第14話 底辺配信者、依頼を受ける。

『閃光』ギルドに到着した俺を星野さんたちが出迎えてくれる。


「今日は裕哉くんに助けてくれたお礼をしたいと思ってな」

「そういえば和歌奈さんからお礼と用事って言われましたね」


 3人のことを助けたつもりはないが、星野さんたちはお礼の品を準備しているようで、手には立派な剣を持っている。

 そんな状態で断るのは申し訳ないと思い、素直にお礼を受け取ることにする。


「アタシらのことを助けてくれてありがとう。この剣はアタシらからのお礼だ。見たところ、裕哉くんの剣はボロボロになってるみたいだったからな」


 そう言って星野さんが俺に剣を渡す。


「ミスリル鉱石を使った剣だ。軽くて『魔素』も通しやすく、何より壊れにくい。裕哉くんにピッタリな剣だと思う。使ってくれると嬉しいな」

「ありがとうございます!」


 俺は礼を言って星野さんから剣を受け取る。

 星野さんが言っていた通り、俺が今使っている剣はボロボロで、いつ折れてもおかしくない状況だった。

 ちなみに、探索中に剣が折れたら殴って倒せばいいかなと思っていた。


「改めて裕哉くん。アタシたちを助けてくれてありがとう」

「裕哉さんのおかげで死なずに済んだわ」

「ありがとうございます!裕哉さん!」


 そして3人が頭を下げる。


「あ、頭を上げてください!俺は助けたと思ってませんから!」

「そうだな。裕哉さんならそう言うと思ったよ」

「そうね」

「はいっ!」


 そう言って星野さんたち3人が笑う。


「じゃあ、ギルマスの和歌奈さんが呼んでるから、このまま和歌奈さんのもとへ案内するよ。ついて来てくれ」

「あ、はいっ!」


 俺は星野さんたちの後を追って歩き出す。

 しばらく歩くと、立派な扉の前に到着する。


「ここがギルマスの部屋だ。中で和歌奈さんが待ってるから」


 そう言って星野さんが“コンコン”とノックをする。


「和歌奈さん。裕哉くんを連れて来ました」

「入っていいよー!」


 とのことで、俺たちはギルマスの部屋に入る。


「久しぶりだね!裕哉くん!元気してたー?」


 そこには俺の師匠で『閃光』のギルドマスターを務める和歌奈さんがいた。

 金色の髪を腰まで伸ばし、25歳とは思えないほど可愛らしい笑顔で俺たちを見ている。


「はい、元気にしてますよ」

「うんうん!昨日、今日の配信を見てたから元気なのは分かってたんだけどね!」

「じゃあ、聞かないでください」

「もう!これは社交辞令ってやつなの!」


 頬を“ぷくーっ!”と膨らませて怒ってる雰囲気を出す。


(相変わらず表情が豊かだなぁ。ギルドマスターじゃなくてアイドルになった方がいいんじゃないか?)


 そんなことを関わる度に思う。

 そう思っていると、ジェスチャーでソファーに座るよう指示され、俺はソファーに腰掛ける。

 星野さんたち3人は和歌奈さんの側で立っている。


「みんなからのお礼の品はどうだった!?」

「とても良い剣ですね。今、使ってる物よりも軽く使いやすそうです」

「でしょ!大事に使ってね!」

「はい!」

 

 俺は折らないようしっかり手入れすることを決意して、和歌奈さんへ話しかける。


「それで、和歌奈さんからの用事って何ですか?」


 ここに呼ばれた理由はお礼と用事。

 お礼は先ほど受け取ったため、俺は用事の件を聞く。


「あ、それはね。裕哉くんと『雪月花』の3人にある依頼をしたくて、ここに呼んだんだー」

「俺と『雪月花』の3人に依頼ですか?」

「うん。最近、東京で新しくダンジョンが出現したことは知ってるよね?」

「はい。SNSとかで話題になってましたから」


 ここ最近はこのニュースしか見てないくらい、話題となっている。


「ダンジョンは出現した当初、ダンジョンにランク付けをするため、どんなモンスターが出現するか下調べする必要があるんだよ。その調査を『雪月花』と裕哉くんにお願いしたいなーって思って」

「なるほど。引き受けてもいいのですが、俺は雑魚モンスターしか倒せないので、星野さんたちの足を盛大に引っ張ります。正直、俺じゃない人にお願いした方がいいと思いますよ」

「いや、アタシらの方が盛大に足を引っ張るから」

「うん。この返答は想定してたよ」


 星野さんと和歌奈さんが何かを呟く。

 聞こえなかったため聞き返そうとすると、和歌奈さんが大きな声で「大丈夫だよ!裕哉くん!」と言ってくる。


「『雪月花』の3人はSランクパーティーなんだよ!だから、裕哉くんが頑張ることなんてないかもしれないよ!」

「っ!そうか!つまり俺は荷物持ちという形で同行すればいいんですね!」

「その通り!」

「分かりました!俺、荷物持ちとして皆さんをサポートします!足を引っ張らないよう頑張りますので、よろしくお願いします!」


 俺は星野さんたちへ頭を下げる。


「さすが裕哉くんの師匠です。弟子を上手くコントロールしてますね」

「私、気づいたんだ。裕哉くんに知識や常識を教えるより、手玉に取る方が簡単だってことに」

「あ、やっぱり知識や常識を教えたんですね」

「うん。でも規格外の力のせいで何も理解してくれなくて。指導初日にモンスターのランクについて教えた時は『え?今倒した80階フロアボスがA級上位のモンスター?ははっ!初心者の俺がA級上位のモンスターを倒せるわけないじゃないですか!面白い冗談言いますね!』って信じてくれなかった」

「………」

「他にも色々と説明したけど『初心者の俺が〜』とかで全然信じてくれなかったから、私は裕哉くんに教えるのを諦めた」

「………手玉に取る方が楽ですね」


 和歌奈さんと星野さんがコソコソと話していたが、俺は全く聞こえなかった。

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