14:閑話※両親にざまぁするケイト


 怒りで我を忘れたアタシは無数の火球を生み出し両親達を取り囲んだ。


「「「「ひいいいい!」」」」


 両親と姉は腰を抜かしている。

 兄は……漏らしている……


「ケイトよ、落ち着きなさい」


 陛下の優しい声で我に返り火球を慌てて消した。


「す、すみません!」

「かまわんよ、しかし噂にたがわぬ凄まじい力だ」


 陛下は笑顔だが両親達は青ざめている。


「陛下、2つ目のお願いを申してもよろしいでしょうか?」

「うむ、何が望みだ?」

「……アタシは5年前、この兄と姉に裏切られ、そして両親に捨てられました」

「「「「!」」」」


 両親達は引きつった顔でアタシを睨みつけた。

 アタシは指先から炎を出し睨み返すと、スッと眼をそらして両親達は俯いた。


「この赤い髪のせいで生まれた時から気味が悪いと蔑まれました。そしてある日、兄と姉の罠にかかり謂れのない罪で家を追い出されました。追い出される際に父は、フィンラッドの名を二度と名乗る事は許さんと言いました。そんなみじめなアタシに寄り添い育ててくれたのはおじ様とおば様です」

「恩知らずな! 親の顔に泥を塗るつもりか!」


 青ざめ俯いていたはずの父はアタシの告発に我慢できず反発した。


「……アタシは両親から愛を感じた事はありません。ずっとおじ様とおば様の元で生きてきました」

「「ケイト……」」


 おじ様とおば様は涙を流してアタシを見ている。


「なので、アタシにとっての親はおじ様とおば様なのです、アタシの2つ目のお願いはアタシをフィンラッド家から除籍して欲しいのです」

「「「「はぁ!」」」」


 両親達が再び声を上げた。


「この人達とは金輪際関わりたくないのです。そして、願わくばおじ様の養子になる事をお許し頂きたいのです」

「「ケイト!」」


 おじ様とおば様がアタシに駆け寄ってきて抱きしめてくれた。

 両親達は何か喚きながら暴れているが騎士に取り押さえられている。


「なるほど……ケイトの生い立ちについてはこちらで調べた通りの様だ」

「……ご存じだったのですね」

「うむ、実は以前ケイトへ褒賞を出すと言う話になった事があってな……その際、フィンラッド邸にケイトは居ない事がわかって、詳しく調べたのだ」


 両親達は苦虫を嚙み潰したような顔で下を向いている。


「ケイト本人の気持ちを尊重したいと思って黙っておった、しかしこの者達の態度は見るに耐えんな」

「「「「ひ!」」」」


 陛下が両親達を睨みつけた。


「よもや【賢者】を虐げ追い出すなど、あってはならん事だ。フィンラッド家は伯爵家から男爵家へ降格だ」

「「「「そ、そんな!」」」」


 両親達は絶望したような顔で膝をついた。

 伯爵家から一気に男爵家へ降格など前代未聞と言える。


「そしてケイトを娘同然に育て上げたカーマイン家は子爵家から侯爵家へ陞爵とする!」

「「「えっ!」」」


 思わぬご褒美にアタシとおじ様達は驚きの声をあげた。

 子爵家から侯爵家へ一気に陞爵される事も前例が無い。


「カーマイン家が無ければ【賢者】ケイトの成長と活躍は無かったのだから当然だ」

「ありがとうございます!」

「ケイト! よかった! よかった!」

「はい、【お父様】、【お母様】!」


 アタシは【お父様】【お母様】と抱き合い喜びを分かち合った。

 何よりも頑張ってきた結果が、実を結んだ事が嬉しかった。

 頑張ればきっとケイオスも見つかるとそう思えたから。



 ー・ー



 元実家はこれまで爵位を盾に下位貴族に威張り散らかし理不尽を強いていた。

 男爵家に降格されそのツケが一気に回ってきてたらしく、袋叩きに遭い没落寸前らしい。

 俗っぽくいうと両親達には「ざまぁ」と言う気持ちしかない。


「ケイト、公爵令息からの縁談が来ているのだが……」

「お父様! アタシは結婚しません!」

「そ、そうだな……しかし公爵家ともなると無下に出来なくてな……」


 あれから宮廷魔道士で侯爵令嬢になった「ケイト・カーマイン」には高位の貴族からの縁談が絶えない。


「仕方ないな、ケイトはケイオス君とけっこ……」

「あー! そろそろ魔法の稽古をしに行ってきます!」

「ふふ、ケイトったら、まだ素直になれないのね」


 ケイオスへ想いを寄せている事は二人にはバレバレだ。

 昔、一緒に住みたいと懇願した事があるのだから仕方ない……

 しかし面と向かって言われると恥ずかしいのよ!

 それにアイツはまだ見つかってないから、それまで結婚は……


「もう、本当にどこに居るのよ! 早くしないとアタシ世界一の人妻になっちゃうわよ!」


 手元の紙を見る。

 王都主催の魔術大会のビラだ。

 王様から参加してみたらどうかと渡された。

 なんでも優勝者は勇者パーティに入れると話題で世界中の魔法使いが集まるらしい。


「勇者パーティ……」


 ふとビラの裏を見てみる。


「えっ! 剣術大会も同時開催?」


 裏面を読み進めると剣術大会も同様に優勝者が勇者パーティに入れるという内容で実施されるようだ。


「もしかすると……!」



 ー・ー



 控室でケイトは剣術大会の組み合わせ表を見ていた。


「やっぱり! アイツ!」


 ケイオスの名前がある。

 しかも決勝まで勝ち残っている!


「アタシを放っておいた癖に! 随分強くなったみたいね!」


 アタシはドキドキしていた。

 やっと見つけた。

 やっと会える。

 今すぐにでも会いに行きたい!

 いや、優勝したら一緒に勇者パーティへ入れる?

 そしたら一緒に旅が出来る?

 考え出したら妄想が止まらなくなった。


「ケイト様、決勝の準備が整いました、闘技場へお願いします」

「はい!」


 アタシにはかつてないほど力がみなぎっていた。



 ー・



「スタンピード?」


 決勝は大魔法一発でサクッと勝った。


 優勝してパーティメンバーとの顔合わせ!

 って所で邪魔が入った。


 スタンピードで王都が危機らしい。


 そんな事よりケイオスよ!

 ケイオスは優勝していた!

 剣聖を倒してまさかの優勝!

 大番狂わせに会場はかなり盛り上がったらしい。


 話を聞いただけでドキドキが止まらない。

 アタシのケイオスが世界一に――ってアタシのケイオスって!

 悪い癖の妄想で感情がはるか前方に先走っていた。


「何年も会ってないんだから……まさかアタシを忘れてないわよね……」


 アタシを探しもせず剣術大会に出てた位だもの……

 なんだか急に不安になった。


「考えても仕方ないわ! サクッとこの騒ぎをおさめましょう!」


 町の外を見ると大量の魔物がうごめいていた。

 ほんとに間の悪い魔物達ね!


 討伐隊が集まる城下町の門前に来た所でアタシが声をあげる。


「まかせて! アタシの魔法で一発よ!」





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