風の記憶

澄ノ字 蒼

第1話

 少年の名前は蒼。小学校4年生。蒼は頭を刈り上げていて、まただいぶ腹が出ている。黒い丸いメガネをかけていて、学校では豚タヌキメガネとか言われていた。

 今日は祖父と田舎に来ていた。祖父は160センチくらいの身長で小柄である。もともと祖父は幼い頃田舎に住んでいて、中学から都会に出て住み込みで勉強していたらしい。祖父は世界大戦を経験している。祖父に戦争の話を聞こうとしたことがある。祖父は一言しか語ってくれなかった。

「戦争はむごいよ」

 と。祖父は戦争の心労で20代からすっかりはげてしまい、今では普段、帽子を被っている。


祖父の実家に行くと、おじさんたちが迎え入れてくれた。

「よくまあ、遠いところからいらっしゃって」

 祖父は帽子をとっておじぎをする。

「宜しくお願いします」

 僕がぼけーとしていると、祖父に頭をはたかれた。

「蒼もあいさつしなさい」

 その時、はっと気づいた。そして、僕も

「宜しくお願いします」

 周りを見渡してみると、土とかで作ったのだろうかコンロみたいになっていてその上に鍋が置いてある。さっそく、

「これは何ですか?」

 おばさんは笑いながら、

「都会ものは見るの初めてかな。これはカマドというものだよ。昔はこれで料理をしたりしたのだよ」

「今でも使っているの?」

「いや、使ってないよ。何しろ手間が掛かるからねえ。木を伐りだしてマキを作ってとか。今はガスを使って料理をしているわよ」

 居間にこれまたまん中に囲炉裏があった。囲炉裏というのは、


wikipedeaによると、

屋内に恒久的に設けられる炉の一種。床を四角く切って開け灰を敷き詰め薪や炭火を起こすために使われる。


らしい。教科書とか日本昔話とかで囲炉裏というものを知ってはいたが、見るのは初めてだった。

「これは囲炉裏ですよね?」

「よく知っているね」

「マンガで見た」

 そこで、祖父が

「ちょっと落ちつくんだ」

 おばさんが、

「まあまあちょっとクツを脱いで上がりなさいよ」

 祖父が「そうだよ」といって、クツを脱いでさっと居間に上がる。僕もクツを脱いで上がる。囲炉裏のそばにすわると、おばさんが麦茶を出してくれた。

 それから祖父とおじさん、おばさんは話し始めた。祖父がお土産を出す。

「これは、これは。ありがとう」

 おばさんとおじさんが言う。その後、大人同士の世間話というものが始まった。

「もう数世帯しか残っていない」とか聞こえてきたが、僕は手持ち無沙汰気味になったので、外を眺めていた。大空に分厚い入道雲がそびえ立ち、緑色と赤色のした木々の覆われた山々が、アブラゼミの鳴き声とともに存在感をかもし出していた。そこへ庭になにかにょろにょろしたものがゆったりと横切っていく。ヘビだ。思わず叫んだ。

「ねえ、ヘビがいる!」

 ヘビはくすんだ緑色をしており、たてじまが入っている。

「あれはアオダイショウだね」

「毒はあるの?」

「ないよ。むしろネズミとか食べてくれるから。すごくいいヘビだよ」

 ヘビのきょとんとした顔が特徴的だった。アオダイショウはそのまま、軒下へと消えていった。

「何? 怖いの?」

「いや、そうじゃなくて、ヘビってきょとんとした顔をしているんだね」

 おじさんがあっはっはと笑う。

「子供って独特の感性をしているね!」

 おばさんがよっこらっしょ、と立ち上がる。

 奥からいくつものおにぎりを葉っぱで巻いたものが出てきた。

「これは何?」

「これはめはり寿司だねえ。おにぎりを高菜の葉っぱで巻いているんだよ」

 そこでおじさんがうんちくを語ってくれた。

「一説には目を見張って食べるくらい大きいこととかから来ているらしいんだよ」

「へええ~」


 ここで祖父に、

「手を洗いに行くから一緒に行こう!」

 その後、昼御飯になった。頂きますというと、めはり寿司にかぶりついた。甘塩っぱいそしてすっぱさが癖になる味だった。

 改めてめはり寿司を頬張りながら外を眺める。何か冒険が始まりそうな、そんな予感がした。

 めはり寿司を四つ目食べて五つ目に手を伸ばそうとしたところ祖父に、

「太るからもう食べるのは止めておきなさい」

 と言われた。おばさんにも、

「蒼くんはよく食べるわねえ」

 と言われてしまった。とほほ・・・・・・。

 夜になると、田舎で体験したことを基に原稿用紙に小説を描いていた。

 起きているのは自分だけである。ふとそこに一匹のタヌキが窓から入ってきた。そしてしばらくうろうろしていたかと思うと、僕の原稿用紙を眺めると寄ってきてしばらく読んでいるようにみえたが、ふっとまた窓に飛び乗って夜の闇に消えていった。

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