30:温めた技を実戦で実践


 予想以上にミィが成長していた。

 魔包のレベルも上がってるし、これならあの技を試せるな!


「ミィ! 以前練習したあの技使おうか!」

「キュイ!」

「なんか、本当喋ってるみたいね」

「本当ですねー」

「土スライムのチィって相棒も居るんですがソイツは本当に喋りますよ!」

「「えっ?」」

「今ツカサさんと一緒に居るみたいだからそのうち会えますよ」

「「超気になる」」

「キュウ!」


 2人とも俺の試合への関心よりチィへの興味が勝ってる様だ。

 毎度毎度スライム達は女性にモテモテだな。

 可愛いから仕方ないが。


「んで、俺はミィと一緒に戦います」

「はーい! 最終科目の実戦試験は3連戦です! 負けたらそこで終わり! 1人勝てば100点の最大300点です!」

「なるほど……相手は?」

「生徒と教師陣から選ばれまーす! 1戦ごとに相手が強くなるイメージで」


 教師陣からも選ばれるのか……


「わかりました。がんばります!」

「ケイオス! 3連勝よ! 私の弟子なんだから当然よね! そしたらSクラスね!」

「プレッシャーが……」


 負けないけど、勝てないかもしれないからなぁ……俺の場合。


「ケイオスさんが負ける事は無さそうだから、あとは制限時間内に勝てるかって所ですよねぇ」

「制限時間?」

「そうですー、1戦15分までとしてまーす、時間切れの場合は試合内容に応じて点数付与され終了でーす」

「なるほど……」

「ちなみに、ほとんどの人は勝っても1人ですねー、Sクラスの生徒の2人目まで勝ったのがこれまでの最高記録です」

「……そんなに手ごわい相手を」


 Sクラスは400点以上なんだから2人勝つってのは必須条件か。


「簡単に勝たれては試験になりませんからねー!」

「ちなみに私も2人勝って、3人目は時間切れだったわ……」

「タバサさんでも無理だったのか……」

「アンタはそもそも負け無いんだからミィちゃんとの連携次第よ!」

「キュ!」




「ケイオスさんー! 1人目準備出来ましたので闘技場へどうぞー!」


 結構待たされたがようやく相手が決まった様だ。

 誰か知らんが、急なオファーとかだったら手間取らせて申し訳ないな。


「わかりました、すぐ行きます。行くぞ、ミィ!」

「キュ!」


 案内されて来て見ると観客席が沢山ある闘技場だった。

 いつかの剣術大会の時の様な規模の設備だ。

 学園内にここまで設備が……

 よくバトル系の訓練や催しが有るって事かな?

 そして客席は当たり前のようにほぼ満席だった。


「ふん! よく逃げずに来たな! ペテン師が!」


 闘技場内へ入ると一人の青年が既に待ち構えていた。

 ってか客多くね? ただの試験だぞ……


「ペテン師とは?」

「とぼけるな! この魔力無しの屑が! タバサ様を誑かしやがって!」

「誑かす?」

「そうだ! 俺はタバサ様の親衛隊長! ポポト・モブガリオンだ!」


 やっぱり親衛隊関係者かー!

 しかし、地味顔なのに態度は尊大だなコイツ。


「……ケイオスと申します、よろしくお願いします」

「はっ! 挨拶した事に関しては殊勝な心掛けだが、キサマの私刑は既に決定している!」

「はぁ……」


 ――処せ! 処せ! ペテン師は処すべし!

 ――タバサ様をペテン師から解放するのだ!

 ――セコンド席にタバサ様だと! ゆ、許せん!

 ――そんな事よりタバサちゃんが可愛い。


「はぁ……キモい奴らね、ホントに……」

「……お知り合いで?」

「行く先々で騒がれるから迷惑してるのよ……直接話しかけて来たりはされないんだけど」


 全員ヘタレか! それともそういう協定みたいなのが集団内で結ばれているのか?

 ってか、すげえどうでもいいな!


「とりあえず、容赦なくやりますがいいですか?」

「別に私の事は気にしなくてもいいわよ、それよりミィちゃん大丈夫?」

「キュキュキュ!」


 ミィが小刻みにぷるぷる震えている。

 武者震いってやつか? スライムでもあるんだな。


「やる気満々ぽいです」

「ふふ、可愛い」


 おぉぉぉ、タバサさんが笑った!

 これは確かに破壊力があるかもしれない。


「……ってきっも! 何ガン見してるのよ! 変態!」

「いや、笑顔が素敵すぎて……」

「な! こ、コロスわよ! さっさと行け!」


 笑顔から一転して顔を真っ赤にして怒り出したタバサさん。

 まあそれはそれでアリですが。


「イチャイチャは終わりましたかー?」

「はい、準備万端です」

「フフフ、なんかいいなーいいなー」

「ヘキサ殿! このペテン師はタバサ様を……」

「ハイハイわかりました悔しかったらケイオスさんを倒してくださいね」


 ヘキサさんのホポト君への口調が驚くほど冷たい。

 この親衛隊は教師陣にも嫌われてそうだな……


「それじゃ相手が降参するか気絶したり戦闘不可になるかで勝敗を決します。15分で決着がつかなければ採点して終了になりまーす」

「ふん! 15分も必要ありませんな! 15秒で充分でしょう!」

「……まあ頑張ってください」

「な! 頑張るのは受験者のキサマだろうが! 処す! 絶対に処す!」


 ポポト君がぷんすか怒り出した。

 なんかもうめんどくせえな。


「わかったわかった、はじめよう」

「そうですねーそれじゃーはじめてどうぞー」

「良い声で哭け! 嵐術展開! 乱嵐刃陣!」


 おぅ、タバサさんが使った魔術と同じだ。

 だがしかし、これは。


「ぬるぬるだなーこの風は。じめっとしてる」


 同じ魔術でもこんなに差があるもんなんだな、しょぼ。


「な! キサマ! 何故哭かぬ!」

「ミィ、行くぞ」

「キュ!」


 ミィが魔力のオーラに包まれ魔包を使用する。

 今回は擬態せずにいつもの丸いままの状態だ。


「鳴かぬなら」

「な、なにを……」

「鳴かせて見せよう」


 ミィをボールの様に握って大きく振りかぶる。


「ポポトDEATH!」


 ブゥン!


 ポポト君めがけて魔包に包まれたミィボールを剛速球で投げつけた。


 ボゴゥ!


「アヒィィジョ!」


 ミィが腹にめり込んだポポト君は良い声で鳴きながら壁まで吹っ飛んだ。


「はーい、終了でーす」

「「「「え」」」」


 開始10秒ほどで終わったので親衛隊含め観客達は状況を把握できていない。

 ヘキサさんだけが必死に笑いを堪えているように見える。


「「「「「なんだ今の」」」」」

「キューイ!」


 ミィが元気に跳ねながら戻って来た。


「よーし! ミィよくやったぞ! 良い感じだったな!」

「キュ!」

「まさかミィちゃんを投げるなんて思いませんでしたよー聞いてたのと違うしー」

「新技ですから! ミィが強くなったんで出来る様に」

「なるほどー今のはミィちゃんにもそれなりに強度が必要ですもんねー」


 そうなのだ、思いっきり投げつけるのでミィが柔らかいと自爆しにいくようなものなのだ。

 擬態した場合は、衝突の負荷は装着している俺に全て来る。

 装着せずに投げる場合、ミィが衝突に耐える体でなければ無理なのだ。

 ミィのレベルが200超えだから実現出来たと言える。



「開始15秒どころか10秒で負けた親衛隊の皆さまお疲れ様でしたー出口はあちらですよー」

「「「「ぅぅ」」」」


 ポポトを抱えて親衛隊の集団は闘技場を出て行った。

 これでタバサさんに対しても少しはおとなしくなればいいが。

 しかしヘキサさん中々にドSである。


「応援する暇も無かったわね」

「えぇ、思ったよりミィが強くなってました」

「キュイキュイ!」

「ふふ、良く出来ました、ミィちゃん」


 タバサさんが天使の微笑みでミィを撫でている! か、可愛い!

 俺がその尊い姿をじっと見ているとタバサさんがこっちをキッと睨む。


「変態! コロスわよ!」


 せめて鳴かせるだけにしてください。



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