第16話 底辺配信者、荷物持ちの仕事をする。
星野さんの命令により、その場で待機すること約10分。
俺の手には軽くなった海外旅行用のキャリーバッグがあった。
「バックの中には回復薬と食べ物や飲み物、それと一泊する可能性も考慮した最低限の物しか入れてない」
「俺が徹夜で準備した道具たちが……」
そんな感じで、俺が持ってきた荷物の約7割がお留守番となる。
「結局、海外旅行用のキャリーバッグなんか必要ないほどの量になったが、手頃なバックがなかったから、このキャリーバッグを持って移動してもらう。大きくて邪魔になるとは思うが我慢してくれ」
「あ、その点は大丈夫ですよ。このキャリーバッグなら何度もダンジョンに持って行ってますので慣れてますから」
「………そうか」
〈持って行ったことあるんかいっ!〉
〈だから旅行気分でダンジョンを探索するなww〉
〈相変わらず何かがおかしいぞww〉
「なぁ、裕哉くん。念のため言っておくが、アタシたちが今から入るダンジョンは出現モンスターが分からず、ダンジョンのランクが分からない。もしかしたら、このダンジョンがSランク以上の可能性もある」
「それは困ります。俺じゃ、S級モンスターに一瞬で殺されますから」
「あー、うん。そうだな。瞬殺されるな」
〈瞬殺されねぇよ!〉
〈絶対あり得ないからww〉
〈むしろ瞬殺するからww〉
〈愛菜ちゃん、ツッコんで!〉
「だから気を引きしめて探索しなければならない。荷物持ちの気分で来てるようだが、アタシたちが対応できない時は戦ってもらうからな」
「っ!そうですね。心の中でSランクパーティーである『雪月花』がいるから大丈夫だと思い込んでいました。俺もダンジョンに潜る以上、気を引き締めないといけませんね」
俺は星野さんに注意され、自分の行いを反省する。
〈愛菜ちゃんに注意されてようやく気付いたか〉
〈ダンジョンにトランプ持っていくとか頭おかしいからww〉
〈やっぱり今回のダンジョン探索、余裕だと思ってたんだなww〉
俺は自分の両頬を叩く。
「よし!では、さっそくダンジョン探索を始める!気を引き締めていくぞ!」
星野さんの言葉に俺たちは頷き、ダンジョンへと入った。
新しく出現したダンジョンに入る。
「やはり、このダンジョンも1階は敵がいないな」
どうやら、このダンジョンも今まで発見されているダンジョンと同じく、1階層にモンスターが出現しないようだ。
「ということは、このダンジョンも1階層を訓練場として使っても大丈夫そうですね」
俺たちはモンスターが出現することのない1階層を『魔素』に適応できるかの判定や、『魔素』を自由自在に使えるように特訓する場所として使っている。
俺もダンジョンの1階層を使って和歌奈さんから指導してもらった。
「じゃあ、長居せずに2階へ行きましょう」
「そうだな」
俺の言葉に星野さんが同意し、2階を目指すため階段を探す。
しばらく探すと階段を見つけることができ、2階層へ足を踏み入れる。
「ここが2階ですね」
「あぁ。どんなモンスターがいるか分からないから気を引き締めて行くぞ」
「えぇ」
「分かりました!」
星野さんの掛け声にそれぞれが返事をして歩き始める。
すると、「グァァァァァァッ!!」という咆哮が聞こえてくる。
「っ!今の咆哮って!」
「あぁ!レッドドラゴンだろう!」
「ってことは、このダンジョンは2階層からS級モンスターが出現するってことですか!?」
「そうなるな!」
星野さんたちの顔に緊張が走る。
〈おい!このダンジョンやべぇぞ!〉
〈2階層からS級モンスターが出るダンジョンなんか聞いたことねぇよ!〉
〈はやく帰還した方がいいよ!絶対、レッドドラゴンの他にもヤバいモンスターいるって!〉
しかし、俺はこの咆哮に聞き覚えがありすぎるため、星野さんの発言に訂正を入れる。
「この咆哮はレッドドラゴンじゃありませんよ。雑魚モンスターの咆哮です」
「え、そうなのか?一昨日90階層で聞いたレッドドラゴンの咆哮に似てたからレッドドラゴンかと思ったんだが」
「確かに、一昨日90階層で出会ったモンスターの咆哮という点は合ってます。ですが咆哮したモンスターはレッドドラゴンではありません」
「ん?じゃあ誰の咆哮なんだ?」
「『空飛ぶトカゲ』の咆哮です」
「レッドドラゴンじゃねぇか!」
星野さんから大きな声でツッコミまれる。
〈結局レッドドラゴンかよ!今の時間、無駄だったじゃねぇか!〉
〈それなww〉
〈マジで逃げた方がいいぞ!今ならすぐ近くに1階へ戻る階段がある!〉
〈急げ!レッドドラゴンに囲まれたら終わりだぞ!〉
〈なーんだ。このダンジョンも雑魚モンスターしかいないダンジョンかぁー。お兄ちゃんと『雪月花』の3人が強敵と戦うところ見たかったのに〉
〈ホントそれ。雑魚に用はないから、もっと強いモンスターを出して〉
〈ちょっ!レッドドラゴンを雑魚呼ばわりしてる奴がいるんだけど!頭、大丈夫か!?〉
〈〈〈〈大丈夫じゃないです〉〉〉〉
〈コメント欄の団結力すごいな!〉
「っ!やべっ!レッドドラゴンに見つかった!」
俺たちは数100メートル先に『空飛ぶトカゲ』がいるのを発見する。
同時に『空飛ぶトカゲ』も俺たちの存在に気づく。
「急いで逃げましょう!」
「そうね……って、待って!ファイヤーボールが来るわ!」
園田さんの言葉通り、『空飛ぶトカゲ』が口の周りで火の球を形成している。
そして、「ゴォォォォォッ!!」と、俺たち目掛けて1つのファイヤーボールが放たれる。
「マズイっ!防御が間に合わないっ!」
〈ファイヤーボールが飛んで来たぞ!〉
〈急いで防御しろ!死ぬぞ!〉
〈逃げろーっ!〉
迫り来るファイヤーボールを視認しつつ星野さんたちの状況を確認すると、3人とも防御を取れる状態でないことを把握する。
「ってことは、荷物持ちの出番だな」
「は!?なに言って……」
俺の呟きに星野さんが驚きの声を上げているが、今は説明してる暇などないので無視する。
俺はキャリーバッグを転がしながら、3人とファイヤーボールの間に一瞬で移動する。
そして、キャリーバッグを『魔素』で強化し、キャリーバッグで迫り来るファイヤーボールをフルスイングする。
すると“ボオッ!”という音と共にファイヤーボールが霧散する。
「「「はぁ!?」」」
〈ちょっ!この男、キャリーバッグでドラゴンの攻撃を消し去ったんだけど!〉
〈おかしいだろ!普通、キャリーバッグが燃えるわ!〉
〈キャリーバッグ強すぎっ!〉
どうやら『空飛ぶトカゲ』も俺のバッティングセンスに驚いているようで、動く気配がない。
「持ってる荷物で攻撃を防ぐ……これが荷物持ちの仕事よ」
「荷物持ちにそんな仕事ねぇよ!」
星野さんが大きな声で叫んでいた。
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