2章:物理無効世界~ギルド登録してみた編

15:追放先でも底辺(仮)です。


 と、過去を思い出してもしょうがない。


 クーラさんは気になるが……

 ケイトやマリアが何とかしてくれるだろう。(こういうやつです)


 気にしてても何も思いつかないし。

 それより今、気にすべきことは別にあった。


「金が無い」


 町に着いてから気づいた。

 世界が違うから貨幣が違う事に。

 屋台の香ばしい串焼の匂いが空腹をあおってくる。


「キュイ?……はむはむ」


 スライムが俺の肩の上でぷるぷる震えている。


 異世界に追放された俺は無一文だ。

 魔物も倒せないので稼ぐ事も出来ない。


 収納リング……アレさえあれば……

 しかし元の世界に残したままだ。

 あれさえあれば……色々と金目のものが……


 取り合えず食う為の金が必要だ。

 身に着けている装備品が売れるかもしれない。

 店で交渉してみよう。





「ごめんねぇ、ギルド証が無いと買取は無理なんだよねぇ」


 買取にはギルド証が必要なようだ。

 この辺の仕組みは前の世界と同じか。


「そうですか、無理を言ってすみません。近くにギルドはありますか?」


 文無しの俺にギルドの場所を丁寧に教えてくれた。

 親切な店員さんだ。

 ギルド証が出来たらまた来よう。

 丁寧にお礼をしてギルドに向かう。



 商店から少し歩くとギルドらしき建物が見えた。

 この町の規模は、村以上王都未満と言った大きさ。

 冒険者の出入りは結構多い。


 さっそくギルドの中に入ってみる。

 受付嬢の並ぶカウンターに、冒険者達が談笑するテーブル。

 ギルド内の雰囲気は元の世界と似ている。


 1点を除いて。


「剣持ってる奴が居ねえ……」 


 よく見ると剣はもちろん、鎧すら着ていない。

 ローブを纏い杖を携えた冒険者ばかりだ。

 魔道士の町ですか?

 あれこれ考え込んでいると背後から声を掛けられた。


「邪魔なんだけど」

「あ、すみません!」


 俺はギルドの入口に突っ立ったまま考え事をしていた。

 中に入れなくて外から文句を言われたようだ。


 俺は慌てて邪魔にならない隅の方へ移動する。

 すると緑色のローブを着ている派手な美少女が中に入ってきた。

 俺の姿をつま先から頭の先まで見てつぶやく。


「……変なやつ」


 服が? 顔か? いや服だな! 顔か……?

 今着ているのは赤いマフラーと籠手と具足、それに黒い服だ。

 確かに魔道士だらけのギルド内では浮いている。


 こういう服って……流行ってないの……


 何度見てもローブ着てるやつしか居ねえ……

 装備がちゃんと売れるか不安になってきた。

 マフラー以外は売るつもりだったんだが、売れないと肉が……


「初めてのご利用ですかっ?」


 肉の事を考えていると、ギルドのお姉さんに声を掛けられた。


「えっ? あ、はい、そうです」


 水色のショートカットの髪にクリっとした眼の小柄で可愛いお姉さんだ。

 ギルドの制服がよく似合う。


 って、あれ……この制服、前の世界のギルドと同じじゃないか?

 異世界ギルドの制服が前の世界のギルドと同じ?

 そんな……偶然か……?


「本日はどんなご用件でっ?」


 っと考えるのは後だ、とりあえず今は金だ、肉だ。


「ギルド登録したいんですが……」

「はいっ! ではこちらのカウンターへどうぞっ!」


 元気よく最奥の無人のカウンターへ案内された。


「こちらで承りますっ!」


 奥のカウンターへ向かっていると沢山の視線を感じた。

 周囲の冒険者達が俺を品定めする様に見ている。

 お約束展開が無ければいいが……(ベテランにからまれるやつ)


「担当させて頂きますターニャですっ!」

「ケイオスです、よろしくお願いします」

「早速ですが必要事項をこの紙に記入をっ!」


 多分変な恰好をしているであろう俺でも受付はしてくれるようだ。

 門前払いされなくてよかった。

 前の世界では門前払いがデフォルトだったからなぁ……


 んと、記載するのは……

 名前、レベルと…… 得意属性?

 属性ってなんだ?


 「すみません……属性ってなんですか?」

 「えっ? あっ? 判定は初めてですかっ?」

 「判定? すみません、田舎から出てきたばかり的な……」

 「いえいえっ! 判定の魔道具を持ってきますっ!」


 魔道具はこの世界にもあるんだな。


 前の世界では天職を判定する魔道具なんかがギルドにあったな。

 でっかい水晶玉に手を乗せると天職が表示される。

 表示された天職がギルド証に記載されていた。


 この世界の魔道具……何を判定するんだろう。

 ほんのりと嫌な予感がする……


 でっかい水晶玉を抱えてふらふらしながらターニャさんが戻ってきた。


「おまたせしましたっ! これですっ!」


 ふらつきながら水晶玉をドスンとカウンターの上に置く。

 ターニャさんはぜえぜえと息を切らしている。


「す、すみませんっ……はぁはぁ……これ重くて……はぁはぁ……」

「……わざわざすみません」

「い、いえっ! お仕事ですしっ!」


 なんだか応援したくなる可愛さだ。

 周りの冒険者達も温かい目でターニャさんを見ている。

 このギルドの看板娘なんだろう。


「手を乗せて念じてみてくださいっ!」

「念じる? ……とは?」

「手のひらに魔力を込める感じですっ!」

「……魔力ですか……」


 嫌な予感は当たっていた……

 この世界で【天職】は何ですか? と聞かれなかった。

 代わりに聞かれたのは【属性】

 この世界では【属性】が重要なんだろう。


 ひとまず水晶玉に手を乗せなんとなく念じてみる。


「……うーん、何も起きませんねぇ?」


 返事が無い。ただの水晶玉のようだ。

 ターニャさんが困った顔をして考え込んでいる。

 いちいち仕草と表情が可愛い。


「それならアレを……ちょっと待っててくださいっ!」


 何かを取りにターニャさんが奥の部屋へ引っ込んだ。

 水晶玉に魔力を込める……

 魔力ね……まりょくか……はぁ……


「お待たせしましたっ!」


 ターニャさんが戻ってきて握力計の様なモノをカウンターに乗せる。

 握力計だといいなー。


「……これは?」

「これは魔力計ですっ」


 でしょうね!


「ぎゅぅーっっと握ってくださいっ!」


 仕方ない。物理の向こう側を見せてやろう。

 おもむろに利き腕で魔力計を力を込めて握る。


「!」


 堅ぇ! ありえねえ! こうなったら……全力だ。


「この星ごと……消えて無くなれぇ! きぇい!」

「ひっ?」

「あ、すみません、気合入れただけです」


 レベル7000パワーを魔力計にぶつけた。

 しかし、魔力計の針はまったく動かない。

 だめだ……力入れすぎて余計に腹が……減った。

 あきらめて計測器をターニャさんに返す。


「えっと……結果は……ぇ? 魔力0?」

「キュイ?」





 ほらね。






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