6:気づかない方が良い事もある


「何かいう事はないの?」

「すみませんでした……」

「ふん!」


 ケイトに詰め寄られてこれまでの話をした。


 両親が死んだ後、生活に困った事。

 困った結果ダンジョンに入った事。

 入ったダンジョンからずっと出られなくなった事。

 元住んでいた町にケイトを探しに行った事。

 ギースの弟子になって旅しながら修行していた事など。


「で、師匠に言われて大会に出たのね」

「そうです」

「ずいぶん強くなったのね」

「それはケイトもそうだろ」

「アタシは【賢者】だし! それにすごく頑張ったもの!」

「ねえ? 二人は知り合いなの?」

「な~んか仲良さげですね~」

「うむ」


 話に夢中で他のメンバーを放置してしまっていた。


「あ、ごめんなさい!」

「大丈夫! 全員揃ったし皆でご飯食べよう!」

「賛成~お腹すいたよ~」

「そ、そうね。本来は顔合わせだったのよね」

「話は落ち着ける所でしよ!」


 ユウトにそう促されて、皆で王城へ戻った。



 ー・ー・ー



 その後、俺はケイトに謎の誓約書を書かされた。

 何か魔法が掛けられていそうな紙だったが、黙って言う事を聞き書いておいた。

 俺がサインした紙を嬉しそうに見ているケイトの笑顔はすごく可愛かった。


 ケイトに最後に会った日からの事を聞いたが、侯爵令嬢で宮廷魔道士になっていた。

 俺なんかが気軽に接していいのかと少し恐縮してしまった。

 しかし、ケイトは依然と変わらず接してくるので気にしないでおこうと思った。


「準備できた? そろそろ行くわよ!」


 今日は勇者パーティが王都から旅立つ日。

 ケイトが俺を迎えに来た。


「忘れ物はない?」

「無いよ、元々身一つで旅してたから」

「そう? なら行きましょ!」


 ケイトはなんだかすごく楽しそうだ。

 魔王討伐の旅か……


「これからは毎日アタシと修行だからね! 世界一の剣士さん?」

「はいはい、俺の強さにビビんなよ、世界一の魔法使いさん」

「なめんじゃないわよ! 上等よ!」


 侯爵令嬢らしからぬ言葉遣いだが懐かしくもあるそれが俺には心地よかった。 



 ー・



「お! 来た来た! 二人ともこっち!」

「お待たせしました! 勇者様!」

「ユウトでいいよ! これから一緒に旅するんだし!」

「ありがとうございます! ユウト様」

「わかりました、ユウトさん」

「もー! 固いなー!」

「まあまあ~ユウト様」

「皆揃ったようだ、俺の方から説明する」


 年長のテイラーさんが仕切ってくれている。

 年長と言っても22歳だが。

 皆若いのだ。旅慣れてもいない。

 むしろ俺が一番旅慣れているかもしれない。


 ちなみに皆の年齢は、


 【剣士】ケイオス、17歳、レベル34(ギルド証の表示)

 【賢者】ケイト、17歳、レベル80

 【天騎士】テイラー、22歳、レベル76

 【聖女】セシル、19歳、レベル74

 【勇者】ユウト、12歳、レベル70


 ついでに天職とレベルも確認した。

 ユウト若っ! 呼び捨てで良いと何度も言われてそうするようにした。


 12歳だと弟みたいだ。

 兄弟なんて居た事ないんだが、可愛く見えてくる。


 しかしユウトはレベル70か。

 こないだは65だと言ってた気がする。

 文字通り勇者はかなりすごいようだ。


 ってかケイトのレベル80がやべえ。

 ケイトは世界一の魔法使いなんだなと実感してしまう。

 子供の頃、一緒に過ごした子がそんなに風になるなんて変な感じだ。


 一応俺はレベル34という事になっている。

 実際はレベル7834だが。

 誰も信じないんで34という事で通している。


 客観的に見たら俺だけしょぼすぎんか?

 まあ、そこは実際に活躍して払拭しよう。



 ー・ー



 最初の目的地は西の港町だった。

 魔王の直属の魔族が出入りしていると噂があった。

 皆もう既にかなり強いので、道中コツコツレベル上げする必要もない。

 魔族の噂をたどって直接叩きに行く! という旅らしい。


 疑問に思ったんだが魔族からの被害があったと言う噂はかなり少なかった。

 今回の噂は、魔族らしき者たちが港で荷物を取引していると言うだけの噂。

 うーん、被害が無ければよくないか? と、どうしても思ってしまう。


 魔族って悪なの? イメージとか先入観は無いだろうか?

 最近そんな事を考える時間が増えた。


「魔族への物資を断てば戦力を削げる」

「そうだよね! それならそのラインを断っちゃおう!」

「やっちゃいましょ~」


 と、そういう事らしい。

 テイラーさんに賛同するユウトとセシルさん。



 ー・



 港町へ着いてすぐに驚いた。


 人多すぎ。


 世界中から商人が集まる有数の港町らしい。

 王都より栄えているんじゃないかと思える。

 エルフやドワーフ、獣人などの姿もちらほら見える。


「すごいねー! これじゃ、目的の魔族を探すの大変だ!」

「確かに、ひとまず宿を取って酒場で情報収集しよう」

「そうね、闇雲に探すのも無理があるわね……」

「おなかすきました~」

「時間も時間だ。今日は酒場でそのまま食事にするか」

「賛成~」「いいね!」「そうね」「わかりました」



 ー・



「美味しい~!」

「本当、美味しいわね!」

「うむ、魚介が新鮮だ」

「うまーい!」


 みんな名物のエビと魚料理に舌鼓を打っている。

 皆は料理に夢中だが、俺はずっと感じている視線が気になった。

 【眼】で視線の元を辿る。

 冒険者らしき男女の2人組がこちらを見ている。


「……」

「どうしたの? 魚苦手?」


 無邪気にケイトがそんな事を聞いてくる。


「いや、人が多くて少し人に酔った」

「そうなの? せっかく美味しいのに……」

「そうそう! しっかり食べて強くならないと魔王は倒せないよ!」


 ユウトが俺にそう言った瞬間。

 一瞬だが殺気を感じた。


 仕方ない、視るか。

 先ほどの二人を見る。


 名前 :ドグラ

 状態 :【斧術士】魔族

 レベル:62


 名前 :マグラ

 状態 :【鎌術士】魔族

 レベル:63


 着いて早々に出会うとは。

 しかし、特に何をされたわけでもない。

 殺気を感じたのも一瞬だ。

 様子を見るべきか?


「ごちそうさまー!」


 迷っていると食事を終えた皆は帰ろうとしている。

 俺は2人組に注意しながら皆と店を出た。


 追って……来ないな。


 実は内心かなり動揺していた。

 目的の魔族が人間の姿をしていたからだ。


「どうしたの? 美味しくなかった?」

「いや、美味しかったよ、食べ過ぎて気分が……」

「もう! そんな事じゃ先が思いやられるわね!」


 ケイトが無邪気な笑顔でそんな事を言う。


 しかし俺は本当にすごく気分が悪くなっていた。


 この町に来てすぐには気づかなかった。

 意識して視ている今ならわかる。


 港町のそこら中に居る人間の姿をした魔族達の存在が。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る