36:※クーラさんと魔王と勇者
「勇者本人では無くて?」
「ああ、勇者ではない。おそらく魔族全員でも太刀打ち出来ないレベルだ」
「……全員ってマリアと私達も含めて?」
「そうだ、話にならないと思う」
「そんな……」
サーラの話に絶望的な気分になった。
平和的にひっそりと暮らしてきて、やっと仕えるべき魔王が見つかった所だったのに。
「とにかくはぐれ魔族の討伐をしながら、勇者達の監視に回る、マリアは北の城へ」
「そうね、はぐれ魔族が勝手な真似をして人間達を刺激したら困るもの」
マリアは一旦、人間の息のかかっていない北の大地へ移した。
私は転移魔法が使える為、皆への連絡役として港町に滞在する事となった。
ー・ー
「え? 会わせたい人が居る?」
「はい、とても強いニンゲンです」
「多分、だれも勝てない、強すぎるニンゲン」
ドグラとマグラから報告があがって来た。
もしかして以前サーラが言っていた人間かしら……
「会うって……私達をまとめて一網打尽にする気では……?」
「話し合いした方が良い、アレが本気になったらどこに逃げても同じ」
「私もそう思う、逃げても無駄」
「そこまで……」
ドグラとマグラは魔族の中でも強く誇り高い方だ。
その二人が完全に白旗をあげている。
「わかったわ、会って話をするわ」
ドグラとマグラが連れて来たのは見た目平凡な青年だった。
だが青年から感じる圧倒的な力は平凡とは言い難かった。
二人の言っていた意味を瞬時に理解した。
「俺はケイオスだ、戦うつもりで来たわけでは無い」
「そ、そう、安心したわ……勝てるイメージが全くわかないもの……」
その後、平和的な解決が出来ないかと話し合いをした結果。
「魔王には死んでもらう」
そう言われた瞬間頭に血が上りそうだった。
しかし、よくよく話を聞いてみると……
はぐれ魔族達を偽魔王に仕立てて、偽魔王を勇者に倒させるという作戦だった。
願っても無い提案だった。
ただ、話は魔王に会ってからだと言われ、躊躇う。
こんなバケモノの様に強い青年を魔王に会わせて大丈夫だろうか?
話してみた印象は、毒の無い良い人間の様に見える。
「それもそうか、それなら俺を縛って自由を奪っていいぞ、それなら安心だろ」
そこまで言われては断れない。
そもそも我らに選択肢はなかったのだと思い出した。
この強大な力の青年にあらがう術はない。
私は一足先にケイオスの事をマリアに話す。
「会う! 会いたい! すぐ連れて来て!」
マリアが目をキラキラさせている。
何故だろう? 我々を脅かす程の存在だと言うのに。
しかしそのマリアの表情の意味はすぐにわかった。
「ケイオスが運命の旦那様だという事が♡」
どうやらマリアはケイオスに惹かれた様だ。
魔族は強い者に惹かれる傾向にあるが……
実際、マリアとケイオスが戦う光景を間近で見て再度思った。
ケイオスとは絶対に敵対してはいけないと。
「もー! クーラったらいいじゃない! 人間最強のケイオスと魔族最強の私が結ばれる♡」
正直、不安が大きいがそれが叶えばそれに越したことは無い。
ケイオスとマリアが居れば勇者だろうがなんだろうが負けるはずがないのだから。
ー・ー
「僕に従うんだ」
ココはどこだろう。
私は何をしてるんだろう。
何も思い出せない。
この人間は……勇者?
「僕は君の主だ」
人間が私の主?
何故?
駄目……
何も考えられない。
「ワカリマシタ」
「良い子だ、まずは本当の魔王の事を全部話すんだ」
「ケイオスがまさかそんな事をしていたとはねぇ……しかも強い?」
「ハイ、ゼッタイニカテマセン」
「魔王でも?」
「ハイ、マオウハイチゲキデ、タオサレマシタ」
「魔王を一撃って尋常じゃないねぇ、魔王って強いんだよね?」
「マオウハレベル99デス」
「それを一撃ってどう言う事だよ! ムカつくなぁ、たかが【剣士】のくせに」
「……」
「仕方ない、君のスキルツリーをいじらせてもらうよ」
「……」
「うーんと、たしか……あったあった、【異世界送還】これこれ」
「……」
「癪だけどコレでアイツをどっかに飛ばしちゃおう、ついでに操れない魔王も」
「……」
「よし、習得済っと、呼ぶまで異次元で待機して待っててよ」
「ハイ」
「ああ、異次元の中で死なない様にちゃんと飲み食いはしといてよね、ほらこれ」
「アリガトウゴザイマス」
「手間がかかるなぁ、僕がこの体じゃないならもっと他の事もさせるのになぁ、勿体ない」
「……」
「人形みたいでつまんないなー」
「……」
「ふん、まあ役に立てば何でもいいんだけどね」
「……」
ー・
「ははっ! 勇者のボクを敬わず【剣士】ごときが調子に乗った罰だよこれは! やれ」
私の意思とは関係なく体が動く。
私の魔法でケイオスさんは次元の彼方へ消えた。
「ははは! やったぞ、邪魔者は消えた! 後は魔王さえい無くなれば!」
「……」
私の……私のせいで……
ー・ー
「魔王だけでなくケイトまで嗅ぎまわってるとは」
「……」
「二人とも目障りだなぁ」
「……」
「多分、そろそろここに来るとおもうんだよねぇ、昨日コソコソとこのあたりをうろついてたからさ」
多分、ケイオスさんの様にマリアも飛ばされてしまうだろう。
私のせいで……
時折意識が戻るがどうする事も出来ない。
指一本自由に動かすことが出来ない。
少しの間こうやって思考がもとに戻るだけだ。
そして自分の罪を自覚する。
なんという地獄だろう。
「よし、異次元に僕も隠れて不意打ちするかぁ」
「……」
「二人で来られたら同時には飛ばせないからねぇ」
「あ! ココよ! ココにケイオスが居たはず!」
「ホントだ! ケイオスの匂いがする!」
ああ、マリアが来てしまった。
ケイオスに続いてマリアまでこの手で……
「あ! これケイオスの匂いがする!」
「どれ? 指輪?」
二人目がけて【異世界送還】を放つ私。
「! 危ない!」
「え? きゃ!」
人間の女がマリアを庇って異世界に飛んでいった。
「ちっ! ケイトに当たったか、先に強い魔王を飛ばしたかったが」
「だ、だれ?」
「初めまして、魔王さん、ボクは勇者だよ?」
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