閑話:ケイオス追放前の裏側

35:※クーラさんの悩み


 ※10年くらい前の時間軸の話です。



 ー・ー・ー・ー



 【魔王】、魔族で最も強いものに冠される称号。


 それは正しくもあり間違ってもいる。


 最も強い者に冠されるわけだから魔王は常に存在している。

 だがその魔王は真の【魔王】ではない。

 真なる魔王とは【世界の理】によって選ばれた者だ。


 【ワンドール】には真なる魔王が長らく不在だった。


 現在、魔王と冠されているのは時空間魔道士のクーラだ。

 クーラ本人は望まなかったが最も強い者が魔王と言うのは覆らない。

 魔族は本能的に強い者に従う傾向が有る為だ。(はぐれ魔族は例外)


 クーラは魔法の探求に熱心で才能も有った。

 その結果、不本意ではあるが魔王になっている。


「はぁ、面倒」


 クーラは魔王などやめ、魔法の研究している方が性に合っていた。

 自らの時空間魔法を研究しているクーラには夢があった。


「世界はいくつも存在しているはず! いつか……」


 王族が度々おこなったと記録のある異世界召喚。時折現れる異世界人。

 これらはワンドール以外の世界の存在を証明していた。

 クーラは自らの【時空間魔道士】は異世界へ渡る力が有ると確信していた。


 クーラが異世界に執着するのには理由があった。

 ワンドールには異世界人からもたらされた知識・文化が溢れている。

 そのどれも素晴らしい。衣服、家具、料理、建築、そして物語だ。


「はぁ……はやくこの続きが見たいわ……」


 クーラはため息を付きながら手元の小説に目落とす。

 続きが何年も出版されていない小説だ。

 クーラは異世界の文化、特に物語に夢中なのだ。


 小説の続きが出ないのには理由がある。

 その小説を書いた異世界人は続きを知らない。

 元の世界で見知った物語を、ワンドールでそのまま書いただけなのだ。

 結末までは知らなかったようだから出版されるはずがない。

 クーラはどうしても続きが見たいのだ。


 そんな理由ではあるがクーラは異世界へ行きたいと日々魔法の探求をしている。




「クーラ、話があるんだけど」


 双子の妹のサーラだ。


 サーラはクーラとは正反対で見た目も凛々しく男勝りだ。

 授かった天職も【暗黒騎士】という物理特化型で本当に真逆。

 真逆だが、彼女たちは仲が良い。両親はもう居ない二人だけの家族だから。


「どうしたの?」


 サーラの話は信じがたいものだった。


 サーラは、とある村が盗賊に襲われている場面に遭遇したらしい。

 盗賊達は、男は殺せ、女は攫えと息巻きながら暴れていたのだ。

 人間への干渉を嫌うサーラだったが胸糞悪すぎて、見過ごせなかった。

 村人を助けようとサーラが武器を構えた瞬間それは起こった。

 突然魔力の波がうねりをあげ盗賊達は一人残らず倒れた。


「な、なにが起きた……?」


 魔力の元を辿るとまだ幼い少女が佇んでいた。

 あっけにとられたサーラが我に返り盗賊達を捕縛しようと駆け寄った。

 どうやら盗賊達は強い魔力によって気絶しているだけの様だ。

 先ほどの少女は怪我をしている村人に治療魔法を使っている。

 魔法に疎いサーラでもわかる程の魔力と魔法の技量。

 そして幼い見た目にはそぐわぬ畏怖を感じた。


「彼女を見た時、本能的に畏怖の対象だと感じた。クーラに感じるそれとは比較にならないほどに」

「! 彼女は私たちより強い?」

「おそらくそうだ。見た目は幼い少女だった。姿を人間に変えていたが魔族だ」


 その人間の姿をした少女から感じる魔力は魔族のものだったそうだ。

 クーラはやっと真なる【魔王】が現れたと喜んだ。

 と、喜んだのもつかの間だった、どこに居るかわからない。

 少女と村にはゆかりは無く、手がかりは10歳ほどの長い黒髪の少女だったという事くらいだ。


「なんとしても探すわよ!」


 クーラは現魔王の力を存分に使って少女を探した。

 魔王を辞められる! と言う強い願いもあり少女はあっさり見つかった。


「有名人だったの?」

「そうらしい、どうやら戦うのが好きで戦いの匂いを嗅ぎつけては首を突っ込んでいたようだ」

「そんな事を少女がやっていたら目立つわね、今まで見つからなかったのが不思議な位ね」

「そうだな、それで早速会ってきた」

「どうだった?」

「戦ってみたが負けた、それも手加減をされてだ」

「サーラを手加減して倒すなんて……素晴らしいわ!」


 これで私は確実に魔王を辞められる!





「と、思った時期が私にもあったわね」

「甘いな、大方魔王の役割を押し付け研究と読書に没頭するつもりだったのだろう?」

「ねーねー何の話?」


 マリアは幼かった。

 歳を聞いたら、多分10歳位と返事が来た……。

 これから魔王教育で研究やら読書どころではなくなりそうだった。



 ー・ー・ー



「もう我らが教える事はないな」

「そうね、武器の扱いも魔法の扱いも完璧よ」 


 マリアを見つけてから10数年経った。

 幼かったマリアもすっかり大人になり、強さも以前とは比べ物にならない。


「だが、これではなぁ」

「そうね……どうしたものかしら……」

「ねー、お腹すいた! ケーキが食べたい!」


 精神的成長はあまり見られなかったのだ。

 【魔王】とは名ばかりで邪悪さの欠片も無い、無垢な子供の様だ。




 しかし、ある日突然、マリアの様子が変わった。


「勇者が現れたみたい」

「「えっ?」」

「この勇者とても……気分が悪くなる……」

「気分が悪くなる?」

「心が黒い……勇者って悪者なの?」

「いや、言い伝えでは人間の救世主とされているからそんな事は……」

「そもそも人間に敵対していた頃の魔族ならともかく今の我々は平和に生きているぞ」

「そうだけど、人間って魔族を目の敵にするじゃない? だから姿を変えてるわけだし」

「ねえ? 勇者と魔王は戦うの?」

「……言い伝えではそう言われている」

「……なら、マリアは皆を守る! 悪い勇者から!」


 マリアが魔王として自覚したのは皮肉にも天敵である勇者のお陰だった。




 それからマリアは魔王としての役割を果たし始める。


「ようやくマリアも魔王らしくなったわね、あとは勇者の件が片付けば」

「そうだな……ひとつ気になる事があるんだが」

「ん? 勇者の事?」

「勇者がパーティを組んで旅立ったらしい、我らを倒す為に」

「……魔族は何もしていないのに……」

「はぐれの奴らがいるからイメージは悪いままだ。でも今の問題はそこじゃない」

「うん? 何が問題なの?」


「勇者の一行の中に、異次元の強さの者が混じっている」





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