第15話 底辺配信者、荷物を準備する。

 和歌奈さんと星野さんがコソコソと話していたが俺は全く聞こえなかったため、聞き返そうとすると…


「『雪月花』の3人も引き受けてくれるよね!?」


 と、和歌奈さんが3人に聞いたため、聞き返すのを諦めてみんなの会話を聞く。


「そうですね。引き受けたいと思います」

「ウチもやってみたいです!」

「私もみんなの意見に賛成ね」

「そう言うと思ってたよ!」


 俺たちの返答にご満悦の和歌奈さん。


「というわけで、予定がなければ明日にでもダンジョンに行ってほしいんだー!」

「俺は明日で大丈夫です」

「アタシらも明日でいいぞ」

「よしっ!じゃ、明日は9時に集まって新ダンジョンの探索だよ!」

「わかりました」

「あ!それと、明日はどんなモンスターがいるか私も知りたいから、配信しながら探索してね!初めての探索で何があるかわからないから、探索中はスマホを見てコメントに返答とかはしなくていいから!」

「となると、今回はアタシたち『雪月花』のチャンネルか裕哉くんのチャンネル、どちらかで配信した方がいいかもしれないな」


 前回、90階層で『雪月花』の3人とダンジョン内で会った時は、俺のチャンネルと『雪月花』のチャンネル、両方のチャンネルで配信を行った。

 だが、今回はあらかじめ一緒に探索することが決まっているため、両方のチャンネルで配信する必要はない。


「なら今回は『雪月花』のチャンネルで配信しましょう。俺は皆さんの荷物持ちという形なので、基本的に喋るつもりはありませんから。妹と幼馴染さえ見てくれれば、俺のチャンネルで配信する必要なんてありませんし」

「そうか。なら今回はアタシらのチャンネルで配信させてもらおう。一応、事前に裕哉くんのチャンネルで告知していた方がいいかもしれないな。黙ってアタシらのチャンネルに出ると色々と言われるかもしれないから」

「わかりました」

「みんな、私の依頼を引き受けてくれてありがとー!明日はよろしくね!」

「はい!頑張ってきます!荷物持ちを!」

「いや、荷物持ち以外も頑張れよ」


 星野さんからボソっとツッコまれました。




 翌日。

 荷物持ちという役目をもらった俺は『雪月花』の3人とダンジョン探索を行うため、探索予定のダンジョンに向かう。

 集合時間である9時前に到着すると、はやくも『雪月花』の3人が配信を始めていた。

 俺のチャンネルでも事前に『雪月花』のチャンネルでダンジョン探索の様子を配信することを告知しており、俺が荷物持ちで『雪月花』の3人に同行することも告知している。

 美月と紗枝も『雪月花』のチャンネルから配信を視聴するらしい。


「というわけで、今日は新しく発見されたダンジョンの探索を、アタシたち3人と『yu-ya』で行うこととなりました。今回、このダンジョンに入る冒険者がアタシたちが初めてということで何が起こるかわからないため、基本的に視聴者様のコメントを見る余裕はないと思います。その点、了承していただきたいと思います」


〈わかりました!安全第一で探索してください!〉

〈俺たちのコメントなんて無視していいからな!〉


「ありがとうございます」


 星野さんが頭を下げる。

 俺は一通り話し終えたと感じ、自宅から持ってきた荷物を持って、星野さんたちと合流する。


「すみません。遅くなりました」

「いや、まだ集合時間の9時になってないから、謝らなくても………え、待って。なに持ってんの?」


 振り返って俺を見た星野さんが、俺の持っている手荷物について聞いてくる。


「何って、皆さんの荷物持ちをするために持参した海外旅行用のキャリーバッグ2個ですよ」


 俺はみんなに分かるように2つのキャリーバックをみせる。


「えーっと、お前は今から旅行にでも行くのか?」

「そんなわけないじゃないですか。俺も皆さんと同じダンジョンに潜るんですよ」

「海外の?」

「目の前のです」

「………」


〈いや、どう考えてもダンジョンに潜る人じゃねぇww〉

〈1人だけ旅行気分でダンジョンに潜ろうとしてるぞ!〉

〈ダンジョンにキャリーバック持って行く奴、初めて見たわww〉

〈てか、『yu-ya』の奴、本当に荷物持ち要員だったのかよ!冗談かと思ってたわ!〉

〈贅沢な荷物持ちだなww〉


「なんで大荷物なんだ?」

「だって、まだ誰も入ったことのないダンジョンに潜るんですよ。もしかしたら俺や星野さんたちが討伐できないモンスターが現れる可能性はありますし、帰還できなくなる可能性もあります。そのため、何が起こっても問題ないように色々持ってきました」


〈お前が勝てないモンスター出てきたら世界が滅ぶわww〉

〈いくらなんでも持ってきすぎだww〉

〈めっちゃ何を持ってきたか気になる!〉


「えーっと、ちなみに何を持ってきたんだ?」

「はい。ちょっと待ってください」


 俺は星野さんの要望通り、持っているキャリーバックを開け、中身をみせる。


「まずは回復薬ですね。敵のわからない初めてのダンジョンなので、たくさん持ってきました。それと、お腹に入れることのできる食べ物と水もたくさん持ってきました」

「おぉ。ここまでは必要な物だな」


〈コイツに回復薬を持っていくという知識があったとはww〉

〈俺も驚いたww。ケガなんかしたことなさそうだから、回復薬なんか持って来ないと思ってたww〉


「そして次に寝袋ですね。帰還できなかったことを考え、4人分の寝袋を持ってきました」

「うん。万が一のことを考えるとありがたいな」

「はい。なのでダンジョン内で寝泊まりする可能性を考え、寝袋と併せて男女がお泊まりする時に必ず必要となる物もたくさん用意しました」


〈お、おい!「男女がお泊まりする時に必ず必要となる物」だってよ!〉

〈まさか夜に『雪月花』の3人を襲う気なんじゃないか!?〉

〈あり得る!きっとゴムやバイブなんかを持ってきてるはずだ!〉

〈俺も同感だ!愛菜たちと一緒の夜を過ごして襲わない男なんていないからな!俺なら絶対襲う!〉

〈通報しました〉

〈いや通報せんで!〉


「そ、それで何を持ってきたんだ?も、もしかして、この場で見せられないような物とか……」


〈お、愛菜ちゃんも俺たちと同じことを思ったらしいぞ。顔を真っ赤にしてる〉

〈「破廉恥なっ!」とか言ってた愛菜ちゃんが、実はムッツリさんだったとは〉

〈愛菜ちゃん可愛いっ!〉


「見せても構いませんよ」


 俺は星野さんの希望通り、“ゴソゴソ”とキャリーバックを漁る。

 星野さんたちが固唾を飲んで見守る中、俺は様々な道具を取り出す。


「まずはトランプですね。これはお泊まりするにあたって必須でしょう。他にもUNOなどのカードゲームも持ってきました。あ、そういえばトランプって『男女のお泊まりに必ず必要な物』というわけではありませんね。訂正、訂正っと」


「あはは」と俺は笑う。


「修学旅行かぁぁぁ!!!」


 星野さんのツッコミが響き渡る。


〈コイツ、実はこのダンジョン探索、チョロいと思ってるだろww〉

〈帰還できない状況になった時にトランプしとる場合かっ!〉

〈余裕だなww〉


「なぁ、裕哉くん」

「はい、なんでしょうか?」

「ちょっとそこで待ってろ。アタシらで荷物の準備をするから」

「………はい」


 星野さんからの謎の圧により、拒否することはできなかった。

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