5:褒められる者、貶される者


 ……やっぱりケイトだ。


 久しぶりに見るケイトは昔よりさらに美少女になっている。


 っと、ケイトの事はひとまず後だ。

 今はそれよりも先にすべき事がある。


 俺は気配を消しその場を離れた。

 人目につかない様に【全力】で疾駆する。


 向かうのは魔物の群れの奥。

 状況把握の為、高台へ。

 高台から見下ろした瞬間、俺はヒュっと息を飲む。


 大平原に馬鹿デカい魔方陣がいくつも見える。

 しかも魔物が次から次に召喚され溢れ返っている。

 先ほど見た魔物の数の10倍以上は居る。


「まずい、際限なく増えてる……」


 魔方陣の位置と数を確認する。7つか……

 確認を終え、剣を抜き、高台からジャンプ。


 魔方陣の中心に落下しながら剣に力を込め地面に突き刺す。

 込めた力が地面に伝わり魔方陣は跡形もなく爆散し周囲の魔物も弾け飛ぶ。

 飛ぶ、刺す、爆散を全ての魔方陣に繰り返す。

 1分足らずで先ほど確認した7か所、全ての魔方陣を爆散させた。


 ひとまず魔物の召喚は止まって一息……つく暇はなかった。

 残った魔物達から一斉に殺意が向けられる。


 万を超える魔物。

 ここで倒しておかないとまずい。

 放置すれば王都の被害は甚大だ。


 あ! そうだ、アレを使って斬ろう!

 ダンジョンで手に入れた収納リングを見る。


 これは収納魔法の様に物を収納できる。

 対象に触れ念じた物を収納し、イメージして念じると排出される。

 ダンジョンで得た素材、食料、アイテム、そして装備がたくさん入っている。


 その中から、長尺の刀【物干し竿】を取り出す。

 ダンジョン産の刀の中で一番リーチが長い。

 物干し竿を納刀状態のまま低く中腰で構え、魔物の方に向き直る。


 刀は片刃の為、この世界の一般的な剣と違い少し扱い方が独特だ。

 振り方を間違えればすぐに折れてしまう。

 しかし正しく振れば斬れない物はない……と思う。


 俺が知る少ない刀技の1つを使う。

 所謂【居合抜き】、素早く抜刀しつつで全力で横に薙ぐ。

 淀みなく、そして速く振りぬかれた刀は物音ひとつ無く空間を裂く。


 一呼吸した後、鞘に刀を納めると魔物達の雄たけびが止んだ。

 魔物達は上半身と下半身が離れ離れになり崩れ落ちた。

 斬撃は広範囲に及び、今の一撃で大半の魔物を殲滅出来た。


「はぁ~! この爽快感が良すぎる! 刀いいよなぁ」


 納刀しながら刀の秀逸さの余韻に浸る。

 この世界で刀使いには出会ったことがない。

 俺の知る技は書物から得た知識で身につけた【サムライ】の技だ。


 両断された魔物を見ていると死骸が光の塵となって消えた。

 ダンジョンで魔物を討伐した時の挙動と似ている。


 地上では普通死骸は残る為、後始末をどうしようかと迷っていたから驚いた。

 召喚された魔物だったからか? 謎だ、わからない事が多い。

 まあ後処理に困らなくて済んでよかった。


 ひとまず危機は去ったと判断し、わずかに残った魔物を斬り伏せながら町に戻る。



 ー・ー



 城下町近くまで戻って来た所で王都全体に巨大なバリアが張られている事に気付いた。

 すげえな、こんなでけえ結界誰がやったんだ。

 これなら被害は出なさそうだと安堵した。


 よし気配を消してさりげなく合流しよう。


「魔力が貯まった! いくわよ! ぶっ飛ばしてやるわ!」


 声のする方を見ると、異常な大きさの火球が浮かんでいる。

 通常サイズの火球の10倍? 100倍? わからんが馬鹿デカい。

 火球の下に居るケイトらしき赤髪美少女が火球を魔物の群れに投げ放つ。

 

 特大の火球が魔物の群れに着弾。

 とてつもない轟音と熱風。

 粉塵で状況が良く見えない。


 視界が戻ると付近の地形ごと魔物が消滅していた。


「見て! 魔物は倒したわ! 被害無しよ!」


 近くの森や地形に対する甚大な被害は無かった事になっている。

 しかし、人的被害がゼロっていうのは素直にすごい。

 普通に対処した場合、あれだけの魔物の数ではそれなりに死傷者が出る。


 満足そうな笑みを浮かべたケイトらしき人物が勇者達の方へ駆けよっていった。


「ケイトすごいよ! 頼もしすぎる!」

「ホント~すっごいですね~! あんなの初めて見た~」

「さすが【賢者】殿、見事だ」

「皆様が張ってくれた結界あってこそです! お陰でたっぷりと魔力を火球に貯められました!」


 うん、やっぱりケイトだ。

 てか魔力貯めすぎだろ……オーバーキルすぎる。

 てかあのすげえ結界は勇者達がやってたのか……

 ん? そうなると俺だけ何もしてない感じになっちゃう?


 いやいや! 奥の平原で頑張ったもんね!


「改めて自己紹介! 賢者のケイトです!」

「聖女のセシルです~よろしくね~ケイト様!」

「天騎士テイラーだ。よろしく、ケイト殿」

「僕は勇者のユウトだよ! 一緒に頑張ろうね!」


 盛り上がっている4人。

 それを遠くから見る俺。

 圧倒的疎外感、戻るタイミングを逃した。


「……それでアタシは王城へ行く途中で魔物の群れが……」

「それは丁度よかった、ここに全員……ん?」

「【剣士】さんが居ないです~! ってあれ……」


 4人と目が合った。

 今更何しに来たという空気が流れる。


「ど、どうも……」


 ケイトはツカツカと近寄ってきて俺の顔をマジマジと見る。


「……! アンタ!」

「どうも、【剣士】ケイオスです……」

「何年も、どこ行ってたのよ! 急に居なくなって!」


 気のせいか、ケイトは涙ぐんでいるように見える。


「はぁ……ちょっと修行を……」

「修行? 勝手に居なくなって!」


 勝手にって……そんな事言われてもダンジョンから出られなくなったんだよな。


「それで! まさかアンタも勇者パーティメンバーってわけ?」

「……まぁ……優勝したので……」


 ケイトの怒った顔を見て勇者達は苦い顔をしていた。


「ありえない! 今更戻ってきた癖に! お荷物よ!」




 久しぶりに会ったのにそこまで言う?





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る