8:縛られても不思議と嫌じゃない


「は? そんなの認める訳ないじゃないの!」


 驚きと怒りの表情でクーラさんがこちらを睨んでいる。


「いや、死んでもらうのは世間的にって話だ」

「?」

「勇者の旅は魔王を倒すまで終わらない」

「……」

「だったら倒した事にすればいい、お前たちの協力が有れば出来るだろ」

「そ、そんな突拍子もない事を……!」

「でも魔王を死なせたくないんだろ?」

「当たり前よ!」

「こう言っては何だが、害意があるかどうかは関係ないんだ」

「え?」

「王族や貴族達は、魔王は倒すべき存在だと決めつけている。たとえ害が無かったとしても」

「そんな勝手な……」

「俺もそう思う。だから魔王は死んだ事にして今まで通りバレない様にするのが誰も不幸にならない」

「それは……そうかも」

「だろ? 幸い俺たちは誰が魔王なのかわかっていない」

「そうなの?」

「そうなんだよ、だから明日から聞き込みする予定だった」

「随分無計画なのね」

「まあ勇者が魔王討伐の旅をしてます! って事実が大事なんだろ、そんなもんだ」

「そんなものなのかしら……」

「細かい計画は、魔王本人も交えて話した方がいいかもしれないな」

「それはそうだけど、魔王様に会わせるなら、アナタが信用出来ると言う証拠が必要よ!」

「それもそうか、それなら俺を縛って自由を奪っていいぞ、それなら安心だろ」

「それなら安心だけど、アナタに不安は無いの?」

「それしか方法がないなら仕方ない、それに俺は簡単に死なないからな」

「……そう言われると縛っても安心できないわ」

「まあ縛った状態で魔王に会って話せば大丈夫だろ? 魔王だって強いんだから縛られた人間くらいどうにでもなるだろ」

「そう……よね、それじゃ私が先に魔王様と話をしてくるわ」


 そう言うとクーラさんはフッと消えた。


「今のうちに縛っといてくれるかな? ぎっちぎちに!」


 ドグラとマグラは怪訝な顔で俺を縛りだした。



 ー・



 しばらくするとクーラさんが戻ってきた。


「魔王様が会うそうよ、って何コレ!」

「用心に用心をかさねて何重にも縛ってもらった!」

「……ま、まあこれなら安心ね、さっそく連れて行くわよ」

「ああ、頼む」


 クーラさんは俺に触れながら小声で何かを詠唱する。


 ブゥン!


 次の瞬間、目の前にセクシーな絶世の美女が立っていた。


「あ! 貴方がケイオスね!」

「は、はひ! どちら様?」


 思わず声がうわづった。


「私が魔王のマリアよ!」

「こんな美人が!」

「ふふ! ありがと!」

「魔王様、近づきすぎです」

「大丈夫よ! クーラ! このニンゲンからはいい匂いがするの!」

「は、はぁ」


 いい匂いって何だ……しまった! 宿で風呂に入ってからくれば良かった!


「ねぇねぇ、話の前にお願いがあるんだけど!」

「は、はい、なんでしょう?」

「ちょっと戦ってくれない?」

「「え?」」


 俺とクーラさんがハモった。


「こんなに強そうな雄の匂いは初めてなの! なんだか興奮しちゃって!」

「お、雄……」

「ま、魔王様?」

「だからお願い! ちょっとだけでいいから戦って♡」


 恍惚とした表情でマリアがこちらを見ている。

 あんな官能的な顔で戦ってってお願いされたら……


「ま、まあ? ちょっと位ならいいけど?」


 俺は平静を精一杯装ってそう答えた。


「やったぁ♡」

「ま、魔王様!」

「大丈夫よ! でも勝てないかも♡」

「そ、それほどにケイオス殿は……」


 負けるかもしれないと嬉しそうなマリア。

 なんでそんなに嬉しそうなの? そういう癖なの?


「んじゃ……ほいっと」

「な!」

「……カッコいい♡」


 何重にも縛られていた縄を引きちぎった。


「意味なかったじゃん……」

「ごめんって」


 クーラさんが素に戻った言葉遣いで拗ねた顔をしている。


「んじゃ、さっそくヤろー♡」

「んー、とりあえず全力で攻撃してみていいよ」

「いいの?」

「強さを知りたいならそれでもいいだろ? 女性を傷つけるのはちょっと……」

「きゅん」

「きゅん」


 二人とも胸を押さえている。


「なら遠慮なく!」


 と次の瞬間にはマリアは身の丈以上の大鎌を振り上げていた。


「そおれ!」


 音も無く巨大な鎌が俺に振り下ろされる。


 トン


 俺は指一本で受け止める。


「ま、まじ?」

「え、やばぁ」

「どんどんどうぞ」

「!」


 何度となくあらゆる方向から大鎌が振り下ろされる。

 しかし、指先一つで全て止めた。


「す、すごすぎぃ!」

「正直ドン引きです」


 マリアは喜んでいるが、クーラさんは引いている。


「ならこれはどう?」

「?」


 マリアの周りに様々な色の球が無数に浮かんでいる。


「えい!」


 そのすべてが俺に向かってくる。


 ボボボボボボボボボボボン!


 数えきれないほどの球が俺に直撃する。

 これは様々な属性の魔力の球だ。

 属性球を一斉に多量にぶつけられた様だ。


「こんなにたくさん属性使えるのすげえな」

「痛がるどころか褒められたっ!」

「正直ガン引きです」


 マリアは喜んでいるが、クーラさんはさらに引いている。


「もうダメ! 一発だけ頂戴♡」


 言い方よ。


「でも」

「お願い! 全力でまもるから♡」

「わかった」


 加減しないと殺してしまう可能性がある。

 これまでも手加減はやって来た。

 まずは相手をいつもよりしっかり視る。


 名前 :マリア

 天職 :【魔王】魔族

 レベル:99

 HP :1980

 MP :1980

 物理 :1485

 魔力 :1485

 防御 : 990

 魔防 : 990

 敏捷 : 990

 スキル:全魔法6、闇魔法6、大鎌術6、召喚術6


 手加減する時は相手のステータスをしっかりと視る。

 視るだけでも割と疲れる。

 さらに詳細に視るとなるとむっちゃ疲れる。


 しかし魔王なだけあってやべーな。

 勇者パーティ全員でも負けそうな気がするぞ。


 んと、防御990でHP1980か。

 あと今防御魔法つかってる様だな。


 物魔障壁6:防御・魔防を60%上乗せする


 なるほどという事は、

 990の1.6倍の……ええと……大体1600くらいだな! うん!

 それにHPがだいたい2000!

 わかった、3500くらいで攻撃すればいいか!


 【レベル制御】を使って物理の値を3500に調整。


「よし、準備できた」

「いいわ♡」

「んじゃ」


 俺はマリアに近づき、デコピンした。


 バリィィン


 「うっ!」


 障壁が割れマリアは吹っ飛ぶ。


「ま、魔王様!」

「だ、大丈夫よ、クーラ……」


 よかったちゃんと生きてる。

 どんぶり勘定だから少しひやひやしたが、今回は少し余裕を残して攻撃した。


「ヤバイわ、死にそうだった……」

「手加減したからな」

「手加減してコレなの……」

「俺は魔法とか使えないから回復は出来ないぞ」

「大丈夫……自分で出来るから……」 


 結構ギリギリだったようで、マリアは少し目がうつろになっている。

 マリアは回復魔法をしばらく自分にかけていると元に戻った。


「ふーすごかった♡」

「もういいのか?」

「もうわかったから大丈夫♡」

「わかったって、何が?」


 艶っぽい目でマリアがこちらを見ながら言う。


「ケイオスが運命の旦那様だという事が♡」



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