9.神は万能ではない
元々が女性向けコンテンツなので、人型が美少年なのも納得だ。
だがルクスさんの人型が例えヨボヨボのおじいちゃんでも、二メートル越えの岩のように筋肉質な男性でも受け入れられる自信がある。
「そうか」
「今後も飲み物とか飲みづらかったら人型になっても構いませんよ? 服さえ着てくれれば! 全裸はダメです!」
人型がどんな見た目であれ、全裸はダメだ。ノーモア全裸。
「はぁ……分かった。何か着る。だからそう全裸全裸何度も繰り返すな」
「本当ですか!?」
「ところで服はどれを着ればいいんだ?」
「んー、ルクスさんの服となると尻尾穴が必要ですよね。今度専用の服を作るとして、とりあえずはワンピース着てください」
クローゼットから真っ白なワンピースを取り出す。
これは去年の誕生日にお祖父様からもらったものである。
何度か着てはいるものの、普段着は可愛さよりも実用性。
なんだかんだで手が伸びるのはいつも着ているシャツとパンツばかり。クローゼットの肥やしになりつつあった。
だが植物のツタの刺繍は可愛いし、見えにくい場所にある深めのポケットはまさしく私のために用意してくれたものだ。
そのポケットなら干し芋も入れておけるし、ルクスさんも気に入ってくれることだろう。
なによりふんわりと広がる裾は尻尾があるルクスさんにはぴったりだ。
「ちょっと着てみますか?」
「うむ」
ポンっと美少年姿になった彼は先ほどの服を身につけておらず、シンプルな半袖と短パン姿であった。
幻影とはいえ、下着ではないところがありがたい。
頭からワンピースを被せ、後ろのボタンを留めていく。ウエストのリボンは尻尾の邪魔にならないように少し高めの位置で括る。
「専門の方に頼みたいけど、尻尾のあるお客さんからのオーダーって受け付けてくれるんでしょうか? 普通の服買ってこちらで手直しするべき? 尻尾の穴の留め具はボタンとフックあたりがいいかな〜と思うんですけど、ルクスさんはどれがいいとかあります?」
「やはりお前はよくわからんよな」
「紐派ですか? でも紐だと激しく動いた時解けないか心配じゃないですか?」
「そうじゃない」
「さすがにスリットは無理ですよ? ドラゴンの尻尾って重そうですし」
そう考えるとワンピースが一番楽で過ごしやすいのだろう。
だがまた人前であの姿になるかもしれないと考えると、やはり一着くらいは男性ものの服も用意しておきたいところだ。
ついでなので物置から数年前に着ていたものも引っ張り出してきて、ルクスさんの身体に合わせてみる。
十着合わせて、サイズがあったのは初めのものを入れて三つ。
これだけあればしばらくは着るものに困らなさそうだ。
ルクスさんのお着替えが終わり、サイズが合わなかった服を戻す。
すると窓の外から人の声がした。どうやら王子達が帰るらしい。
窓から見下ろしていると、サルガス王子と目があった。慌てて小さくお辞儀をし、去っていく馬車をしばらく眺める。
馬車が見えなくなると、代わりのものが窓の外に映り込み始めた。
「雨、降ってきましたね」
細い線のような雨。空は晴れているのに珍しい。
お天気雨は縁起がいいとされているが、今の私は窓に張り付いて本降りにならないことを祈るばかり。
「亀達が壊れませんように」
「壊れてもまた作ればいいだろう」
「そうですけど、亀達に会えるはずが直前で邪魔されて、後日行ったら崩れてたとかショックじゃないですか!」
「天候は神すら気軽に触れられぬ領域だ。諦めろ」
「神様も万能じゃないんですね」
「何体もいる神が好き勝手したら大変だろう」
「確かに好き勝手に酒の池とか作られたら困りますもんね」
酒池肉林なんて言葉があるが、酒の池があちこちにあったら目がシパシパしそうだし、肉の林なんて表面がパサついてそうだ。
油とかもどうなっているのか気になるし、賞味期限とかの概念がどうなっているのかとか考えてしまいそう……。
一生生え続ける木よりも出来立てのシュラスコの方がいい。
たまに違う部位とかパイナップルとかも食べたい。
「我なら酒ではなく牛乳の池を作るがな!」
「牛から絞らないと牛乳じゃないですよ」
「なら牛をいっぱい飼う! もちろん芋畑も作るぞ!」
「それは酪農と農業なのでは」
「紅茶も育てさせよう!」
邪神と呼ばれる彼がフンフンと鼻息を荒くさせて語る理想は、この大陸のどこかにありそうな、そんな平和な世界であった。
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