第6話、報復・・してやる
大きなソファーがゆったりと設えてある 広くて上品な部屋。
城の応接室と思いきや 王家のプライベートルームの一つなのだとか・・。
そこには数名の人間と一匹のネコが微妙な雰囲気の中にいた。
「母上・・・なのですか」
「お前でも やはり一目では見抜けぬか・・何なら、お前の恥ずかしい昔話を皆の前で語っても良いぞ」
皇太后であり国の魔術師の頂点であったロスティアが消息不明となり城内は大混乱。最後に目撃された現場の状況は何が有ったのか理解に苦しむ凄惨なものだった。
一時その生存は不可能であると思われた。
ところが、その後 心配していた王の下に
伝令
さすがの王も宰相も この報告には対応するのに少なくないタイムラグが生じた。
その後、詳しい情報が届き 事と次第がハッキリするも 納得いくものではない。
危険が無い事を確認した後に関係者が集められた。
もはや直接に事実を確認しなくては混乱するばかりでハッキリしないのだ。
集められた中には憮然として 不機嫌な顔を隠す事も無いハルカの姿もあった。
「まぁまぁ。お母様ったら、可愛らしい姿になられました事」
ロスティアが懸念した通りカワイイもの好きな王妃は今にも子猫を抱き寄せて頬ずりしそうである。
最初から一番遠い位置に布陣していなければ 電光石火の速さで捕獲されていただろう。
「して、そちらの可愛らしいお嬢さんが召喚されて来たという・・母上をネコに変えた者なのだな」
「ぷっ」
事情を知るマラカ王女は思わず笑いをもらしていた。
それもそのはず、今のハルカの姿はドレスを
現に事情を知らない城の者達は 王女の後ろを歩く同じような年頃のハルカを見て 例外なく「王女の遊び相手」と思い込んでいた。
侍女のレレスィは喜々としてハルカに女装をさせてしまった。
当然、ハルカは猛烈な抗議をしたが、「城に子供の服は これ以外無いのですよぉ」と聞く耳持たなかった。
勿論 大ウソである。
たとえ本当に無かったとしても城から注文が有れば商人なら最速で品物を用意するに決まっているのだ。
ハルカは顔を真っ赤にして俯いてしまう。
屈辱であった。日本でも 子供の時にこの手の羞恥プレイは有ったのだが、その時はまだ本当の子供であったため ダメージは少なくてすんだ。
しかし、今は精神的には28歳のオッサンなのである。
おまけに反論したくとも言葉が思うように話せない。
「幼くして これ程の魔法が使えるとは、母上が命をかけて呼び出すのも理解できるな」
「こんなカワイイ娘なら何人呼んでも良いわ」
と、王妃も喜んでいる。
普通の王族は「下賤の者など城に入れるな」的な反応をすると思うのだが夫婦共に気楽なものである。
自分たちが呼び出したハルカに対して何の警戒心も無いようだ。
そんなお花畑な様子にハルカは復讐する事すらアホらしい労力に思えてきた。
「まったく・・気楽なものよのぅ。
引退していたとは言え あれ程の数の魔術師が命を落としてまでハルカを呼んだのは何の為だと思っておるのじゃ」
「むうぅ、確かに・・不謹慎であったな」
(俺がここに拉致された理由は何なんだ)とハルカの思考が研ぎ澄まされる。
ハルカが未だ大人しく羞恥プレイにまで耐えているのは 召喚された本当の理由が知りたい為だ。
それ次第では全魔力を持って城ごと消し飛ばすつもりでいた。
会話の内容がようやく核心部分に近づいたようだ。
「しかし、不思議な魔法を使うのは分かるが見たところ魔力の総量は普通に見える。・・聖樹を活性化するには不十分なのではないかね」
聖樹?今回のカギとなるだろうワードが出て来た。
「ふん、単に魔力を注いで解決するなら苦労はせん。
わしらはとっくに聖樹の前で命を捨てておるわ。あれは何か別の原因があるにゃ」
「では、その為にこの子を聖樹と会わせるつもりなのですわね」
「にゃ、(おっとこの体では発音し易い方に流されてしまうのぅ。)
聖樹の回復を祈って召喚を行いハルカが選ばれたにゃ。
必ず何か意味が有ると思っておる」
どうやら その聖樹とやらを見てみないとハルカを呼び出した原因に近づけないようである。
「では行くぞ。母上を信じよう。時間が無い」
さっそく 問題の聖樹とやらの許に出向く事となった。
王族が動くには異例の速さと言える。
王の言葉通り問題の聖樹に時間的なゆとりが無い事を物語っている。
ハルカにとっては実に都合の良い展開であった。
急な動きであるにも関わらず外に出ると既に二台の馬車が用意されていた。
王家一行が出かけるのに護衛は近衛が少数である。
馬車で城の敷地から出ると既にそこは聖樹の為の広い庭園となっていた。
都の中心に作られた木を守るためだけの広大な広場である。
恐らく一般人は立ち入り禁止だろう。
あの場に居た王族の面々と警護の近衛騎士、そして何故か姫さま付きの侍女レレスィだけは同行し、ゾロゾロと聖樹の為の敷地を歩いている。
長い間の運動不足、さらに子供の歩幅と成ったハルカにとって虐めのように思えるキツイ行軍だった。
何故、王様達まで来るかと言うと、都を守護している聖樹とやらに参拝するのが毎日の日課とのこと。
毎日歩くとなると大変な距離だと思うのだが、あえて日課として残しているのは王族の大切な運動にもなっているのだろう。
「どうにゃ、ハルカ。これがサラスティアの都を守護する聖樹にゃ。
これのお陰で都から歩いて二日までの間には魔物も盗賊も入って来れないにゃ。
敵の軍隊が強引に入り込めば兵は実力の半分も出せなくなる。ゆえに負けは無い。
この国に無くてはならない木なのにゃ」
ネコのロスティアはハルカの肩の上に乗り込んで偉そうに語りだした。
聖樹なんて言うから世界樹みたいな姿を想像をしていたが、
見た感じは横に広がった巨大なキノコのような姿であり
根元の地面には魔道具であろう大きな杖?が立てられ先端の魔石のようなものがユラユラと光っている。
足元は腐葉土でありフカフカで木の根を苦しめないように気を使っている。
聖樹に対して色々と手を尽くしているのが伺えた。
神を祭るがごとく神聖な場所なのであろう。
にも拘らず、皆が過剰に心配するのが納得できるほど聖樹は弱っていた。
離れた所では 世話役の庭師らしき数名の男が膝を付いて臣下の礼を取っている。
ハルカはこの場に近づくほどに怖気を感じて鳥肌が浮き立っていた。
ものすごい不快感が押し寄せて来る。
自然とその歩き方も挙動不審レベルまで不自然になっていく。
不自然なハルカの様子に気が付いて近衛が一気に警戒する。
やはり子供とは言え余所者である。まして並みの魔法使いではない。
近衛騎士達はハルカの一挙手一投足に全神経をもって警戒していた。
そんな緊迫した空気の中それを無視してハルカはレレスィに近寄り耳打ちしていた。
「あらー。トイレなら あそこの物置小屋の裏手に有るわよぉ」
こっそりと耳打ちしたのが台無しである。
ハルカが本当に少女だったら羞恥で泣きだしていたかもしれない。
だがこの一言で場の空気が弛緩する。
ハルカは皆が苦笑いする中をレレスィに連れられてお花を摘みに行く。
「ハルカ・・大丈夫かしら・・」
「そうねぇ。少し心配ね」
「緊張したんだろう。腹が痛いわけでもるまい」
「「・・・・」」
レレスィの性癖を知っている王女と王妃はハルカの貞操を心配していたのだが、
いまだにハルカを女子と思い込んでいる王様には通じなかったようだ。
そういう鈍い所は この世界の男も変わり無いようだ。
女性からは白い目で見られる鈍さだが、こんな男達だからこそ女性のお化粧という魔法に騙されてくれるのだ。
化粧前と化粧後の比較を雑誌でやっているのを見るとまるで別人に見える。
男から見たら「詐欺だろこれ」と叫びたくなる程の劇的な違いだ。
正にバケモノである。
巧妙な化粧に
王族の面々が所定の位置まで歩いた頃に侍女のレレスィが追い付いてきた。
ハルカは足の遅さからやや遅れて付いて来る。
「・・・動くな」
やがて戻ってきたハルカは皆に合流する手前の離れた場所で いきなり魔法を行使した。
ほぼ警戒が解かれ油断した隙を突いた一瞬の出来事。
魔法に精通しているロスティアですらその予兆を掴めなかったほどだ。
「ぬっ、これは結界の魔法。わしらを閉じ込めたつもりか?。レレスィ解除せよ」
「これは・・濃密で繊細な術式ですねぇ。
解除は出来ますが、長い時間と私の魔力の全てを使う必要があります」
「ハルカ、貴方 何考えているんですの?。王様にこんなことして、重罪ですわよ」
「・・重罪?。知るか・・。今から・・報復・・してやる」
言うなり、ハルカの頭上には数えきれない光の矢が作り出されていた。
明らかに攻撃魔法である。
矛先は全て聖樹に向けられている。
「聖樹を攻撃する気か。いかん、何としてもやめさせろ‼」
慌てた近衛たちが 剣で結界を切りつけ、魔法をぶつけても全く効果は無かった。
ハルカの魔法は地球のイメージで出来ている。この世界で組み上げられたそれとは作りが別物と言って良かった。
地球のゲーム野郎が見たら思わず「チート野郎」と悪態を付くレベルの異質なものだった。それを打ち破るには何倍もの労力を要するだろう。
「まずは・・邪魔な・・あれ」
一際大きな光の矢が数本、正確に聖樹の周りに立てられた魔道具と思しき杖を粉砕し、そのまま地面を貫き 大きな振動を立てていた。
自分達の職場を荒らされた為か庭師たちが必死で駆けつけて来るが全員足に魔法の矢を打ち込まれ立つ事すら出来ずに転がっていく。
「ハルカ・・それがお主の仕返しにゃ・・」
ハルカの足元で 如何する事も出来ないネコのロスティアが悲しい声を出している。
「当然だ、呼ばれた・・恨み、晴らして・・やる。良く見てろ」
聖樹を滅ぼす事、それ以上 この国にとって打撃となるものは無いだろう。
まさに聖樹が引き金となってハルカは召喚されたのだ。
聖樹が彼にとって最も憎むべき根源であることを一同は失念していた。
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