7:見た目で判断してはいけません

「ふぅ……」


 宿に戻って皆自分の部屋に入る。

 てっきり相部屋かと思いきや1人1部屋で驚いた。

 勇者パーティはお金があるようだ。

 おかげで1人で動きやすい。


 それよりさっき気づいた事の方が気になる。


 魔族だらけだ。


 もしかするとこの町だけじゃなかったかもしれない。

 これまで人を意識して視ないようにしていた。

 だが、いざ視てみると港町は魔族だらけだった。


 明日から本格的に魔族に対する聞き込みが始まる。

 そうなった場合、危険な展開になる気がする。

 聞き込みは相手にこちらの動きを伝える様なものだ。

 昨日の酒場の魔族もそうだが強い者が多かった。

 少数なら倒せると思うが……




 俺は気配を消して宿を抜け出した。


 夜中、と言うにはまだ早い時間で人通りは多い。

 町を歩いて人々を視る。


 やはり2、3割は魔族だ。

 この数が全て団結していたら……

 昨日の酒場での殺気を思い出す。


 ユウトが魔王倒すと息巻いただけで殺気が漏れていた。

 もう既にあちらにこちらの動きと存在が伝わっている気がする。


 どうする……

 俺はともかく他の皆はまずい。

 あの強さの魔族に大勢で来られたら……

 皆やられてしまうだろう。


 あれこれ考える事に夢中になっていた。


「アンタ、さっき勇者と一緒に居た人だろう?」


 急に声を掛けられて大きく飛びのき構えた。

 声がした方を見ると酒場に居た2人組だ。


「私達に気づいてただろう? アンタは」

「……」

「そう怖い顔するなよ、話しに来ただけだ」

「……わかった」


 殺気は感じなかったので話をする事にした。


「勇者は我々を殺すのか?」

「そういう目的で旅をしている」

「なぜ? ニンゲンを害した事は無いよ」

「マグラ、一部の魔族はそうじゃないだろう」

「あぁ、そうか……」

「どういう事だ?」

「ニンゲンを襲うはぐれ者の魔族も居る」

「そりゃあ居るだろう」

「だが、基本的に魔族はニンゲンと敵対するつもりは無い、一部の魔族だけだ」

「なるほど、しかしその話を信用する根拠が無い」

「なら、魔王様に直接会って信じてもらうしかない」

「そもそも何故俺にそれを話す? 俺は勇者じゃないぞ」

「アンタが強いからだ」

「俺たちはニンゲンより強さに敏感だ、アンタには勝てる気が全くしない」

「勇者達や他の連中ならまだ勝負になりそうだが、アンタは絶対無理だ」

「そう、だから出てきて話をしに来たんだ」

「……」

「アンタに殺されたくないからな」


 コンタクトしてきた理由は納得できた。

 しかし魔族は相手の強さを感じる力があるのか。

 俺のレベルが高すぎて戦う気も起きない様だ。


「魔王にはどうやったら会える?」

「我々の領域がはるか北の土地にある。ニンゲンが居ない土地だ。そこに魔王城がある」

「遠そうだな、今単独行動があまり出来ないんだ。すぐには行けないな」

「……この町には四天王のクーラ様が居る、話してほしい」

「四天王?」

「魔王様の次に強い4人の魔族だ」

「なるほど、俺を会わせてどうする?」

「クーラ様は時空間魔法の使い手、魔王城へ転移出来る」

「なるほどな、それで魔王に会えるって事か」


 特に良い考えも無かったので会ってみる事にした。

 舐められない様に喋り方をシリアスにしていて疲れたわ。


 とは言えここで動かないと明日からの聞き込みで魔族全員から敵認定されて終わるかもしれない。


 あれ? もしかして今かなり重要な場面?


「ここだ」


 ドグラとマグラに案内されて港の倉庫に着いた。


「クーラ様、ニンゲンで一番強い者を連れてきました、話をするそうです」

「ありがとう、マグラ……っ! た、確かに強いわね、このニンゲン」


 クーラ様と呼ばれた魔族の声のする方を見ると眼鏡をかけた知的な美人が立っていた。


「俺はケイオスだ、戦うつもりで来たわけでは無い」

「そ、そう、安心したわ……勝てるイメージが全くわかないもの……」


 魔族は物わかりのいい種族のようだ。


「でも、ニンゲンを簡単に信用できないわ」

「どちらにしても俺が全員根絶やしにするって言ったらどうするんだよ?」

「それなら私たちも全員で全力で戦うわ」

「お互い被害が出るだろうな」

「そうね、でも黙って死ぬわけにはいかないもの」

「そうならない為にはどうしたらいいと思う?」

「強いアナタと魔王様が協力すれば良いと思うわ」

「人間の社会はそう単純じゃないんだ。王族やら貴族やらがうるさくて大変なんだよ」

「……」

「今だって、王族の命令で勇者と共に魔王討伐の旅に出てるわけだし」

「私たちは人間を害してないわ!」

「それはさっきそこの2人に聞いたよ、でもはぐれ者も居るんだろ?」

「そう……魔王様に従わない魔族も居るわ……」

「ならそいつらを一緒に倒すってのはどうだ? 人間との共存の第一歩として。同族を倒すのは嫌か?」

「そう出来るならそれが一番よ、アイツ等好き放題やってて迷惑だし……」

「そうか、なら少しは突破口が見えた気がする」

「ニンゲンと魔族の共存への?」

「そうだ、その為に……」

「その為に?」



「魔王には死んでもらう」




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