42:視えちゃった


「なるほどね」


 再び粉々になった【マジカル☆測る君@4号】の方を見ながらツカサさんがつぶやく。


「あぁ! またやりやがったな、コラ!」

「マジで、すみません……」

「ニャンキーちゃん大丈夫よ、また作るから。それより体は大丈夫?」

「あっ! ごめんなさいツカサさん……なんともないです、ありがとうございます!」

「よかったわ。でも無茶したらダメっていつも言ってるでしょ?」

「はい……アイツが大事な【マジカル☆測る君@3号】を壊したから、つい……」

「大事なのはニャンキーちゃんの体の方よ、あんな的はいつでもいくつでも作れるんだから」

「はい……」


 さっきまで暴れていたとは思えない従順さだ。

 口調もまるで違う。


「しかし……10000マジカでも駄目って言う事は、多分ケイオス君の【物理】の力ね、きっと」

「俺の【物理】が?」

「人や魔物以外には発揮出来るっていう話だったわよね?」

「あ! そういえばそうだった。それであんな粉々に……」


 魔力じゃないのか……道理で。

 それよりツカサさんと先生は顔見知りのようだが。


「……ツカサさん、先生とはどういう関係で……」

「ああん? てめえ、誰に向かって口聞いてると思ってんだ、コラ!」

「ニャンキーちゃんダメよ。ケイオス君は私の……大事な人なのよ」

「ガーン! だ、大事な人……」

「ええと、それでどういうご関係で……」

「ああん? それが人にものを訪ねる態度なのか、コラ?」

「もう!」


 むぎゅ!


 ツカサさんが先生のほっぺたを両手で挟んで押しつぶした。


「ふぎゅ! ひゅかしゃしゃん!」


 先生がほっぺたをつぶされたまま喋っているのが、マジ可愛い。


「ダメよ、ケイオス君にも優しくしてあげてね?」

「で、でも……」

「だーめ! わかった?」

「は、はい……」


 可愛い大戦は無事、決着したようだ。






「ニャンキーちゃんは私の妹分なのよ」

「い、妹……分?」

「そうだぞ、コラ? 敬え、コラ?」


 要約すると……

 孤児だったニャンキー先生がスラムで暴れていた所をツカサさんが捕まえて教育したらしい。

 元々生まれ持った魔法術の才能が異常すぎたニャンキー先生はツカサさんが弟子にする必要も無く1人前と認められた。

 そしてツカサさんの【妹分】と言うポジションになったらしい。

 教師の仕事は、ニャンキー先生の更生の一環としてツカサさんが斡旋したようだ。 

 ちなみに口調は元々荒かったようだが、読み書きの勉強資料として異世界の不良物語を読んでいたそうだ。

 元々の雰囲気と口調がどうだったか知らんけど、子供になんつうもの渡すんだ。


「ちゃんと計測出来てないけど、ケイオス君が1位という事でいいかしら?」

「ツカサさんがそう言うなら……」

「よしよし、良い子ね♪ ……で、何か異論がある人は居るかしら?」


 ずっと成り行きを見守っていた生徒達をツカサさんが見渡す。

 測定1位に何か意味があるんだろうか。


「いくらツカサさんの言う事でも魔力0のゴミは認められないですよぉ」

「ふん、下賤な血の者が上に立つなどあってはならん、意義ありだ」

「「「「「「そうだそうだ」」」」」」


 テカテカ金髪バカールと上から目線のジャンを中心に貴族っぽい生徒達が集まって文句を言いだした。


「……だ、そうだけど、ケイオス君、最速だと何秒でいけるかな?」

「そうですね……4、50人って所なので……2秒で」


 意味を察して俺は返答する。


「えーそれじゃ一瞬すぎて見逃しそう!」

「私が録画しておきます」

「テレサちゃん……いつのまに……」


 テレサさんが映像保存用の魔道具を持って背後に立っていた。


「じゃあ、あとでスロー再生してじっくり見ようかしら♪」

「いつでもどうぞ」

「って事だから、不満のある皆、前に出て構えなさい。合図したら戦闘開始よ」

「「「「「は?」」」」」


 何の説明も無く話が進んだので皆が驚いている。


「ケイオス君 vs 身の程知らずの口だけ貴族×50の対決よ♪」


 ツカサさん煽らないでくださいよ……

 貴族の集団がすげえ俺を睨んでる。


「じゃあ……スタート!」

「「「「しねええええええ」」」」


 一斉に魔法が放たれる……事は無かった。


 スタートの合図の直後、貴族の集団は全員白目をむいて倒れた。


「やっぱり見えなかった!」

「ばっちり撮れました」

「テレサちゃん流石♪」

「お、おい、なにしたんだコラ?」

「全員殴りました」

「全員って、今の一瞬でか、コラ?」

「はい、手加減してるので気絶してるだけです」

「ば、ばけもんじゃねーかてめぇ、コラ!」


 まあ、一部の生徒には昼休みの件での私怨もあったが。


「じゃあ、1番確定♪ ケイオス君誰と組む?」

「組む?」

「あー、知らずにやってたのね。【リューシクス杯】への出場ペアの相方を測定上位順に指名出来るのよ」

「【リューシクス杯】とは……」

「あーそこからかぁ……とりあえず相方はアガサちゃんにしといたら?」


 分からん事が多すぎるが組むなら信頼できる近しい人がいいな。

 この中で言えば該当するのはアガサさんしか居ない。

 アドラーさんの方が点数は良かったが……得体が知れない。

 先程の【闇属性】の事も気になる。


「わかりました、アガサさんさえ良ければよろしくお願いしますって……え!」

「アガサちゃん?」


 アガサさんがぐったりとして目を閉じて座っている。

 ツカサさんが慌てて駆け寄る。


「……大丈夫、少し魔力を使い過ぎて疲れたみたいね」

「良かった……」

「……そう言えば、さっきアガサちゃんが普通に喋ってたわね……」

「ああ、なんかたまに急にたくさんどばーっと喋ってくれる時があって……」

「急に……どばーっと……まさか……アガサちゃんまで……?」


 ツカサさんが何やら考え込んでいる。


「……やっぱり、ケイオスくんのペアは別に人に……」

「ダメ!」

「! アガサちゃん起きてたの?」

「……ツカサ姉さん、ケイオスさんは……私が組まないと……」

「もしかして……視えたの?」

「はい、はっきり視えました。大会でケイオスさんが……」


 話があまり見えないが2人とも真剣な顔だ。


「ケイオス君が……どうなるの?」

「視えました……ケイオスさんが……死んでしまう未来が……」


 え? 未来? 死ぬ?




 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る