40:マジ可愛い、マジかっけえ、マジ怪物


 アガサさんが急にすごい喋った。

 びっくりしすぎて放心しているとチャイムが鳴った。





「クラスごとに分かれて整列しろや! コラ!」


 午後の授業は実戦訓練。

 少し遅れた俺は演習場に入るなり怒鳴られた。

 他のクラスとの合同授業らしい。


「オラ! ダラダラすんな! さっさとしろや! コラ!」


 こんな口調だが先生らしい。

 口調よりびっくりするのはその見た目だ。

 なんと10歳くらいの幼い女の子なのだ。

 ピンク色の髪でぱっつん前髪のお団子ヘアー。

 白衣みたいなのを着て長い杖を振り回して甲高い声で怒鳴っている。

 荒い口調と見た目のギャップでマジ可愛い。


「位置についたら杖かまえろや! コラ!」


 俺は慌ててアガサさんとアドラーさんの横に並ぶ。

 が、杖……は持っていないな。


「てめえ……なんで杖もってねえんだ、コラ?」

「すみません、今日通い始めたばかりで……」

「だとしても杖くらい持ってくるだろうがよ! あ?」

「それが……魔力0で……」

「……あ?」

「魔力0で」

「あ? つかてめえ誰だ、コラ?」


 ものすごい近くまで来て睨まれている。

 この先生は背が低いから一生懸命背伸びしながら俺を睨んでいる。

 小さい子にしか見えないから怖いと言うよりマジ可愛い。


「なーんでそんなやつがここにいるんだ、コラ?」

「……編入試験に受かりました」

「魔力0がどうやって試験に受かるんだ、コラ?」

「ニャンキー先生、彼はスライムをテイムして戦うのです」


 アドラーさんがフォローしてくれた。

 っていうか、この先生の名前よ。

 ニャンキー先生っていうのか、名前までマジ可愛いか。


「スライム? テイム? 上等だ、やってみろ、コラ!」

「わかりました。ミィ、出てきてくれ」

「キュイ!」

「「「「「おお」」」」」」


 突然服の中から出て来たミィにクラスメイト達が驚いている。

 こんな事もあろうかとシャツの中に張り付いてもらっていた。

 ずっとはむはむしてたみたいで少しだけちくちくしてたけども。


「お、おい! 随分可愛らしい相棒だな! 撫でるぞこのヤロウ! コラ!」


 ニャンキー先生がだらしない笑顔でミィをなでなでしている。


「キュゥ」

「なんだお前? 可愛いな、このこの」

「「「「「……」」」」」


 ミィを夢中でつんつんなでなでしている先生を皆が注目していた。


「は!」


 沢山の視線を感じた先生が我に返った。


「な、何見てんだこのぉ! ぶっ放すぞ! コラ!」


 ぷんぷんと怒りながら杖を振り回すニャンキー先生。


「「「「「マジ可愛い」」」」」」


 みんなそう思っていたのか。


「てめえらいいから黙ってあの的に向かって魔術を撃て! まずアタイが手本を見せてやるぞ、コラ!」

「「「「はい」」」」

「オラァ!」


 シュッ ボボウンッ!


 先生がピンク色の炎の球を的に向かって投げた。


 ピピピピ! 1400マジカ!


「「「「「おおお」」」」」


 的に魔術を当てると威力が数値化されて的から飛び出してくる仕組みの様だ。

 1400の文字が先生の頭上に浮いている。

 シュールな絵面だがわかりやすくていいな。

 先生の1400が高いのか低いのかはわからんが、皆のリアクション的には低くはなさそう。


 どうでもいいがあのピンク色の炎は何属性なんだよ。


「ざっとこんなもんだぞ、コラ! てめえらもやってみやがれ、コラ!」


 皆が次々に得意魔術を的にぶつけて数字を出していく。

 軒並み、300前後の数字が並ぶ。


 Sクラスの面々はまだ撃ってない様だ。

 A~Cクラスにはそれほど差が無い様にも見える。

 クラス分けの基準は総合評価だったから上位クラスが強威力の魔術ってわけでは無いな。


 Aクラスまで全員が魔術を打ち終えた所での最高点は450。




「僕あまり魔術の威力には自信が無いんだよね」


 眼鏡の勉強が出来そうなアイン君だ。


 ボォッ! ピピ! 550マジカ!


「「「「おおお」」」」


 いきなり最高記録が出た。



「……次、俺」


 ゴツイ不愛想なウーム君。


 ガキィン! ピピ! 500マジカ!



 

 どうやら出席番号順に撃っていく様だ。


 3番。活発元気なキャロルさん、630マジカ。

 4番。クール過ぎエーベルさん、750マジカ。

 5番。テッカテカ金髪バカール、690マジカ。

 6番。上から目線な金髪ジャン、480マジカ。

 7番。ドリルヘアーのベルさん、650マジカ。

 8番。接しやすそうなザック君、530マジカ。


 全員流石はSクラスというべきなのか、Aクラスまでの最高点450を全員が超えている。


 っと、次は……


「……ぁぃ」


 アガサさんだ。

 そういえばアガサさんはどんな魔術を使うんだろう?

 タバサさんは風で、ツカサさんは雷だったが。


「……!」


 ん? んん?


「!」


 なんか口をパクパクさせながら魔術を展開させたアガサさん。

 声は聞こえなかったが。


 ブゥゥゥン!


 アガサさんの頭上に光の剣が現れた。

 なんだアレ!

 マジかっけえええ!

 ってか物理的な剣は無くても魔法の剣はあるんかーい!


「「「「「おおおおお」」」」」」


 生徒達も感嘆の声を上げている。

 明らかにこれまでの生徒達とはレベルが違う。


「ぇぃ!」


 アガサさんが手を振りかざすと光の剣が的を一刀両断する。


 ザシュィン! ピピピッ! 1200マジカ!


「「「「「おおおおお」」」」」」


 ニャンキー先生にも迫る点数だ。

 皆から、アガサさんへ拍手が送られた。


「ぁぅ」


 アガサさんは恥ずかしそうに俯いて俺の隣に走ってきた。


「めちゃくちゃカッコいい魔術でした! すごいですね、アガサさんって!」

「!」


 剣士の俺にとっては、心にグッとくる魔術だった。

 アガサさんは更に顔を真っ赤にして照れ臭そうに笑った。


「俺も負けない様に頑張りますよ!」

「!」


 アガサさんは俺にこくこくと頷きながら応援するようなポーズをとっている。


「その前に私の番だな」


 そうだった。

 出席番号順でいうと残りは俺とアドラーさんだけだ。


「アガサさんにとても良い魔術を見せてもらったから私もとっておきをお見せしよう」

「!」

「とっておき……ですか」


 わざわざとっておきって言うんだから自信があるんだろう。


 初対面の時から思っていたがこの人、なんだか奇妙な感じがする。

 同級生……には見えない落ち着き。

 時折感じる底の見えない実力。

 そして、何故か既視感のある会話。


 うーん、わからん。


 今はとりあえず自信満々の魔術をしっかりと【視て】やろう。


「いきます」


 アドラーさんがそう宣言した後に、何かをつぶやいて魔術を展開する。

 真っ黒で巨大な魔方陣が浮かび上がると中から真っ黒い竜が現れた。


『ゴォォォォガァァァ』


 耳をつんざくような竜の咆哮。

 そして竜は的へ向かって突撃していく。


 ガガガガガガッ


 黒い竜は的を通り抜けて宙に消えた。


 ピ、ピピピ……1800マジカ……


「「「「「マジか」」」」」


 先生より高い点数。

 そして【視た】事実にさらに驚いた。

 【闇属性】魔術だ。

 何故……

 【闇属性】は特別なはず。


「おぃ! やるじゃねえか! 魔術はなんかキモかったが、コラ!」


 ニャンキー先生は素直にアドラーさんを褒めている。

 先生が自分より点が上だからと、キレて逆上してなくて良かった。


 先生から褒められたアドラーさんは俺の方をニヤリとしながら見ている。


 おぅ? なんか挑戦的な笑みだな!


 闇属性とかどうでもよくなり、負けず嫌いの血が騒ぐ。


「最後は俺ですね!」


 ――おい、あいつって……

 ――Sクラスだけど魔力0らしいぞ……

 ――タバサさんのストーカーっていう噂の?

 ――今はアガサさんにもつきまとってるらしいよ?

 ――処すべし! 処すべし!

 ――そんな事よりアガサさんが尊い。

 ――ってかあのスゴイ魔術の後の出番、かわいそ。

 ――もっとすごいかもしれんぞ?

 ――いや、でも魔力0だからな……


 なんかとヒソヒソ話がうるせえな!

 余計に火がついた。


「ミィ! 全力でいくから手に!」

「キュキュ!」


 ミィが俺の【水色の右手】になる。


「はぁぁぁぁぁぁぁ!」


 その場でクルクル回転し目一杯勢いをつけ全力のスピードを乗せて的を殴った。


 バァーン! パラパラパラ……


「あ」

「「「「「「え?」」」」」」


 拳が当たった瞬間、的が粉々になった。


 ピ……ピ……マジ……カ……




 え? 何点なのこれ。






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