21:魔法使いの弟子の弟子の弟子


「安全な所に捨てて来たよ」


 戻るとミィとシャベル子は大勢の土スライムと一緒に居た。


「アリガトウ、ニンゲン」

「キュイ!」


 お礼と同時に土スライムたちが一斉に俺へ体当たりしてくる。


「ォォォォ、ミナギル!」

「チ、チカラガモドッタワ!」

「マエヨリ、ツヨクナッタゾ!」


 しわしわスライム達は次々にしゃべり出した。

 そして、皆つやつやスライムになっていた。

 俺に体当たりしてレベルが上がったのか?


「ニンゲン、イヤ、ケイオス殿ヨ、コノ恩ハ忘レナイ」

「元気になってよかった、しかし人前では喋ったらダメだよ」


 しゃべるスライムなんて珍しすぎて今度は別の意味で狙われそうだ。


「心配はムヨウダ、ケイオス殿ノオ陰デ強クナッタ」


 【眼】で確認すると皆レベルが60前後になっていた。

 エライ勢いでレベル上がってない? 俺に体当たりするだけで?

 まあでも、これなら冒険者も下手に手出しできないだろう。


「トレントは居なくなったし、元の森に戻るのか?」

「ソウダ、ココデハ迷惑ヲカケルシナ」

「誰か仲間になって欲しかったんだけどなぁ……」

「キュウ……」

「そ、それなら私が仲間になってあげてもいいわよ!」


 ん? 随分流暢な言葉遣いだな?

 見るとシャベル子だった。

 シャベル子もさっき俺に体当たりして更にレベルが上がったのか?

 ぷるぷる、つやつや、きらきらしてる。


「アナタのお陰で強くなったし? ど、どうしてもって言うなら仲間になってもいいわよ?」


 ツンツン口調に見た目ぷるぷるのギャップが可愛いな。


「よかった! これからよろしくな! ……えーっと、チィ!」

「チィ? わ、私の名前かしら? ふん! 悪くないわね、いいわ!」


 きらきらしてるチィがほんのり赤色になってる気もする。

 可愛いな、癖が歪みそうだぜ。


「キューイッ!」


 ミィが怒ったように俺の顔面に体当たりしてくる。

 やきもち焼いてるのか?

 こいつらみんな可愛いか!

 ターニャさんも喜ぶぞ。

 いや……流暢に喋るスライムは流石に引くかな……?



 ー・ー



 畑の持ち主である依頼人に報告して完了証をもらった。

 無茶苦茶感謝された。

 お礼に新鮮なお野菜をたくさんもらった。


 報酬金額が少ないせいで依頼を受けてくれる人がおらず困っていたそうだ。

 チィも仲間になったし、スライム達も無事で、感謝もされて大満足。

 この依頼を受けてよかった。



 ー・ー



「おかえりなさいっ! ってスライム増えてるっ! 黄色いっ! 可愛いっ!」


 依頼の報告よりも先に、チィがターニャさんに捕まった。


「ターニャさん、依頼で色々あって仲間になった土スライムのチィです」

「チィよ、よろしくね、ターニャさん?」

「えっ」


 チィを抱いたままターニャさんが固まった。

 いきなりスライムが喋るとそうなるよな……


「……チィちゃん、喋れるのっ?」

「ええ、私のスキルのお陰で……」

「すごーーーーーいっ! 女の子っ? 可愛いっ!」


 ターニャさんがチィに頬ずりして撫でまわしている。

 しゃべり方が女の子だから余計に気に入ったのかな。


 そういや声もちゃんと女の子の声だな、スライムなのに。

 ミィの鳴き声は可愛いけどどっちなんだろう?


 俺はミィを抱っこして見つめてみる。


「キュイ?」


 うん、わからん。

 話せるようになってからの、お楽しみって事で。



 ー・ー



「……と、いうわけで依頼は完了出来ました」

「……そんな大きなトレントをっ……放置していたら大問題になっていたかもしれませんっ」

「確かに……どんどんでかくなってた様だし、最後見た時で直径5メートル超えてました」

「そのサイズのトレントで知能も高いのなら災害級でも良いくらいですっ!【6つ星】クラスでも倒せるか微妙だったと思いますっ」

「まあ倒してはいないんですけどね、ハハハ……」


 毒沼に捨てて来ただけだ。

 まああそこならさすがに人的被害は出ないだろう、多分。

 ……不安だからたまに見に行こうかな……念のため。


「さすが私が見込んだだけはあるわ! ケイオス」

「キュイ!」

「本当にすごいですっ、すぐにでも昇格してあげたいですが……」


 ギルド証を取り出して確認する。

 やはりは魔力0のままだった。

 ギルドとしては魔力0の昇格は体裁が悪いんだろうな。


「丁度、今ギルド長がいらっしゃるので、会ってもらえますかっ?」

「ギルド長に?」

「ええ、昇格の件と……先日のガイアさんの件もあるみたいですっ」

「なるほど……」


 登録したばかりのルーキーがギルド長に呼ばれるなんて事、稀だ。

 でも、確かギルド長はターニャさんの知り合いだって話だ。

 悪い人では無いだろうとは思う。

 断る理由も無いし話を聞いてみるか。


「わかりました、今から行きますか?」

「はいっ! それではご案内しますねっ!」



 ー・



 ターニャさんに連れられギルドの3階の部屋の前に来た。


「ターニャですっ! ケイオスさんが来られましたっ!」

「どうぞ、入って」


 ん? 女性の声だったな?

 促されて中へ入ると仕事が出来そうな紫色の長い髪でメガネの美しい女性が事務机に座っていた。


「はじめまして、ケイオス君。ギルド長のツカサよ」

「……ケイオスです。よろしくお願いします」


 思ってた感じと違う人が出て来た。

 てっきりごつい面倒見の良さそうなおじさんが出てくるかと……


「……想像と違ったかしら?」

「いえ! 綺麗な方だったので少し驚いただけです」

「まあ、出会ってすぐに口説くつもりかしら?」

「え! 思った事言っただけでそんなつもりでは!」

「あら、残念ね……でもありがとう、ふふ」


 なんだろうペースを乱される……

 微笑んでいるツカサさんになんだかドキマギさせられる。


「ツカサさんっ! 本題をお願いしますっ!」

「はいはい、ターニャちゃんは真面目ね……」


 ターニャさんがほっぺをふくらませている。

 可愛いか! スライム達はターニャさんに強く抱かれて変形している。


「おほん! それじゃ……まずランクアップの件ね」

「はい、でも俺は……」

「知ってるわ、魔力0なのよね? 0の人間なんて初めて聞いたの、珍しいわ」

「はぁ……だからギルドとしての体裁が悪いですよね……」

「そんなの気にしなくてもいいわ、でも1つ条件があるの」


 気にしなくていいのか?

 前の世界では、散々天職で差別されてきた身としては衝撃的な発言だ。

 まあその条件とやら次第ではあるが。


「簡単よ、私の弟子の弟子の弟子になって欲しいの」



 弟子の……弟子の…………弟子?





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る