二、

「囲め!!」

一団の頭領なのか、恰幅の良い黒覆面が叫ぶと、男たちは新次郎を円形に取り囲んだ。


新次郎は、片手で素早く深編笠を外し、投げ捨てる。

と、新次郎の正面に立った男が一人だけ、ゆっくりと前に出てきた。


「隠密どのの、お手並を拝見しよう」

他の男たちは、動かない。

中には、苦笑を浮かべているものもいた。


「わしは、剣術狂いでな」

男は、言った。

「我らの仕事には、ある程度以上の剣の腕は要らんが、わしは、剣術が面白うてのう」


言いながら男は、ゆっくりと剣を八相はっそうに構えた。

左近は、正眼に取っていた刀を片手持ちにし、ダラリと剣尖を下げた。


「ほう、柳生新陰流と見た」

男が、嬉しそうに口元を緩めた。

この男、余程の剣術狂いらしい。


左近の、この剣尖を脱力したように下げた形は、新陰流「無形むぎょうくらい」と言われるもので、基本の構えであった。

(新陰流では、「かた」とはいわず、「くらい」と言う)


「参るぞ」

男は、呟くように言うと、柔らかな足取りで歩み寄って来た。


(ーー忍びだ!)

その歩みは、侍のものではなかった。


男が、月光を煌めかせて、八相から斬り下ろす。

左近が、無形の位から、それを迎え撃つかのように、斬り上げた。


シャッ!!


金属が擦れ合うような響き。


二、三歩行き違って、お互いに振り向いた。


「・・・・・・」


僅かな静寂。


やがて、覆面の男の首筋から、音を立てて血か吹き出した。




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