第2話

 扇風機のぶ~んと機械音が居間に響き渡る。とにかく暑かった。それでも家の窓を吹き抜ける風は気持ちよかった。とろとろと眠くなってくる。そのまま横になって目をつむった。意識が底に底にと落ちていく。


 タヌキの子がおどる タヌキの子がおどる

 ポンポコ ポンポコ ポンポコ ポンポコ

 アオダイショウが舌をチョロチョロと出して

 クネクネとおどりながら話しかけてくる

 「僕はネズミを食べるんだよ」

 「まあともかく遠いところからよく来たね!」

 「かんげいするよ」

 アオダイショウがしっぽを出してくる。

 タヌキの子はしっぽをにぎる。

 「よろしくね!」

 「まあ、楽しんで!」


 そこへ、

「蒼くん、蒼くん」

 だれかに呼ばれている気がする。

「蒼くん、蒼くん、起きて! ご飯だよ!」

意識がぐう~と持ち上がってくる。目をそろそろと開けようとするが、まぶしい。目をこする。おばさんが僕の肩を叩いている。

「もう夕飯の時間だよ!」

「もうそんな時間?」

「そうだよ」

 時計を見ると時計の針が6時を差していた。祖父が

「手を洗ってきなさい」

「分かった」

 台所まで行って蛇口をひねる。冷たい水が出た。手を洗った後、両手でお盆の形を作って水をため一息に飲む。からからになった喉に冷たい水が通り抜け胃の中に入っていく。すごく良い気持ちだった。思わず何杯も飲んだ。

 遠くから、祖父の声がした。

「何をしているんだ。早くしなさい」

「分かった~!」

 急いで食卓に着く。おばさんが、

「今日のご飯は、茶がゆと漬物よ」

 思わず自分のお茶碗を見る。茶色い液体にご飯が入っている。

 いただきます、をすると、おじさんが茶がゆを食べ始めた。僕も茶がゆを食べる。ほのかにお茶の味がする。

「これはお茶のおかゆ?」

 おばさんが、

「そうよ。番茶を煮出して作ったおかゆよ。お口に合うといいのだけれど・・・・・・」

「おいしいです」

 おばさんはおほほと手を当てて笑う。

「そう言ってくれるとこっちも作りがいがあるわ」

 茶がゆはおいしくて何杯も食べたくなる。そのとき、ふと手のひらサイズのクモが天井に張り付いているのが見えた。大きいだけでなく毛むくじゃらだった。思わず、

「おじいちゃん、クモ・・・・・・」

 祖父は

「怖くないから。毒はないから。むしろ害虫を食べてくれるいいクモなんだぞ」

「そうなんだ・・・・・・」

 おじさんも笑う。

「あれはアシダカクモと言ってゴキブリとか食べてくれるほんとうに良い奴だ」

 おじさんはいつの間にかお酒を手酌で飲んでいた。

「蒼くんはでっかいクモ見るの初めてか?」

「うん」

 おばさんがおじさんに言う。

「あまり酔っぱらわないでくださいね」

「分かっているよ」

 そのあともおじさんは手酌でちびちびとお酒を飲んでいた。

 夕ご飯が終わりしばらくのんびりと外を見ていた。いつの間にか外は暗くなった。

「そういえば星は見えるのかな?」

 おじさんが言う。

「見えるよ。たくさん見えるよ」

「ちょっと見てきていい?」

 おばさんが

「いいわよ。あまり遠くに行かないように。帰れなくなるから」

「分かった~」

 クツを履いて外に出る。田んぼで青い稲が揺れているのが分かる。カエルが声をあらん限り上げて叫んでいる。


 ゲコゲコゲコ ゲコゲコゲコ ゲコゲコゲコ

 ゲコゲコゲコ ゲコゲコゲコ ゲコゲコゲコ


 それに外はまっ暗だった。街灯もないので本当にまっ暗だった。しばらく暗やみに目を慣らそうとしたが暗やみの怖さが勝ってすぐさま家の中に帰った。

 祖父が、

「あれっ、星を見るんじゃ無かったのか?」

「うん・・・・・・」

「星は見られたの?」

「見られたっていうか。あの、すごく暗くて帰って来ちゃった・・・・・・」

 その時、家中で笑い声が響いた。

「蒼くんはなんて言うか・・・・・・。びびりすぎじゃない」

 僕は何も言えずにただ、ぽりぽりと頭をかいていただけだった。

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