GOD SLAYER

ぴー太郎

第1話 人類の窮地

 2124年、ある研究者が異空間を発見した。

現実とは繋がりがない異次元の世界だ。

異次元とは今までは考察や理屈でしか語られなかったために今までの類を見ない発見となったと同時に、異次元は様々な可能性をもたらした。その可能性に惹かれた国際統一政府は異空間への進出を決意し、世界各国からあらゆる科学者や技術者を集めて、研究、開発を始めたが、その翌日、各国の主要都市の上空に突如として謎の人影が現れ、侵略を始めた。

「公ではこの二つについて語られてないけど、俺は異空間への進出と大虐殺は何か関係しているんじゃ無いかって思うんだよ!!」

「...はぁ...。」

まさか初対面のやつに食堂の窓際でくだらない話を聞かされることになるとは思わなかった。

「何だよ興味ないのかよ。」

不服そうに語りかけるがはっきり言って興味ない。

「今俺が興味を示すのは目の前の食事だ。」

辺りを見渡すとかなりの人の数だが皆黙って座り込み、黙々と食事をしており、重い空気が漂っているのに『伊月いづき』とはよく喋る男だ。

そもそもこの基地へ派遣される途中の輸送機であったばかりだと言うのに。

これがカミュ力お化けか...。

重い空気の理由は当然、例の大虐殺だ。

三週間前、東京に突然現れた『それ』は現れた直後に攻撃を始めた。応戦するために2個大隊にもなる戦闘機群が飛び立ったが、会敵して数分も経たないうちに多数が墜ち、生き残ったのはたった一機だけだった。


「......い...おい!」

伊月の呼びかけで我に返った。

「あぁ...すまない...。」

返事を返すと右手に違和感があるのに気づき目をやるとフォークを持ったまま震えている。あの時の恐怖、そして何もできなかった口惜しさがぶり帰ってきたのだ。

すぐさまもう片方の腕で押されつける。

......弱い自分を再確認して不意に情けなく思ってしまうも、気持ちを切り替えるためにも時計を確認すると13時40分、そろそろかと席を立つ。

「おい、ブリーフィングまでまだ時間あるぞ。」

「呼び出しだよ。」

そう伊月に言い放ち、食堂を出る。

今思えば、居た堪れなさもあり、そそくさと逃げたのかもしれないが今はどうでもいい。

 おそらく転属の話、これから配属される部隊についてはまだ聞いていないためどんな部隊なのか...。

一人で騒がしくも緊迫した廊下を歩いていると一気に人気が薄れた。

ここら辺になってくると佐官以上のクラスの執務室が増えるため呼び出される時以外は来る事がないのだろう。

と、後ろから足音が響いてきた。振り返ると小柄だががっしりとした体格、何より強気な顔立ちが特徴的な青年が歩いてくる。

胸には少尉を表すバッチが付けられていた。

こちらに寄ってくると背筋を伸ばし敬礼したこちらも応えるように敬礼し返した。

「貴官も呼び出されて?」

「はい!」

明るい返事で初々しく感じつい微笑んでしまった。

「司令官にか?」

「そうです。なぜそれを?」

俺も司令官に呼び出されて司令室に向かう途中であったため。何気なく聞いてみたが、

まさか当たるとは思わず少し驚いている。

「奇遇だな、俺も司令官に呼び出されて今向かっている。」

「では同じ部隊になるわけですね。」

「そうだな。井上弥いのうえひさし中尉だ。貴官は?」

近藤真人こんどうまひと少尉であります!」

その後、目的地が一緒なため歩きながら世間話をする。

「一体どこの配属になるのだろうな。

貴官は転属先に心当たりは?」

あるはずもないがとりあえず話を振ってみる。

「実は前の上官と仲がよく、転属先に関して少し聞きました。

なんでも『英雄級』の腕の持ち主の集団らしいです。」

まさかそんな簡単に、ということはこの転属はさほど重要じゃないのか。サプライズのつもりだったりして。英雄級というのも気になる。一体どういうことなんだ?

おおかたそのままの意味なのだろうが...。

単純に考えれば生存率は高いと思うが、凄腕のパイロット集団だ。こき使うに決まっている。最前線は免られないかもしれない。

「まぁ前の侵略はかなりの損害だったからな。」

戦闘はどうやら2時間は続いて、何度も繰り返し迎撃したがどの部隊も全滅、後方の援助隊ですらかなりの被害を受けたらしい。

その後目標は消え残ったのは街の残骸だけ、首都にいた政治家、官僚、国防軍参謀らの行方も不明なため、国は混乱状態に陥ったがそんな中、英雄的存在が現れた。

菅田尚志少将、4年前のシベリア掃討作戦で日本空軍の司令官として現場を指揮し、多大な戦果を上げたと有名だ。

シベリア掃討作戦は国連が国際統一政府を立ち上げる時、合衆国が実権を握ることに対し連邦国の一部の官僚らが反発し、起こったが、とは言っているが実際は反発側の質や作戦に翻弄され、最初の方はかなりの損害を受け、それに応じて日本も参戦してなんとか掃討したらしい。

今回、偶然にも基地の視察をしていたため、虐殺に巻き込まれずに済んだが、少将が居なければここまで残存した兵や避難民をまとめ上げることはできなかっただろう。

と、廊下の奥に司令室という文字を見つけ、扉の前にたった。

息を吐き気持ちが切り替わったのを見計らって下る扉を叩く、

「入りたまえ...。」

深く、扉越しゆえに籠った声を確認し扉を開けると、洋風の印象の色合に木製の棚と机、

奥の日がよく当たるところに立つ司令官らしき男性と、黒いソファーに座る軍服の女性、

「井上中尉、入ります。」

「近藤少尉、入ります。」

一通りの礼儀を終えて部屋に入る。

「かけたまえ...。」

さっきは扉越しで聞きにくかったがかなり低く、力のある声だ。見た目も声に劣らず大柄で強面だ。

「失礼します。」

言われた通りソファーに向かい固まっている体を緩めないまま座った。

「境田大尉、貴官が指揮する第314航空中隊に転属する井上中尉と近藤少尉だ。」

314航空中隊...境田...どこかで...。

「あの314中隊ですか⁉︎」

隣に座ってっていた少尉が声を荒げた。

思い出した。シベリア掃討作戦に菅田少将と共に派遣され、20機以上もの敵戦闘機を落とした。エース中隊、まさかそんなところに配属とは...。

「何か不満が...?」

「いえ!むしろ歴戦の方々と戦えること、光栄であります!」

少尉の目には希望と誇りが写っていた。

それ程までに嬉しいのだろう。

「まぁこれほどまでに知っているのなら紹介しなくてもわかるだろう。

これから君たちの上司となる境田アデルハイト大尉だ。」

境田アデルハイト、日本人とドイツ人のハーフであると聞いたことがあったが。堀が深く、中性的な顔立ちでスタイルもよく、ブラウンの髪が特徴的だがどこか力強い感じも見て取れ、やはり軍人だと思わせる。

「よろしく頼む。」

「書類諸々はすでに済んでいる。貴官らはもう314飛行中隊の一員だ。これからの奮闘を期待する。」

俺含めたその場の全員が立ち、司令官に敬礼した。

「それでは失礼します。」

境田大尉がそう言い放つと共に俺らは退室した。

「ついて来い。」

扉を閉めた途端廊下を走っていると思うほど速く通り過ぎる。少尉と俺も大尉の後を追うが、

追いつく気配がない。

「これからブリーフィングの後、中隊挨拶だ。すまないがこちらも忙しくてな、挨拶する前に中隊の面々と顔合わせすることになってしまう。」

早々と説明が空を流れる。その間にまた周りが騒がしくなる。今回は自分もその中の一員というわけだ。

かなり張り詰めているということこか...。

「お世話になります......!」

近藤少尉が説明の返事として挨拶する。どこまでも律儀なのだなと感心してしまうな。

「よろしい...。」

するとある広い居間に到着した。窓からは立派であり、パイロットの花形とも言うべき戦闘機が見えていた。通常パイロットは待機室にて待機し、任務、またはスクランブルで呼び出されれば飛ぶ、というのが日常。今はその待機室の整理というところか。

この部屋もかなり慌ただしい。

「諸君!ブリーフィングの時間だ!」

大尉もまた荒げた声で中隊を呼ぶ。

「中隊長、その二人は...。」

振り返った様子の中年が質問するも、

「見ての通り新入りだ。自己紹介は後だ。

まず会議室行くぞ。」

「へぇーい...。」

覇気のない返事が部屋に反響し、手を動かし

ていた面々はすぐさま部屋を後にした。

もうこの時間帯は夕方、されどまだ明るかったため整理途中の部屋を鮮明に照らしている。

「どぉしたぁ!新入りぃ!」

た、勢いよく肩を組んできた男の名を俺は知っている。

「まさかお前が314中隊なのかよ...。」

伊月中尉、同階級とは言えやはり馴れ馴れしい...。

「不服か?すまねぇが俺ぁここの二番手任されてんだ。そう簡単には離れられねぇよ?」

これはまた面倒くさい。伊月と出会ったのがこの基地についたすぐだからまだ会話して1時間も満たないはずなのに...。

「中尉殿。あんまりじめないでやってください。」

そう入口からの助け船が渡される。

「わぁーってるよ!ってあ!」

すぐさま肩に乗った腕を振り払い部屋を後にする。これはまた大変な所に転属したな...。


 廊下を歩き会議室の扉を開けると中は大体100人ぐらいが、そこまで大きくない部屋に詰め込まれており、中には立ったままの奴もいる。

そんな密集した人間の中を割って入りながら空いているところ見つける。

部屋と時間を分けてやれば良いとは思ったものの、この基地自体、大規模という訳では無いし、時間的余裕もそれほど無い。

そもそも1000人も兵士が航空基地にいること自体イレギュラーなのだ。

「昼食後ですまないがブリーフィングを始める。私はこの基地の司令官を務める西島大佐だ。」

前も思ったがかなり大柄だな、士官ならそれほど鍛えなくても良いはずだが...。「まず一つ目は、この事態の現象とも言える『国籍不明機アンノウン』を以後、『侵略者ライダー』と命名する。他基地とも共通の名称のため、そのつもりでいるように。」

侵略者か...。確かに侵略と言いたいのはわかるが実際は襲った場所を占領せず、襲った挙句予定通りかの如く去っていった。一体なんのためか、目的はなんなか......虐殺...?

そんなくだらない理由ならほとんどの人間が怒り狂うか、絶望も相まって笑うかだな...。

襲撃者ライダーは世界各国の大都市、それも同時刻に出現、これは明らかな組織的行動なのは明らかである。」

確かに考えてみらば同時刻に各国の首都に出現したのは偶然なはずがない。

地球外生命体...。宇宙人?ここに来てくだらないこと考えるようになったと自分を卑下した。

会議室はそれほど広くないが、100人ほど詰め込まれていたためかなり窮屈な状態が続き、そんな中長々と話が続き、やっとの思いでブリーフィングは終わった。

会議のために暗くされていた部屋は明るくなり、窓からは赤みがかった光が入り込んだ。

もうこんな時間か...。

混雑していた部屋が徐々に余裕が出てき、やっと窮屈な状況が終わったと安堵したが、こんなのが日常になるのは少しきついな...。


 いきなり訪れた人類存亡の危機、それも人間を上回る力の持ち主によるものでだ。

避難地に行けば泣き叫ぶ者、絶望を目の当たりし生きることに諦める者、神に祈る者、幼い子供を宥める者、怒鳴り散らかす者、様々だ、そんな姿を柵越しで見ていると、胸が痛み、気が沈んでしまう。

「目を逸らすなよ?井上中尉。」

隣を歩く境田大尉の言葉で振り向く。

「私たちはあの絶望した国民を守らねばならないんだ。」

「承知の上です。」

とは言ったもののその言葉を聞き改めて胸に刻んだ。

俺はあの人たちを一人でも多く生かすために戦うんだと。






最後まで有難うございます。

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