34:ルールの穴


「それでは私は守りに入ります」


 そう言うとテレサさんは虹色のバリアに包まれた。


「綺麗ですねー」

「私が作った固有魔法の【ウォール】ね、私がテレサちゃんに教えたの、全属性を99%カットするわ」

「お姉さまの……魔法」

「全属性扱えるテレサちゃんだから使える技よ、あれを突破するのはキツイわよ」

「ケイオス……」



 うーん、見た感じ全属性の障壁とかに見える。


「ミィ、チィ試しに攻撃するぞ、擬態を」

「わかったわ!」

「キュ!」


 バキィ! ドガガガガガッ!


 チィで蹴って、ミィで殴って見たが……


「手ごたえはほとんど無し……か」

「……これは全属性のダメージを99%無効化します……なので1%しか通してない……はずなのに……」



 ん? テレサさんが顔をしかめている。

 あまり手ごたえが無かったが効果はあったのか?


「1%なのにもの凄い衝撃が来ました……回復しながらなら15分……ギリギリ耐えられますが……」


 ノーダメージってわけでも無かったらしい。


「守りを破れず時間切れだと俺の負けって感じですね」

「試験的にはそうですが、時間制限が無ければ……とても長時間は耐えられません」


 なるほど、15分だと攻撃を続けても無理らしい。

 となると、どうしたものか……


「私の攻撃に耐えて時間切れになった時点で最低でも75点は付与されるかと思います」

「なるほど、基礎能力で100点、学科で55点、実戦で275点なら……ん、合わせて何点だ?」

「合計430点です、Sクラスは確定です」

「おぉ、それは良かった」

「良かった、と言いながら表情は悔しそうですよ」

「バレましたか、負けず嫌いなんです」

「ふふ、本当に興味深い方ですね」


 いつも無表情のテレサさんが笑顔を見せる。

 ギャップで男心が瞬殺された。


「テレサちゃんが……笑ってる」

「おー私、初めて見ましたー」

「いつもクールなのに」


 観客達もテレサさんの美しさに見惚れている様だ。

 虹色のバリアの綺麗さも相まってなんだか神々しい。


 っと、俺にはそんな事言ってる時間は無かった。

 制限時間があるんだ。

 このまま時間切れでもSクラスは確定している様だが……


「……あとひとつだけ、試したい技があります」

「まだ手札をお持ちなのですか」

「……効果があるかどうかはわかりませんが……試してみていいですか?」

「もちろんです、私もこの守りには自信があるので」


 正直あまり気が進まないが、事実の確認をするチャンスでもある。

 この【世界の理】の正体を確認する意味でも。


「もし、その障壁が破れたら降参してください、試験とはいえ女性を攻撃はしたくないので」

「わかりました、紳士的で素敵だと思いますが、障壁を破れるかどうかはまた別ですよ」

「ミィ、チィ、一旦擬態を解いてくれ」

「いいの?」

「キュ?」

「ああ、ちょっと試したい事があるんだ」



「ん? ケイオス君、擬態を解いちゃったわね? 何をするつもりかしら?」

「ケイオス……諦めたの……?」

「んー諦めたとかそんな表情には見えませんけどねー」



 本来は剣でやる技なんだが。

 素手でやるのは初めてだ。

 うまく出来るか少し不安だ。


「いきます」

「はい」


 単純な技だ、剣を斬り下ろした後にすぐに高速で斬りあげ、一瞬で2回斬る。

 ただそれだけ。


 俺は拳を構える。

 素手でやるので両手を使う。

 左手でゆっくりめに撃ち下ろした後、右手を高速でアッパーの様に撃ち上げる。


 ガガッ! バリィィィン!


「そ、んな……」

「俺の勝ちですね」


 虹色のバリアは砕け散った。

 速くは撃ったが力は加減していたのでテレサさんへのダメージはほぼ無い。



「ケイオス君……何をしたの……あれを破るなんて……」

「す、すごいですねー、でも素手に魔力は感じませんでしたがー」

「ケイオス流石ね!」


 観客達もざわついている。


「これを破られては私は身を守る術はありませんね」

「テレサさんいいですかー?」

「はい、私の負けです」

「はーい、それでは試合終了でーす!」


 ――うおおお! なんかわからんがすごかった!

 ――ツカサ様が驚愕してるわよ! アイツ何をしたの!

 ――あのクールなテレサさんが心無しかメス顔に!


 あ! そうだ、伴侶の件はどうなった! 


「あ、あの……テレサさん、その……胸はなんともありませんか?」

「はい、幸い肉体的には敗北していないので名は刻まれていません」

「よ、良かった」

「しかし、私の心には深く貴方の存在が刻まれてしまいました」


 そう言って熱のこもった瞳で俺を見つめるテレサさん。

 お、おぅふ。

 さっきのサイドワインダーよりも強烈だ。


「ちょ、ちょ、ちょっと! テレサちゃん! こっちに来なさい!」

「ツカサさん、私……」

「ダメよ! テレサちゃんはまだ半人前! だから成人してないの! だから結婚もダメ!」

「……お姉さま、えげつない公私混同してますね」

「ツカサさんーさすがに酷いですよー」

「ダメったらダメ! 【ウォール】もやぶられちゃったし真の【ウォール】を身に着けるまでダメよ!」

「そんな技があるの?」

「……無いわ、今から作る」

「もし、それを教えて頂けるならそれでもかまいません」

「意地でも作ってやる! そしてテレサちゃんに何としても覚えさせる! ケイオス君が勝てないように!」


 とりあえず、伴侶は一旦保留の様で良かった。

 こんな美人が俺の奥さんになんて俺には荷が重い……


 しかし、これではっきりした。

 さっきの技があのバリアを纏ったテレサさんに通じたという事やはり……


「それより! ケイオス君さっきのは何? 聞いてないんだけどあんなの!」

「そうよ! ミィちゃん達の力も使わず何をしたの?」

「そうですねー興味津々ですー」

「私も何に敗れたのか気になります」

「ひみつです!」

「「「「なんで!」」」」


 正直、あまり使いたくない技だ。

 元の世界でもあまり使った事が無かったので忘れていた。

 きっとこの世界では存在してはいけない技だ。

 なんだかズルしている気分になる。

 だからこれを使って勝っても気持ちが微妙だ。


「まあまあ、そんな事より試験は……」

「「「「ちゃんと答えなさい!」」」」


 うーん、なんてごまかそうと悩んでいる俺。

 そんな俺の姿を遠くの観客席からじっと見ている視線があった。




「ルール違反は感心しないねぇ」




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