39:銃じゃない方のマシンガン


「ぁ……ぁの」

「ああ、アガサさんですよね、ツカサさんから聞いてます、これからよろしくお願いします」

「ょろしく、ぉねがぃしまぅ」


 昼休み、アガサさんの方から声を掛けられた。

 人見知りが激しいと聞いていたが、これはかなり重症だ。


「お昼をタバサさんが一緒に、って言ってたから行きましょうか?」


 タバサさんが居ればもっと話してくれるだろうか。


「ぁ、はぃ」


 コクコク頷きながらアガサさんは俺のシャツとちょこっと握った。

 なんだろう、キュンときた。


「お姉さまぁ……って、コラァ! 変態ィ!」

「え? うお!」


 タバサさんが猛ダッシュでアガサさんと俺の間に割って入った。


「油断も隙も無い! お姉さま、無事ですか!」

「う、うん、大袈裟だょ、タバサちゃん」

「ケイオスは変態癖があるのでご注意くださいませ! さっ! 行きましょ!」

「ぅ、うん?」

「変態癖って……」


 アガサさんの手を引いてズカズカと食堂の方へ歩いて行くタバサさん。

 変態と罵倒された直後に言うのもなんだが、ものすげえ絵になる美人姉妹だなおい。


 歩いているだけで二人は周りの生徒達の注目を集めている。


「なにうちのお姉さまをジロジロ見てんだコラァ!」


 おぅ、狂犬タバサ現る。

 お姉さま大好きっ子がここまで重症とは。


「ケイオス! 迷子になるわよ!」

「ならんわ! ……いやなるかも!」


 食堂がどこか知らない俺は慌てて二人について行く。






「うおおおおお! すげえウマそおおおおお」


 無茶苦茶豊富なメニューだ!

 肉! 魚! 野菜! デザート!

 食べた事も無いような料理も沢山だ!

 食券の様を買って注文する仕組みの様だ。

 でもなんかビュッフェみたいなのもある!

 こんなの初めて見たよ!

 これは学園へ通う楽しみになるな。


「ふふん! この食堂はお姉さまとヘキサさんとテレサさんでリフォームして、メニューをプロデュースしたのよ!」

「すごすぎ! よだれがとまらん!」


 アガサさんもコクコクとうなずいて同意している。


「元々この学園は色々とあちこちダメダメだったのをお姉さま達が立て直してくれたのよ」

「さすがだなぁ、ツカサさん達……っと、そういや俺、お金持ってないんだけど」


 数回ギルドで依頼受けたからギルド預金に少しは有ったかな……


「大丈夫よ、ギルド証をスキャンすればギルド預金から引き落とされるから」

「おおぉ! カッコいい仕組み! ってかギルド預金が足りなかったらどうすれば!」

「月末にまとめて引き落とされるから、月末までに稼ぐしかないわね」

「頑張ります……」

「仕方ないから私も付き合ってあげるわよ、師匠だし?」

「ありがとうございます!」

「……ぁの、私も……」

「お姉さまは駄目よ! 魔物とかケイオスはとっても危険なのよ?」


 魔物は良いとして俺も?


「で、でも……タバサちゃんは……」

「私は大丈夫なの! 変な奴が来たらぶっとばすから! でもお姉さまは優しすぎるから危ないの!」

「……」

「俺たちと一緒なら大丈夫じゃないですか? アガサさん強そうだし」

「!」


 アガサさんが俺を見て笑顔でコクコクと頷いている。


「うーん、でもやっぱり……ツカサお姉さまに聞いてみないと……」


 なんだろう、タバサさんの方が年下なのに、この差は……


「ひとまず今は食事よ! 稼ぐ前提で好きなだけ食べたら?」

「そうしよう! 腹が減った!」

「……」


 アガサさんは少し寂しそうに笑っている。

 気になる感じだ。

 タバサさんと比べて過保護すぎる。

 そもそもツカサさんのお友達になってっていうお願いもそうだ。

 そんな事を考えながらアガサさんをじっと見ていたら目が合った。


「?」


 コテンと首を傾げて微笑んでいる。


「さあ! 美味しいやつを選びましょう!」


 コクコクと頷くアガサさん。






「アンタ、そんなに食べきれるの?」

「いける! 食う子は育つと言うでしょう!」

「言わないわよ、どうでもいいけど残したら怒られるわよ」

「残さない!」

「ふふ」


 おぉぉアガサさんが笑っている!


「! ケイオス! また変態な顔してる! お姉さま油断してはだめよ!」

「!」


 ああ、せっかくの笑顔が困った顔に……


「いいから早く食べなさい! 私この後、午後の授業の準備があるのよ」

「そうなんですか、それはすみません、気にせず時間が来たら戻ってください」

「……まあもう食べ終わりそうだし大丈夫よね、先に戻るわよ?」

「タバサちゃん……ぁりがとぅね」

「ううん、当たり前よ! お姉さまを守らないと! 主にケイオスから!」


 なんでだよ。


「じゃあ、また!」


 食事を終えたタバサさんは嵐の様に去っていった。


「俺たちはまだ時間があるのでゆっくり味わいましょう」

「ぁぃ」


 アガサさんは優しく微笑んでくれた。

 ご飯がうまくなる笑顔だ。




「おーっと、ごめんよー!」


 バシャー


 急に頭から何かをぶっかけられた。


「あーこんな所に平民の屑が居るとは思わなかったよ、すまないねぇ」

「でもほら、コイツ元から薄汚い平民だから大丈夫じゃないか?」

「あーそれもそうだねぇ、むしろ高いお茶のお陰で浄化されたんじゃないか?」


 お茶をかけられたぽい。

 例の金髪貴族二人だ。

 多分だけど結構高温だったぞ。

 俺じゃなければヤケドしてる。


「……」

「薄汚い平民は消えろ、アガサさんの食事まで穢れるだろう」


 あー本当飯がまずくなる。

 っと。

 アガサさんが怒った顔で二人を睨んだ。

 金髪達が少し怯んでいる。


 んー良くない雰囲気だ。


「アガサさん! 一瞬待って! んぐ! もぐもぐ! んぐ! もぐ!」

「!」


 俺は残っていたハンバーグとパスタとパンと魚のフライを口に全部まとめて頬張った。

 そしてアガサさんに向かってオッケーサインを指でつくった!

 残したらダメだからな!


「もぐもぐ……もぐもぐ……」


 もぐもぐしながらアガサさんの手を引いて食堂を出ようとする。


「!」


 ん? アガサさんが俺の手を引いて立ち止まる。

 良かれと思って連れて出ようと慌てて食べたんだが……

 アガサさんは自分でテーブルに戻って残っていたパンを頬張った。


「んぐ! ……もぐもぐ」


 小さい口で無理やり頬張ったから口からパンが飛び出している。


「ん!」


 アガサさんはパンを加えたまま俺に笑顔でオッケーサインをしてみせた。

 可愛すぎか!

 残したらダメだからね!


「もぐ……もぐもぐ……いきましょう……もぐもぐ」


 金髪貴族達が俺に怒鳴っていると先生が出て来て二人は注意されていた。

 どうでもいいので無視してアガサさんと二人でもぐもぐしながら食堂を出た。






「ぷはぁ、美味しかったですねーご飯」

「! はぃ」


 二人で中庭の芝生に座って一息ついた。


「午後からの授業、頑張りましょうね!」

「! はぃ」


 笑顔でコクコクと頷いてくれている。


 距離感が縮まらない。

 友達認定される為にも、ダメ元で聞いてみるか。


「あと良かったら火魔術を教えてもらえませんか? タバサさんより得意だって聞いたので」

「!」

「ギルドの依頼こなしながら実戦的に! とかなら余計嬉しいな……ダメですか?」


 先ほどギルド依頼を一緒にやりたそうしていたから誘導してみる。


「! も、もちろんです!」


 おぅ! 急にデカい声で返事をしてくれたのでびっくりした。


「ああ、それじゃさっそく今日の……」

「火魔術はタバサちゃんより少し得意なので私にも教えられることがあるかと思います! ついにでにご興味が有れば雷魔術なんかも少しお教え出来るかと! あと私は魔術科ですが魔法も得意なので知りたい事があれば何でも聞いてください! むしろケイオスさんは色々スゴイって聞いていますし、異世界の事は興味しか無いので私の方が聞きたい事が多すぎて困るくらいです! お時間あればいくらでも私はお付き合いしますので、嫌じゃなかったら私の質問とかにも少しだけ付き合ってもらえたら! あと厚かましいですが、タバサちゃんが居ないと私ひとりで食堂にいけないので、これからタバサちゃんが居ないときでもお昼をご一緒出来たらと思ったんですがダメですか? 美味しそうに食べてるケイオスさんを見てると私もいつもよりご飯が美味しく感じたので! あ、ギルドの依頼については今まで姉と妹としかこなした事が無い駆け出しの2つ星なんですが、魔物についての知識だったり、土地勘などには自信があり私がフォロー出来ますので是非一緒にあちこちへ行きたいです! ケイオスさんが良ければですが! ……あ! あ、ぁ、ぁ……ごめんなさぃ、私……ぁぅ」


 追放された時よりびっくりしたわ。





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