16:死ななければ負けない


 俺の背中に張り付いてたスライムが顔を出した。


「えっ? 何? スライム? 可愛いっ!」


 そういってターニャさんがスライムを抱きしめる。

 俺の魔力0事件の衝撃はスライムの可愛さあっさりに負けた。


「キュウゥゥ」


 なんか懐いてそうな声を出すな、スライムよ。

 お前は俺の相棒じゃなかったのか。


「はっ! すみませんっ! 可愛くてつい……」

「キュイ!」

「スライムをテイムされてたんですねっ! この子の名前はっ?」

「いえ、名前は特に無いんですが……テイム?」


 そんな事をした記憶が無い。

 ただ勝てなかっただけだよ。

 そして妙にくっついてくるから連れて来ただけ。


「テイム魔法は使える人が少ないんですよっ!」


 多分魔法じゃないよ、がっかりされる前に訂正しよう。


「テイム魔法は使えないと思うから、ソイツが単に人懐っこいのかも……」

「キュイ!」


 スライムは鳴きながら俺の胸に体当たりしてくる。

 そして肩の上に乗ってだらりと伸びてくっついた。


「キュイ!……はむはむ」


 スライムは俺の首と肩のあたりでぷるぷるしている。


「でもテイム魔法じゃないのにこんなに懐いてるなんて……」

「キュイ!」


 スライムは再びターニャさんの胸の中に飛び込んで抱きしめられる。

 スライムよ、やっぱり俺より、ターニャさんに懐いてません?


「私水属性だから、この子と相性がいいんでしょうねっ!」

「キュウ!」


 このスライム水色だから水属性なのか?

 色違いのスライムとかも居たりするのか?

 ってか、そういえば、俺の魔力0だった。

 うっかりスルーしそうだった。


「そうなんですね。……それより俺の魔力0って……」

「わ、忘れてましたっ! まさか0だなんてっ……」


 やっぱり忘れていたターニャさん。

 正直な所も可愛い。

 するとターニャさんはなにか独り言を言いだした。


「――0なんて――生き物なら必ず――なんで――」


 前の世界でも魔力が極端に低かったのは確かだが……

 0……ってわけじゃなかったはずだけどなぁ……

 弱くなった感じはしないと思うんだよなぁ。

 飛んだり跳ねたりは以前と同じく出来るし。

 ただスライムに攻撃が全く通用しないだけで。


「ま、まあ、俺は【剣士】で魔法より剣が得意だから……」

「【剣士】? って何ですかっ? 【道士】とか【術士】じゃなくて?」

「ええ、剣で戦うのが得意な感じです」

「剣? 剣ってなんですかっ? 何魔法?」


 マジか……剣が存在しないだ……と……

 なんとかブレードみたいな魔法は有りそうなんだが……

 実物を見せてみるか……


「この武器です、これが俺の剣です」

「これは……大きな包丁ですね……」


 包丁? 刃物イコール調理用という認識?

 道士とか術士、杖・魔法って言ってたな……

 ま、まさかだけど杖と魔法以外の武器が無いのか?


「もしかして、皆さん魔法で戦うのが普通?」

「そうですねっ……だって、この包丁では魔物は倒せないでしょっ?」


 確かに倒せなかった。

 あれは俺の能力のせいではないのか?

 この【世界の理】が前の世界とは違うのか?

 もしかして物理が……


「えっと……そうだっ! 判定魔道具の調子が悪かったのかもっ」

「えっ? あ、ああそういう可能性もありますよね」


 そうだったら良いんだが、多分どっちにしても俺の魔力はゴミだ。


「ちゃんと壊れてないか私がやってみますねっ!」


 ターニャさんが可愛い顔でぎゅうっと魔力計を握っている。


「……んと、612……ちゃんと出ますねっ」


 612が高いのか、低いのか、わからんが、壊れてはいないようだ。


「……こっちの水晶も試してみますっ」


 ターニャさんが水晶玉に触れた。

 すると水晶玉に青と緑の玉が浮かび上がり揺れている。


 「ちゃんと出ますねっ! これが得意属性ですっ」

 「はぁ……色は何を表しているのですか?」

 「ええっと属性と対応してて……青は水、緑は風、あと黄色は土、赤は火、あとは珍しい色で紫や黒や白なんかもありますっ!」


 メモ帳を見ながら一生懸命説明してくれている。

 珍しい色とかよくわからんが、ターニャさんが可愛い。

 

「さっき言ったように私は水属性ですねっ、少しだけ風属性も得意ですっ」


 複数ってパターンもあるのか。

 ……まあ俺には1つ何も出なかったわけだが。

 ターニャさんが魔力計を再び俺に差し出してきた。

 一応、握って力を込めてみる。


「……0ですね」

「……そうですね」

「……キュキュゥ」


 水晶にも再び触れるように差し出されたので手を乗せ念じる。

 

 「…………」

 「…………」

 「……キュ?」


 何も起きない。

 知ってた。

 俺には壊滅的に魔力を扱う才能がない。

 だからこそ【剣士】で物理に全振りした。


「……俺には魔法が使えないんでしょうか?」

「いえっ! そんな事はないっ……はずですっ!」

「使えるけどめっちゃ弱い……?」

「……努力次第では大丈夫ですっ! きっとっ!」

「キュゥ……はむはむ」


 ターニャさんが俺の手を握って励ましてくれている。

 可愛い女性に慰められ、不甲斐なさで情けなくなってきた。

 ターニャさんの優しさが目に染みる。


「魔力0でもギルド登録は出来ますか?」

「出来ますっ! 安心してくださいっ!」


 良かった。登録お断りですっ! とか言われなくて。


「よかった。これから努力してみます」

「はいっ! 一緒にがんばりましょっ! ギルド証を作成してきますっ! 少し待っててくださいっ」


 そう言い残してターニャさんはカウンターの奥の部屋へと引っ込んだ。


「……はむはむ」


 スライムが肩の上でぷるぷるしている。

 少しとはどれくらい待てばいいのか聞けばよかったな。

 1人取り残され、ぼーっと突っ立っていた。




「魔力0が登録しテ何するツもりダァ?」


 振り返るとガラの悪そうな魔道士が杖を構えてこちらを睨んでいる。

 っと、今まさにそいつの杖の先端から魔法が放たれようといる。

 ヤバイ!

 とっさにスライムを庇い自身の背中を盾にする。


「はハ! ターニャちゃんの仕事増やすんジャねえ!」


 火炎放射器の様な火魔法が俺に発射された。


「ハは! 雑魚が! 跡形も無ク消えたカ!」

「勝手に消すな」

「はハ! は?」


 チンピラ魔道士の炎を拳の風圧で吹き飛ばす。


「この程度じゃ死なねえよ」

「キュイ!」






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