41.破壊、ダメ、ゼッタイ!


「アタイの【マジカル☆測る君@3号】が~!」


 ニャンキー先生が半泣きで魔法の的が設置されていた場所へ走っていく。


「あの的、名前……付けてたの……」

「うわぁーん!」


 ニャンキー先生は【マジカル☆測る君@3号】が粉々になった場所で泣きだした。


「「「「「「じー」」」」」」」


 皆、俺を責めるような目で見ている。

 いやいや、俺のせいですか?

 ……俺のせいですね……


「先生……すみません……」

「! てめぇ! どう落とし前つけんだ、コラ!」

「どうしたら……」

「あれはなぁ! ツカサ大総長に作ってもらった大事なモンだったんだよ、コラ!」

「ツカサ……大総長?」

「そうだ、コラ! ツカサさんを呼び捨てにすんな、コラ!」


 大総長って何……

 どういう関係性なのコレ。


「死んでワビろや、コラァァ!」

「いっ?」


 ニャンキー先生はピンクの火の玉を複数出現させて俺に投げつけてくる。


「うお!」


 シュシュシュシュシュ ボボボボボボン


 コレ本気で〇りに来てるんじゃ……


「てめぇ! 何避けてんだ、コラ!」


 火の玉が当たらなかったからか、今度はピンクのリボンの様なものを飛ばしてくる先生。


「オラァ! そいつぁどこまでもテメェを追いかけんぞ、コラ!」

「マジデスカ……」


 すごいスピードでリボンが伸びてくるが避ける事は出来る。

 だが本当にどこまでも追尾してくる。


「おい……いい加減逃げるの……やめろや、コラ」


 避けてもリボンの軌跡はずっと残ったままだ。

 気づけば演習場中がリボンまみれだ。


「……コラ……てめぇ……なめ……んじゃねえぞ、コラ」


 ん? 追尾が止まった。


「あ」


 見ると、先生が倒れている。

 って、リボンがものすげえ量になってるな……

 逃げるのをやめて先生に近づく。


「えっと……先生?」

「……」


 生きてるよな?

 うつ伏せになって倒れている先生を仰向けにし、恐る恐る顔を覗き込む。


「これは」

「まずいですね、魔力欠乏症です」

「魔力欠乏症?」


 いつのまにか背後にアドラーさんが居た。


「魔力を限界以上に使い過ぎた事が原因です。意識不明で身体機能が著しく低下しています」

「え!」

「このままだと最悪、心停止の可能性も……」

「えええ! ど、ど、どうすれば!」

「魔力を注入のが一番ですが、他人に魔力を注入するのは非常に難易度が高いのです……おそらく出来る人は限られるかと」

「そ、そんな……」


 おいおい、こんな事で死なせていいわけねえぞ。


「それ以外に方法は何かないんですか!」

「ぁの!」

「あ、アガサさん!」

「私が回復魔術をかけます、ですが根本的解決では無く、あくまで一時しのぎにしかならないです! それでも少しの間は身体機能の低下は避けられます。魔力欠乏症は怪我や病気では無いので魔力を注ぐ、または自然治癒でしか回復しません。もう少し症状が軽ければ魔力回復ポーションを摂取するなどの方法も可能だったのですが……ここまでの状態になるとポーション飲み込むのが困難なので厳しいです……。私には魔力注入は出来ないので時間稼ぎしか出来ませんが、姉さんなら……ツカサ姉さんなら出来ると思います! ケイオスさん、私が時間を稼いでいる間に姉さんを連れて来れないでしょうか? 今とれる最善な方法はこれくらいしか……」


 また、アガサさんが沢山喋っている。

 それだけ状況がひっ迫しているという事だろう。

 周りの生徒たちは急にものすごい量喋ったアガサさんに驚いて呆然としている。


「わかりました、全速力で連れてきます。アガサさん、少しの間、お願いします」

「はい! 信じて待ってます!」


 アガサさんにいつものオドオドした感じが全くない。

 火事場に強いタイプの人なのかもしれない。


 っと、そんな場合じゃない。

 マジで最速で探して連れてくる。

 まずギルドへ。


 俺は大勢低くして力を溜める。


 グググググッ バシュッ


 溜めた力を解放しギルドの方へ超ジャンプする。





 スタッ


 ギルド入口前に着地する。

 何度か文字通り飛んできたからもう慣れた。


「すみません! ツカサさんは居ますか!」

「ケイオスさんっ! どうしたんですかっ、そんなに慌てて?」


 ターニャさんが慌てて駆け寄って来た。


「学園の先生に命の危険が迫ってて治せそうなのがツカサさんだけみたいで!」

「! 今丁度、部屋にいらっしゃいますっ!」

「ありがとうございます!」


 そう言い残し、階段を駆け上がりツカサさんの部屋へ。


「ツカサさん!」

「! ど、どうしたの? ケイオス君」

「後で説明します! とりあえず失礼します!」

「え? え?」


 そう言ってツカサさんをお姫様抱っこする。


「け、ケイオス君……こんな急に……嬉しいけど……心の準備がって、ええええ」



 ツカサさんを抱えたまま階段を駆け降りる。


「! ケイオスさんっ! ツカサさん! いってらっしゃい!」

「行ってきます!」

「え? ええ?」


 ツカサさんは戸惑ったままだが、後で説明しよう。

 ギルドを飛び出し、再び足に力を溜める。


「ツカサさん、飛びます」

「え? 飛ぶ?」


 グググググッ バシュッ


「えええええ……」








 スタッ


「連れてきました」

「……ってココは……学園?」

「ツカサ姉さん! よかった! 凄く早かったですね、ケイオスさん!」

「はい、超急ぎました!」

「あ、アガサちゃんが……普通に喋ってる……」

「ツカサ姉さん! ニャンキー先生が魔力欠乏症に!」

「! 見せなさい!」


 アガサさんを見て呆けていたツカサさんが急に真剣な顔つきになる。

 抱き抱えられていた俺の腕から飛び出しニャンキー先生に駆け寄る。


「アガサちゃんが回復して進行を止めてたのね、コレなら治せるわ、大丈夫よ」

「良かった……」


 ツカサさんがニャンキー先生の手を取ると握った部分がぽわっと光る。


「魔力を送ったから少ししたら起きると思うわ」

「すみません、ツカサさん説明もなく連れ出して……」

「ううん、魔力欠乏症は酷い状態だと死んでしまうから、急いで正解よ、アガサちゃんも頑張ったわね」

「ありがとう……ツカサ姉さん……」

「で、ニャンキーちゃんはなんでこんな事に?」

「えっと……実は……」


 事情をツカサさんに説明した。




「なるほど……【マジカル☆測る君@3号】をケイオス君が壊しちゃったのね、跡形もなく……」

「すみません……」

「仕方ないわよ、それだけケイオス君が凄って事だし♪ それにあれならすぐ作れるから大丈夫よ?」


 そう言うとツカサさんが何かを呟いた後、地面に魔法陣が浮かび上がり【マジカル☆測る君@3号】のピンク色バージョンが出てきた。


「怒ってたみたいだしニャンキーちゃんの好きなピンク色にしてみたの♪」

「おお、流石ツカサさん……」

「流石は貴方よ、ケイオス君」

「え?」

「【マジカル☆測る君@3号】は5000マジカまでは測定可能だったんだけど、それを壊すなんて……」

「「「「「「5000」」」」」」


 先生が倒れたり、俺が飛んだり、ツカサさんが急に現れたりした驚きで呆然していた生徒たちが反応している。


「今度は壊れないように10000マジカまで大丈夫にしたから♪」

「そうですか、それなら俺も測れるかな?」

「ちゃんと動くかチェックしたいからやってみて? ケイオス君のカッコいい所見たいし♪」

「そうですね、ミィ、行くぞ!」

「キュイ!」


 先ほど同様、その場で回転して勢いをつける。

 ギュルギュルギュルギュル!


「……うーん、ギュルギュルうるせえな、なんだよ……ってツカサ大総長! それにあのピンクの【マジカル☆測る君@3号】は!」

「あ、起きたのねニャンキーちゃん、前のは壊れちゃったみたいだから新しくもっと凄いのを作ったから早速ケイオス君に試してもらってるの」


 ギュルギュル俺が助走の為に回ってるうちにニャンキー先生が起きた。

 もう勢いがつき過ぎてて今更止められない。

 一旦測定してからさっきの事を先生に謝ろう。


 ギュルギュル バァン! パラパラパラ……


「あ」


 【マジカル☆測る君@4号】は跡形もなく粉々になった。







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