31:スライムをテイム出来る人は皆無


「面白かったですけど秒殺しすぎですよー」


 ヘキサさんに笑顔でそう言われた。


「いや、そう言われましても」

「2戦目の人が辞退したんで少し時間くださーい」

「じ、辞退?」

「そりゃーそうですよー! あのポポトって生徒はああ見えて3-Sでしたからねー」

「3-S」


 先輩だったのか……失礼な事を言ってしまったかもしれん。


「一番強いわけではないんですけど実力上位の生徒だったんですよー、人格はアレですが」

「確かに、人格はアレですが、使ってる魔術はタバサさんと同じでした」

「アイツ、私の真似してあの魔術使ってるのよ! きっも!」

「真似……親衛隊長とか言ってましたね」

「確かタバサさんが入学するまでは嵐では無く炎をメインで使っていたはずでしたよー」


 その情熱をそのまま炎術に向けていれば強かったろうに。


「ホントキモいし才能の無駄遣いよ」

「属性の向き不向きとかあるんですよね?」

「そうそうー向いてる属性を修練したほうが色々伸びやすいんですが無理やり嵐を覚えたみたいですねー」

「ばっかみたい! 魔術を何だと思ってるのよ! あんなのに才能があるなんてホント勿体ない!」

「なるほど……向き不向きか……」


 俺は何にも向いてないんだろうな……

 後天的に目覚めたり……しないのかな……


「属性の向き不向きは生まれ持ったモノで大半は決まりますか?」

「まあそういう場合がほとんどですねー、稀にレベルアップで違う属性が伸びる人も居ますが」

「レベルアップで伸びる……」


 レベル7834で今の状態ならもうお手上げじゃないでしょうか、コレ。


「次の相手……対策されたらミィちゃんだけじゃ結構キツイわね」

「対策?」

「あー……ミィちゃん水属性ですよね? 水使いなら水障壁が張れますからねー」

「水障壁って……まさか」

「そうですねー水属性は無効化されますねー」


 かなり勝てない率アップしたんじゃないかコレ。


「さすがのケイオスでもそれだと勝てない……かも……」

「辞退した人は火使いだったんですよねー……引き受けてくれるとしたら水使いになりそうですねー」

「やってみないとわからないですが、割と勝ち目薄そうですね……」


 負けはしないけど勝つ手段が無ければそこで終わりだ。


「待ってる間に少し作戦が無いか考えます……」

「キュウ……」





「ケイオスさん! 相手が決まり準備が出来ましたよー!」

「はい、わかりました、すぐ行きます」

「相手……気になるわね」

「まあやってみないと分からない位の相手の方が燃えますけどね」

「本当アンタは動じないわね」

「まあ死ぬことはないですからなんとかなりますよ」

「ミィちゃん頑張ってね!」

「キュイ!」


 ミィと共に闘技場へ向かった。




 既に相手は闘技場内にスタンバっていた。


「あの人……確か……」

「知ってる人ですか?」

「ああ、あの人はテイム魔法を得意としている先生なんだけど……」

「本物のテイマーか……」


 ミィはテイムしているわけじゃないからな。


「確か使える属性は火と土だったはずなのよね……水は使えないはず」

「そうなんですか?」

「反対属性は通常習得不可だから、あの先生水障壁は無理なはず」

「なるほど……でも対戦を引き受けたって事は勝つ算段がありそうですね」

「……テイマーって言うのも気になるわね」

「それは俺も思いました」

「キュウ」

「考えても仕方ない! 行こうかミィ!」

「キュ!」


 俺とミィは闘技場の中央へ。


「ケイオスと申します、よろしくお願いします」

「吾輩はゲッスール・カストール。テイムをこよなく愛する教師だ!」


 自己紹介したゲッスール先生は舐める様にミィを見ている。


「しかし……本当にスライムをテイムしているではないか! 素晴らしい!」

「……素晴らしい? スライムって弱い魔物ですよね?」

「そう! 弱い! ゆえに頭も弱い! ゆえにテイムは通常不可なのだ! そもそも弱いのでテイムしようと思う者も居なかったわけだが」

「キュウ!」


 酷い言われ様だ。ミィは賢いし強い。

 普通のスライムとは違うって所を見せつけるしかないな。


「うちのミィは特別なんですよ、馬鹿にされたらムカつきます」

「特別な個体であるならば吾輩にこそふさわしい! キミは魔力が0なのだろう?」

「だから何なんですか?」

「そのスライムは吾輩が代わりに使ってやろうと言う話だ」

「は? 使う?」

「キミの許可など不要だ、吾輩の最上級のテイムスキルで従属状態を上書きするのだから」


 なるほど、コイツが水使いじゃないのに出て来た理由はコレか。


「キュ!」


 ミィが怒っているのか、飛び跳ねている。

 俺はミィをテイムしているわけでは無い。

 単純にミィが俺に懐いているだけだ。

 この場合、あいつがミィをテイムしようとした場合どうなるんだ?


「キュウ!」


 ミィが俺の顔面にくっついて鳴いている。


「フハハハ! 本当に賢い個体の様だな! 別れは済んだか?」

「……」

「ケイオスさん、ミィさんが大事なら辞退しても……」

「キュイ!」


 ヘキサさんが俺に辞退を進めようとしたらミィがヘキサさんの口をくっついてふさいでいる。


「やる気なのか、ミィ?」

「キュキュ!」

「大丈夫だそうです、ヘキサさん、開始しましょう」

「……そうですか、それでは……試合開始!」


 何もさせずに開始と同時に速攻で倒す……つもりだった。


「あ、ミィ!」


 ミィが勝手に相手の方に突撃していく。


「フハハハ、賢いと言ってもやはりスライムはスライムだな! 我に従属せよ!」


 ゲッスール先生がミィに向かってテイム魔法らしきものを詠唱する。


「これでこの個体は吾輩のモノだ! フハハハ……グベェ!」


 テイム出来たと思い高笑いしていたゲッスール先生のお腹に、ミィの体当たりがクリーンヒットした。


「ミィ? 大丈夫なのか?」

「キューイ!」


 ミィは元気に跳ねながら俺の元へ戻って来て顔に張り付く。


「ぅぅ、なんだこの力は……たかがスライムがどうしてこんな強力攻撃を……しかも何故テイム出来ない!」


 腹を抑えてうずくまったままゲッスール先生は憤っている。

 レベル223のミィの力を考えると相手を殺してしまってもおかしくなかったが……

 きっと試験のルールがあるから手加減したんだろうな、ミィは本当に賢い。


「だから言ったでしょ? うちのミィは特別なんですよ」

「キュ!」

「ぐぬぬぬ、仕方ない……」

「諦めますか? 降参するならもう攻撃はしませんが?」

「舐めるな! 若造が! 来い、我が眷属!」


 ゲッスール先生が何かを唱えると地面に魔方陣が浮かびあがり大きな亀の様な魔物が現れた。


「フハハハハ! コイツはビッグタートル! 水の魔物だ! 意味が分かるか?」

「なるほど、ソイツに守ってもらうってわけか」

「そうだ! 我が命ずる! 水障壁、展開!」


 ゲッスール先生と亀は水色のバリアに包まれた。


「フハハハハ! これで貴様もその個体も無力だ!」

「……くっ」


 まさか使えない属性を魔物で補うなんて……

 もしかしてテイマーってかなり強いんじゃなかろうか……


「どうした? 降参するのは貴様の方だったようだな? フハハハハ!」

「汚い笑い声をすぐ辞めてくれるかしら? 耳障りよ」

「フハハハ……は?」


 客席から大きな声がしたのでそちらを見た。


「ツカサさん!」

「ケイオス君、チィちゃんを連れて来たわよ」

「ケイオス! 私の出番ね!」


 チィが元気よく俺の方に跳ねてくる。


「「「「「スライムが喋った」」」」」


 やべ、チィがしゃべれる事、秒でバレた。




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