9:追放される直前が全盛期


「マジでドン引きです」

「もー! クーラったらいいじゃない! 人間最強のケイオスと魔族最強の私が結ばれる♡」

「引いてます」

「最強の赤ちゃんが生まれるわ! これで未来永劫平和は約束されたわ!」

「意味はわかりませんが熱意は伝わりました」


 マリアと俺が戦った後はスムーズに今後の話が進んだ。


 1.マリアがはぐれ魔族を一か所に集め拠点を作る。

 2.魔族全員に、はぐれ魔族の拠点が魔王の本拠地だと吹聴させる。

 3.勇者パーティがその情報を集め、はぐれ拠点を目指す。

 4.勇者パーティがはぐれ魔族たち全滅させる。

 5.魔王は死んだ! という事になる。


 って、作戦だ。

 うん、完璧じゃない?


 俺は皆と何食わぬ顔で旅すればいいだけだ。




 はぐれ魔族集めはスムーズに進んでいるらしい。

 その過程で発覚した事だが、四天王のうち2人がはぐれ魔族を先導して裏切りを画策していたらしい。


 丁度いいとばかりにその2人には偽魔王になってもらう事になった。

 早速マリアは元四天王のダーラとゾーラを自分たちが魔王だと洗脳する事に成功した。


 すると2人は指示しなくても勝手にはぐれ魔族を拠点に集め始めた。

 本当に魔王になったつもりで勝手に偽魔王城をせっせと作り始めた!


 2人が仲睦まじく頑張っている姿を見ると微妙な気分になった。

 (※ダーラは小太りオッサン魔族、ゾーラはイケメン脳筋魔族です。)

 ちなみに、いつかのスタンピードの際に魔法陣で魔物を呼んだのはこの2人だ。

 ダーラの方が召喚術を使えるらしい、まあどうでもいいが。



 勇者パーティの旅も順調に進んでいた。

 港町では魔族達で口裏合わせして、はぐれ魔族討伐へ誘導出来た。

 そして討伐したはぐれ魔族から更に情報を得て徐々に魔王城(偽)へ近づく。


 皆は魔王討伐の旅が順調に進んでいると信じて疑う事は無かった。

 しかしケイトだけは妙に危機感を持っていて、毎日修行だ鍛錬だと俺を引きずり回す。


「なんかうまくいきすぎてて逆に不安よ」


 おっしゃる通りで俺は変な汗が出る。

 勘が良いのか、頭が良いのか、そのどちらもなのか。

 バレたら今度こそ〇される可能性がある!


 悩んだ末にケイトにだけは全てを話そうと言う結論に至った。


 ケイトだけは心から信頼できる。幼い頃から知っているし。

 むしろケイト以外だと俺が信頼できるのはギース師匠位だが、俺の旅が決まってから師匠は音信不通になった。

 勇者パーティの他のメンバーとは未だ壁を感じあまり話せていない。


 善は急げとケイトに打ち明けるべく呼び出した。


「な、なによ! 改まって話って?」


 ケイトがなんかくねくねしている。どうしたんだろう?





「話ってそんな内容……」


 ケイトはなんだかがっかりして俯いている。

 と、思ったら急に顔をカッっと上げた。


「隠れてそんなことしてたの! もっと早く言いなさいよ!」

「うおう! 急にびっくりした」

「びっくりしたのはこっちでしょ! アンタそのマリアって魔王とどういう関係なのよ!」

「どういうって……魔族達みんな、はぐれ魔族以外は平和的なんだよ、港町で気づいたんだ」

「港町って、最初に行った町じゃない!」

「そう、あの町の3割の人間は魔族だった」

「!」

「言ってなかったけど俺には鑑定眼? みたいなモノがあるんだ、それでわかったんだ」

「アンタそんな力隠し持ってたの? 剣士なのに?」

「そう、剣士なのに、でもそのお陰で色々と視える事もある、ケイトの能力とかも」

「え! そ、そうなの?」

「そう、例えばケイトは魔力チャージと範囲化で火球を大きく強くしたりするだろ?」

「な、な、なんで」

「全部視えるんだよ、相手の力とかその他色々、おかしいと思わなかったか? 俺が剣術大会に優勝した事」

「おかしいとは……思わなかったわ……アタシはケイオスならって思ったもの……」


 なんだ、急に胸キュンな事言われた。


「そ、それにしても色々視えるって何よ! ま、まさか心の中まで……!」

「いや、さすがにそれはわからない、視えるのは戦闘関連だけだ」

「そ、そう」


 ケイトはあからさまに安堵している。

 何かやましい事が有るんだろうか?


「だから、魔族との話はついてて平和的に、共通の敵であるはぐれ魔族だけ討伐するって事に」

「魔王もそれを受け入れたの?」

「ああ、まあ最初に力試しされたけどな」

「力試し?」

「うん、魔王と戦った」

「は?」

「それもあって、俺の平和的提案が通せたってのもあるけど」

「あ、アンタ! 魔王より強いの? なんかそう言ってる様に聞こえるんだけど!」

「ああ、俺の方がかなり強いな」

「は、はあ?」

「あ、なんでかって言うと、俺レベル7834だから」

「ななせ……はあ?」


 ダンジョンから出てこなかった理由あたりを以前より細かく説明した。

 中々信じなかったので更に小一時間話してようやくケイトは信じてくれた。

 気づけば真夜中であたりは人気も無く真っ暗だ。

 しかし、色々と衝撃事実もあってケイトは時間を気にする事も無く複雑そうな表情で考え込んでいる。


「……」

「そんなに考え込むなよ、ケイトだから俺は打ち明けたんだぞ」

「えっ?」

「他の3人にはとても話せないから俺とケイトだけの秘密だ」

「そ、そうね、2人の秘密ね……2人だけの」


 そう言うと少しケイトの表情は明るくなった。元気が出たようだ。



 ー・ー



 それからはケイトと2人で協力して勇者達と共にはぐれ魔族討伐の旅を続けた。

 はぐれ魔族の拠点に着いた時には、魔王城(偽)は本物の魔王城より立派になっていた。


 皆ではぐれ魔族を倒しながら城内を進んで、魔王の間にたどり着く。

 そこには小太りオッサン魔族とイケメン脳筋魔族が2つの玉座に鎮座していた。


 元四天王だけあって2人同時に相手にしたら程よく苦戦した。

 魔王という事になっているので楽勝すぎては困るのだ。

 まあ本物の魔王とは比べようもない程、弱かったが。

 可哀そうな気もするが、ダーラとゾーラは魔族にとっても人間にとっても害だから仕方ない。


「やった! 僕たちの勝ちだ!」

「やりました~」

「ようやくだ」

「やったわね」


 ケイトも一応喜んでいるようだ。

 旅もこれで終わりか。


「旅は終わってもアタシとの修行は終わらないからね!」


 ケイトに釘を刺された。


 マリアもはぐれ魔族集めが終わってからは、しょっちゅう会いに来る。

 毎度毎度あの美人が迫ってくるので俺はタジタジだった。


「全部終わったら逃がさないからね♡」


 マリアに釘を刺される。

 

 ケイトとマリアという美人に迫られて俺は浮かれていたのかもしれない。




 だからなのかもしれない。

 今の危機的状況を招いたのは。


「随分と好き放題していたようだね? ケイオス」


 俺は今、脅されていた。






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