三、

剣術狂いを自称する男がたおれても、他の男たちは微動もしなかった。


「さすがは、隠密。見事な腕じゃの」

新次郎の正面に立った頭領とおぼしき男が、淡々と言った。

そして懐中から鎌のような物を取り出した。


鎌——それは、鎖鎌くさりがまであった。

携帯用に小さく作られたと思われるその武器は、月光に冷たく光っていた。


男が分銅付きの鎖を、頭上でヒュンヒュンと回転させ始めた。

同時に、新次郎の背後でも、分銅の唸る音がし始めた。


(後ろにも鎖鎌が、一人・・・)

新次郎は、無形の位のままだ。


ヒュッ!


頭領らしき男が、口笛を発した。

間髪を入れず、鎖鎌以外の男たちが、刀を左手に持ち替え、懐から何かを取り出した。

それは木製と思われる、卵型の物だった。


(目潰しか!)

そう察知した左近の口から、

「我が名は、如月左近!」

と、気合いのような声が、発せられた。


「馬鹿が、隠密が名乗って、何とする!」

嘲った頭領と思われる男が、

れ!!」

号令した。


覆面の男たちが、一斉に目潰しを、分銅を左近に投げつけようとしたその時、左近の手元から、無数の紙片が吹き上がった。


その、数え切れないほどの紙片は、やがて無数の蝶々の群れへと、姿を変えた。


「おおっ!?」

「なんと!?」


覆面の男たちが驚きの声を上げる間に、蝶の群れは、その色を白から赤、黄、黒、紫、あるいは五色ごしきへと、様々に変じて宙を舞った。

そして、意志のあるもののように、集団で男たちに襲いかかった。


「うわあっ!」

「な、何だ!?」


蝶の集団は、男たちの顔を目掛けて、まとわり付いてくる。

男たちは、目潰しや分銅を投げるのも忘れ、蝶を振り払うのに必死だ。


その様を見ながら、左近が低い声でつぶやいた。


「フフフ・・伊賀忍法 朧蝶おぼろちょう


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