4:乗り越えた壁の先

 俺のレベルが極端に高いのには理由がある。


 【剣士】の俺はどこの剣術道場からも門前払いだった。

 冒険者になってみれば、依頼のジョブランク制限のせいでまともな依頼が無い。


 生きていくための金も稼げない、剣も習えない。

 無印【剣士】の俺に選べる道は1つしか無かった。



 【ダンジョン】で稼ぎ強くなる事だった。



 【ダンジョン】の魔物からは地上では得られない【ドロップ品】を確率で得られる。

 討伐後の魔物の死骸は一定時間経つと消滅する仕組みで解体不可、後処理は不要だ。

 ドロップ品には食料もあれば、装備品、用途不明な物など、多岐にわたる。


 ソロでも【眼】があれば大抵の問題は乗り越えられる算段があった。


 【眼】は単に人や物を鑑定する為の物ではなく、多様なモノの仕組みがわかる。

 ダンジョンの構造、敵の位置・情報、トラップの位置・構造など。

 上記に加えて相手の行動がある程度予測も出来る為、多少の強敵は対応できる。


 そんな俺が選んだのは世界最大規模の100階層構造、王都地下ダンジョン。


 意気揚々と潜ってみれば思った以上に快適だった。

 たまに出るドロップ品で食料には困らないし、装備も出るのでどんどん強くなれる。


 潜ってどれくらいの時間が経っただろうか。

 食料が出ると言うのが最大の理由だが、ダンジョンから出る事無く延々と攻略し続けていた。


 今思えばずっと外に出ないとかありえないんだが。

 強くなっていく実感と新しく手に入る装備などに夢中だったんだと思う。


 そしてついに最下層へとたどり着く。


 100階層のボスは巨大ドラゴン。

 【眼】で能力確認・弱点把握、行動予測。

 死なない様、慎重に時間をかけてボスを撃破した。


 と、その瞬間


『単独攻略確認、条件クリア、ルートを解放します』


 と、唐突にアナウンスが流れた。

 すると見慣れた脱出用の青い魔方陣。

 に加えて、赤い転移魔方陣が現れた。


 まだ続きがあるようだ。


 101階層があるなんて話は、聞いたことが無い。

 先ほどのアナウンスを信じるならばソロ攻略が鍵だったようだが。

 俺は意気揚々と赤い魔方陣へと飛び込んだ。


 まさか出口が無くなるとは思わずに……




 進めど進めど出口はない。

 進むほどに敵は強くなる。

 敵を倒す程に俺も強くなる。


 時間の感覚はマヒしている。

 今何階層なのかもわからない。

 食料はある。敵も居る。


 ただひたすら進む。

 ただひらすら戦う。

 ただひたすら生きる。

 

 一定階層ごとに居るボスを討伐した時。

 先に進む赤い魔方陣が出なかった。

 代わりに青い脱出用魔方陣が現れた!

 選択肢が無いので青い魔方陣に乗ると外へ出された。

 

『やっと出られたのか?』


 俺は声が出なかった。


 外では5年程経っていた。


 もっと経っていると思ったので意外だった。

 しかし、5年ですっかり王都は様変わりしている。


 気持ちが落ち着かない。

 落ち着かないのは、王都のせいではない。

 ダンジョンに長く居すぎたせいだ。


『これからどうしよう……』


 俺の声はまた出なかった。




 ー・ー・ー・ー・ー




「キャスターの人、まだですかね~?」

「順当にいけば【賢者】殿だが」

「【賢者】! 僕、魔法教わろうー!」


 皆はもう俺に興味が無くなってくれた様で助かる。

 まだ来ていないキャスターの方が気になるようだ。


 もし【賢者】ならば、ケイトだろう。

 俺とケイトは同じ歳で、昔同じ町に住んでいた。


 ケイトに最後に会った時は11歳だった。

 記憶の中のケイトの姿は赤髪の超美少女。


 ケイトの性格はかなり苛烈だが、根は優しいんだよな。

 俺をからかいつつも、読み書きなんかをしっかりと教えてくれたりもした。

 こういう性格なんて言うんだろう? しっくり来る言い方がありそうだ。(ツンデレの概念がない世界)


 一緒に過ごした思い出は今でもしっかり残っている。

 しかし俺はケイトに黙って【ダンジョン】に潜ってしまった。

 そこから数年間、外に出られなくなってしまった。

 確実に怒られる、いや魔法を連打されて死んでしまうかもしれない。


 【ダンジョン】から出た後、ケイトへ会いに町へと向かった。

 しかしケイトは居なくなっていた……

 途方に暮れながらもケイトを探している過程で師匠に出会って今に至る。

 

 会いたい気持ちもあるがケイトが怒り狂いそうで怖い……



 しばらくすると城内が騒がしくなり、騎士が慌てて部屋に入ってきた。


「た、大変です! スタンピードが発生しました!」

「「「「な!」」」」


 スタンピードとは魔物の過剰発生による氾濫。

 キャスターの到着を待っている場合ではなくなった。


 全員で現場へ向かう。

 着くと既に騎士や冒険者で討伐隊が組まれていた。

 城下町の門外には大量の魔物の群れが見える。


「ひ~、魔物いっぱい~」

「これは……1000以上居るぞ」

「なんとか食い止めないと!」


 俺は大量の敵と討伐隊を見比べた。

 何とかはなりそうだが……結構被害が出るだろうな。


 しかし……何か嫌な気配がする。

 脅威が目の前の魔物だけでは無いように【視える】

 この大量の魔物はどこから……


 それを確かめる必要がある。

 魔物の群れがやってくる方角。

 そこへすぐに向かうべきだと【眼】が告げていた。


 根拠もないし、説明が面倒なので一人で確認して来よう。

 俺は気配を消し、その場を離れようとした時に気付いた。

 討伐隊に大声をあげる赤髪の美少女に。



「まかせて! アタシの魔法で一発よ!」





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