3:気まずいってレベルじゃねえぞ


 大会優勝者は勇者パーティに加入し【魔王】討伐の旅へ出る。


 そんなの、聞いてないよ!(自己責任)


 数年前に魔王の存在が確認されたが、勇者は現れなかった。

 不在の勇者は先日、異世界から召喚されたそうだ。


 今回実施された大会は魔王討伐メンバーを選定する為だったようだ。


 聞いてないよ!(2回目)



「ケイオス様、こちらの部屋でお待ちください」


 勇者パーティの顔合わせで、王城に連れて来られた。

 メンバーは5人で勇者、タンク、ヒーラー、キャスター、そしてアタッカー。

 アタッカー枠は俺。

 などと考えていると誰かが入って来た。


「失礼しま~す」


 間延びした声で金髪碧眼の美少女が入ってきた。


 格好を見た感じ……ヒーラーかな?

 そんな事より胸が大きい。大きすぎる。

 胸の大きさで選ばれたんじゃないかと思う位大きい。


 失礼すぎる事を俺が考えてると怪訝な目で見られた。

 

「え~っと……どなた?」

「【剣士】のケイオスです、よろしくお願いします」

「え? 【剣士】? なんで?」


 声色が変わったのは気のせいだと思いたい。

 でもまあそうなるよなぁ。

 イケメン剣聖と無印剣士とじゃ比べようもない。


「俺が優勝して……」

「え~! アルフレッド様は!」

「……すみません……」

「…………」


 無言。

 自己紹介すらしてくれない。

 気まずい沈黙。


 しばらくすると次の来訪者。


「失礼する」


 銀髪で眼光鋭く細いが筋肉質な長身美丈夫が入ってきた。


「あ~テイラー様!」

「久しぶりだな、セシル殿」


 顔見知りらしい。

 美丈夫はテイラーさん、美少女はセシルさん。

 テイラーさんは……タンクぽい、逞しい男前だ。


「こちらは?」

「え~っと【剣士】の……何さんでしたっけ?」

「【剣士】ケイオスです、よろしくおねがいします」

「【剣士】?」

「そうなんですよ~アルフレッド様じゃないんですよ~」

「そうなのか……【剣聖】殿ではないのか……」

「がっかりですよね~ホントッ」


 面と向かってがっかりされちゃったよ。

 心なしかテイラーさんも怪訝な顔でこちらを見ている。


「しかしまあ……優勝者であれば実力は確かだろう」

「でも魔術大会の方まで変な人が来ちゃったらヤですね~」


 遠まわしに変な人呼ばわりされちゃった。

 ん? 魔術大会?


「すみません、キャスターも大会優勝者が加入するのですか?」

「そうだな、アタッカーとキャスターは大会優勝者が加入する」

「なるほど……お二人は?」

「ああ、すまない、私は【天騎士】のテイラーだ」

「わたしは【聖女】のセシルだよ~」

「【勇者】は当然だが、ヒーラーとタンクは最初から我々に決まっていたのだ」

「ヒーラーとタンクは少ないからね~」


 なるほど、ヒーラーとタンクは希少だ。

 おまけにユニーク持ちなら文句無しと言うわけか。


「みんなおまたせ!」


 話していると新たに来訪者があった。

 青い髪と幼さ残る可愛い男の子……何歳だ?


「ユウト様~遅いですよ~」

「久しぶりだな、ユウト」

「セシルにテイラー! ……んと、誰?」


 また怪訝な顔で見られた。

 アルフレッドさんじゃなくてごめんね!


「【剣士】のケイオスです。よろしくお願いします」

「あれ? 【剣士】? ん?」


 3人とも、もれなく同じ反応するよな。

 

「優勝しました……」

「…………」


 ユウトは何か考え込んでいる。

 チェンジで! とか言われそうな気がしてきた。

 

「……うん、うん! よろしくね! ケイオス! 【勇者】のユウトだよ!」


 笑顔になりユウトは、自己紹介してくれた。

 ひとまずチェンジはされなかったようだ。


「僕は【勇者召喚】されてまだ日が浅いんだ! 頑張るよ!」

「そんな~! ユウト様はすごいですよ~!」

「ユウトは短期間で我々のレベルに迫っているしな」


 この世界では強さの指標として天職の他に【レベル】がある。


「ほら! 見て!」


 ユウトが金色のカードを皆に見えるように掲げる。


「ゴールドになってる! しかもレベル65!」

「うかうかしてると抜かれそうだな」


 このカードは【ギルド証】。

 カードには持ち主の【名前】【天職】【レベル】が記載されている。

 またカードの色でギルドランクも分かる。


 テイラーさんはレベル76、セシルさんはレベル74。

 二人もゴールドランクだそうだ。


 ギルドのランクは5段階あり貢献度でランク分けされる。


 【アイアン】

 【ブロンズ】

 【シルバー】

 【ゴールド】

 【ミスリル】


 の順に上がっていく。

 ユウトはこの世界に来たばかりなのにもうゴールド。

 

「ねえ〜【剣士】さんのカードも見せてよ~」


 このセシルさんは俺の名前を覚える気がないようだ。

 悪気はないんだろうけど……なんかしゃくぜんとしない!

 

 それはそうと、俺のギルド証はあまり見せたくない。


「ほら~出して出して!」


 これから仲間になるのだから見せずに通すのは無理か。

 観念して俺はカードを取り出して見せる。


「え? ブロンズ? しょぼ……」


 そういうのは心の中で言ってほしい。


「ギルド依頼のジョブ制限でランクが中々上げられないんです」

「あ~【剣士】って……コモンぽいもんね」


 ギルドの依頼には受注条件がある。

 【レアジョブ】とか【ユニーク】などに制限されているものが多い。

 無印【剣士】が受注出来る依頼は極端に少なく、ランクが上がらない。

 不遇過ぎるだろ! 受けさせてもらえば全部完了してやるのに!


「レベル34? 優勝した割にレベルが低いな……」

「レベル99なんじゃ! って期待しちゃった!」

「レベル99なんて人、聞いたこと無いですよ~……それにしても本当にアルフレッド様に勝ったの?」


 俺のカードにはレベル34と記載されている。


 この【世界】ではレベル99に到達したものは居ないと思う。

 レベルの上限99と言うのが常識になっているからだ。

 でも実際にはレベル100を超えても上がり続ける。

 

 そしてギルド証のレベル項目には下2桁しか表示されない。

 レベル3桁の人間が存在しないのだからその事に誰も気づかない。





 俺のレベルは7834だ。

 



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