感じもある)

「言わないといけないの?」


俊は、玲奈の目をのぞき込んだ。

「言う、言わないは、君の自由、お好きに」

「でも、このまま帰って、君の気持ちが晴れればいいけどね」


玲奈は、口を尖らせた。(また、涙目になる)

「苛めるんですか?ここでも?」


俊は、口調を柔らかくした。

「言えば、気持ちが変わる場合もあるさ」

「愚痴でも文句でもいいよ、君は何か困っているような感じなんだ」

「僕でよければ聞くし、僕に言いたくなければ、服が乾いたら、帰ればいいさ」

「どうしようと、君の自由だよ」


玲奈は、ここで、迷った。

「ダメ女の私の愚痴を聞くの?馬鹿にしない?」

「言うの・・・怖いよ」


俊は、含み笑いになった。

「みんな、同じことを言うよ」

「玲奈さんより、もっとグチャグチャな人もいる」

「言うだけ言ってスッキリなんて人もいる」

「俺・・・文句の便器みたいだ」

「まあ・・・いいけどさ」


玲奈の顔が、また変わった。(今度は、俊を面白そうに見る)

「苛めたくなりました、俊さん」

「聞いてもらえます?」

「と言うより、見てもらう・・・になるのかな」


玲奈が「見てもらいたい」のは、スマホだった。

その画面を表示させて、俊の前に置いた。


「いつ死ぬの?メス豚!」

「まだ生きているの?マジ生き恥?」

「社会の迷惑・・・ウザ過ぎて、臭いかも」

「はい!玲奈の人生!これにて終了(笑)」

「マジにブス丸出し!人間の価値なし(笑)」

「二度と、顔見せるな!人間の恥!生ゴミ廃棄せよ!」

・・・・・・


かなり続いているのを見ながら、俊は、玲奈に聞いた。

「いつから?」


玲奈は、また下を向く。

「3カ月前の合コンの直後から」

「嫌いな男に誘われて、嫌って断ってから」

「ストーカーされて、ミニの時に写真撮られて拡散されて」

「大学と警察にも行って・・・でも、何一つ対応してくれなくて」

「もう、その時から、ずっと炎上です」

玲奈の目に、また涙がたまった。


俊も、少し涙目。

「それは、苦しかった」

「玲奈さんが、何一つ悪くないのに」

「言われ放題、辛いよな」

「大変だった、本当に」

「でも、耐えて、耐えて、もしかすると何かあると思って、ここかな?」


玲奈は、俊を見上げた。

泣いてしまって、目も明けられない、声にもならない。


その玲奈の背中を、ママが撫でている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る