20:土にはシャベルが必要


「お! 沢山いるなー! しかも黄色だ! 黄色って事は……土?」


 しわしわの土スライムが沢山居る。

 初めて見るが土スライムってしわしわなのか?

 ミィがぷるんぷるんしてるのは水で潤ってるから?


「キュイ?」

「ムイ!」


 しわしわじゃない土スライムが1匹飛び出してきた。

 コイツはぷるぷるしてる。


「お? この子は元気だ! なぁ仲間になってくれないかな?」

「ムゥイ!」

「キュウ」


 何か話してそうだけどさっぱりわからん。

 でもミィは俺の言葉が分かってると思うんだよな。


「キュイ!」

「ムン!」


 元気の良い土スライムが俺に体当たりをしてきた。

 遊んでほしいのかな? やっぱりスライムは可愛いな。


「! ム、ムイ!」

「キュウウ!」


 ミィと土スライムが交互に体当たりしてくる。

 じゃれあってるのかな? 微笑ましい。

 色違いでも仲良くなるもんなんだな。


 ん?

 なんか土スライムの様子がおかしい……


「む、む、む」

「ん? なんか鳴き声が変だな」

「むむむむむ!」

「な、なんだ?」

「ニンゲン!」

「うお! しゃべった!」

「オマエ、スゴイ!」

「キュイキュイ!」


 ……衝撃、シャベルスライム、土だけに。

 他のしわしわスライムとこの子は違うのか? 

 【眼】で視てみるか、しわしわスライムは……


 名前 :設定なし

 レベル:5

 種族 :スライム1

 属性 :土

 魔力 :5

 魔防 :20

 敏捷 :5

 スキル:魔包1


 しわしわスライムは普通かな?

 このシャベル子は……


 名前 :設定なし

 レベル:60

 種族 :スライム2

 属性 :土

 魔力 :120

 魔防 :480

 敏捷 :120

 スキル:【言の葉】、魔包1


 うお! つええ、レベル60て、特別な子なのか?

 喋ってるのは【言の葉】ってスキルのお陰か。


「ニンゲンのオカゲで話せるようにナッタ」

「俺のおかげ?」

「ニンゲン、攻撃するとレベルが上ガル」

「あぁ、そういう事か! それでミィもずっと体当たりしてたのか……」

「キュイ!」

「ミィも話せるようになるのか?」

「キュゥ……」


 まだ無理なようだ、感情が伝わってくる。

 属性によって習得スキルが違うんだろう。

 そのうちミィも覚えてくれれば嬉しいが。


「オマエ、ワタシタチ、駆除しにきたか?」

「いやいや駆除なんてしないよ! でもこの畑に居るといつか誰かに……だから移動を」

「デモ……イクトコ無い……」

「今まで、どこに居たんだ?」

「ミンナで住んでる場所アッタ、でも強いヤツ来てニゲてきた」

「強いヤツ?」

「ソウ、巨大なトレント族ダ」

「トレント族か」

「ヤツは土から魔力を吸収スル、ワタシ達シンデしまう」


 トレントは樹木の魔物だ。

 植物だけに根を張り土から養分を吸収するんだろう。

 土スライムとの相性は最悪だろうな。


「わかった、俺がソイツをなんとかしよう!」

「アリガタイ、皆、奴に吸われて元気がナイのダ」

「それでしわしわなのか」

「キュウゥ……」



 ー・ー



 シャベル子に案内されて、森の奥にある泉の近くに来た。


「ココダ……! アイツ! マタ大きくナッテル」

「あのトレントか」


 確かにデカい。

 前の世界でもトレントは倒したことがある。

 が、普通はこんなにデカくない。

 普通はせいぜい直径1メートル程度の大きさだった。

 このトレント……直径5メートル以上はあるぞ。


「このアタリは土地にはマナが多いノダ」

「マナか……それを今は吸ってるわけか」


 かなり近くまで来た。

 トレントが俺に気づき目を開いてこちらを見た。


「ニンゲンヨ、サレ」

「うお、コイツもシャベルのか!」

「多分、マナを吸ってレベルが上がったんダ!」

「キュイ!」


 試しに一発殴ってみる。


 ドォォォン!


「ン? ナンダ? ナニカシタカ?」


 やっぱり俺の物理は通用しないか。


「ミィ! またアレをやってくれ!」

「キュキュキュ!」


 ミィが【水色の手】に擬態する。


「これで……どうだぁ!」


 ドガガガガガッァァァ!


 【水色の右手】でトレントに5連撃を食らわせる。


「グゥ……! 強イナ、ニンゲンヨ、シカシ、水デハ我は倒セン」


 少し怯ませただけであまりダメージが無いようだ。

 属性の相性が悪いか?

 木に水だからな……育っちまいそうだ。


「キュウン……」


 ミィは元に戻って悲しげに俺の肩にくっついた。


「やはりアイツはタオセないか……」


 期待していたシャベル子も落ち込んでいる。


「なあ? ちょっとだけ、地面に大穴あけても良い?」

「大穴? ドウするつもりダ?」

「掘って、あの木を捨ててくる!」

「はぁ?」

「まあ見てろって」


 俺はトレントに近づく。


「ニンゲン、去ラナイノラ、排除スルゾ」

「排除されるのはお前の方だ」

「ナニ?」


 ドゴォォォォン!


 トレントの根本の地面を拳で思いっきり殴りつけた。

 半径10メートル以上地面が吹き飛びクレーターになった。

 しかしトレントには傷1つついていない。

 が、急に土が無くなり打ち上げられた魚の様にジタバタもがいている。


「キ、キサマ! ナンテ真似を!」

「まだだ! まだ終わらんよ!」


 俺はヒョイっとトレントの根っこを片手で掴む。


「それじゃ、一緒にお引越しだ!」


 トレントを掴んだまま大きくジャンプして移動し始める。


「ナ! ナ! ナニヲ!」

「皆の邪魔にならない所まで連行します」


 ぴょんぴょんと飛び跳ね周辺を見ながら移動する。


「お! あそこがいいな!」


 山を2つ越えた先に濁った色の沼が見えた。

 色が汚いから沼だよな、湖じゃないよな、あれは。

 近くまで来てわかった。

 沼は沼でも毒沼だ。


「到着しました♪」

「キサマ……マサカ……」

「はい! そのとおり!」


 トレントを掴んで沼の中心にブスリと突き刺す。


「グオオオオオ!」


 ずぶずぶとトレントが毒沼へ埋まっていく。

 ある程度沈んだところで止まった。


「これで良しと! じゃ! またな!」


 ショックで気絶しているのか、返事がない。

 俺はぴょんぴょんとジャンプして元の場所に戻った。






 

 

 後日、毒沼周辺の村人がトレントを発見。


『しゃべる怪樹が毒沼に生えてきた!』と大騒ぎになった。

 真偽を疑う者、面白がる者達などが、すぐに毒沼へ訪れた。

 話しかけると偉そうに返事をする怪樹は人々の話題になった。


 いつ頃からか『偉そうな怪樹にアリガタイお言葉を頂戴する』的な観光スポットになった。

 訪れる人が増え続け、周辺地域は栄えはじめた。

 それからトレントは多くの人達から崇め奉られ神の様な扱いを受けた。


 このまま500年くらい経てば世界樹なんて呼ばれる日が来るのかもしれない。


「毒沼モ案外、悪ク無イナ」





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