2:イケメン舞っても待たせるな
準決勝後、控室(流石に決勝まで来たから与えられた)に師匠と2人。
「おい、やりすぎるなと言っただろう」
「すみません……あの人、めっちゃツバ飛ばしてきてムカッと……」
準決勝で【剣帝】をうっかり一撃で倒してしまった。
観客や剣帝の門下生達から不正だと大騒ぎされた。
俺が勝ったのはマグレか不正だと思われたようだ。
急に控室が用意されたのも、そういう輩から俺を隠す為だろう。
「だから言っただろう! 負けろとは言わんがもう少し……」
「はい……反省してます……」
「決勝は【剣聖】アルフレッドだ、ヤツは人格者だが……」
「皆から大人気の人ですね……戦い方に気を使うなぁ……」
アルフレッドさんは所謂みんなのヒーロー的な有名人だ。
ユニーク持ちの相手は思ったよりめんどくせぇ!
ー・ー・ー
「【剣聖】アルフレッド、【剣士】ケイオス、闘技場へ」
呼びこまれ闘技場へ入る。
長身細身の金髪イケメンがこちらを見ている。
全身普通の黒髪な俺は早速少しの敗北感を感じた。
アルフレッドさんに俺は会釈をする。
すると観客からブーイングが飛ぶ。
俺、会釈しただけだよ?
アルフレッドさんへは黄色い声援だ。
モテモテだな!
そして剣聖コールの大合唱。
アウェーすぎるだろ!
「決勝だし、悔いの残らない試合にしよう」
爽やかな笑顔で握手を求められた。
この人良い人! 人間出来てる雰囲気があふれ出てる!
「こちらこそ、よろしくおねがいします」
握手を返しすと、また激しく俺にブーイングが飛ぶ。
何がそんなに気に入らないの!
もし、勝とうもんならどんな目に会うんだコレ……
やや、げんなりしながらも俺は剣を構える。
「試合開始!」
お互い構えたまま動かない。
にらみ合っていると俺に対するブーイングだけが激しくなっていく。
聞けば聞くほどげんなりする。
それならばと、こちらから斬り込む。
ガキィーン!
すごい音がしたが、涼しい顔で受けられた!
明らかに【剣帝】よりも強い。
感心していたら、流れるように反撃が飛んでくる。
ギィィン!ギン!ギン!ギン!ギン!
倍返しどころではない、5倍くらい返ってきた。
舞うような美しい剣技で。
途切れる事無く剣撃の雨を降らせるアルフレッドさん。
まったく隙が無く防戦一方だった。
しかも段々と剣撃の間隔が短くなってくる。
ギギギギギギギギィィィン!
剣のぶつかる音がどんどん激しくなる。
一切無駄のない流れるような動き。
必死に防御しながらも見惚れてしまいそうになる。
不意にアルフレッドさんが手を止めて少し離れる。
「【剣の舞】を全部受け流されるとは……驚いたよ」
防戦一方だったが俺の力は認めてくれたようだ。
観客のブーイングも気づけば歓声に変わっていた。
――すげえ! あいつただの【剣士】なんだよな?
――おい! 【剣聖】の攻撃完璧に受けきってたぞ!
――誰だよ、不正とか騒いでた奴は! どう見ても実力者だろ!
「でも、受けてばかりでは勝てないよ? いくよ【鳳凰の舞】!」
息つく暇もなく、再び激しい剣の雨が降り始める。
攻撃を受けながらもその美しい太刀筋をしっかりと見る。
【鳳凰の舞】と宣言されてからは剣から炎が出ている。
剣速による摩擦のせいか?
それとも火属性を付与しているのか?
鳳凰の舞とはよく言ったものだ、カッコよすぎる。
うちの師匠は力強い剛剣使いで一太刀に重きを置く。
アルフレッドさんの剣技は美しく流麗な剣の嵐。
師匠とは違う部類の技に俺は魅了されていた。
どれくらいの時間経っただろうか。
アルフレッドさんが突然ピタリと攻撃をやめた。
「……【鳳凰の舞】すら通用しないとは」
「え?」
「悔しいが僕はもう出し切った、次は君の番だ」
「! ……わかりました」
唐突な提案に動揺してしまった。
あんなにも美しい技を魅せてくれたんだ。
俺も真摯に応えなければと思った。
「俺の剣術は未熟なんです」
「その割には全て綺麗に防いでいたね」
「その代わりに自慢できるモノが3つ有るからです」
「剣術以外に? 3つ……なんだろう?」
「1つはよく視える【眼】、そして2つ目は」
【少し】速く動いてアルフレッドさんの背後に回り込む。
「【スピード】です」
「!」
アルフレッドさんは突然消えた俺の声が、背後からした事に驚愕している。
「そして最後に【パワー】です」
両手で剣を振りかぶり地面を叩くように斬る。
ドゴォォォォォン!
大きな地響きと共に闘技場の地面に巨大な亀裂が入る。
「こ、これは!」
「行きます!」
俺は速く強く鋭く斬り込む。
ギャリィィィン!
倒すつもりで斬り込んだが受け止められた!
でもさすがに、先ほどの様に涼しい顔ではない。
即座にアルフレッドさんの側面に回り込み、がら空きの胴を斜め上に斬り上げる。
「グッ!」
剣の腹で胴を撃ち、空中に体ごと撃ち上げた。
宙に吹き飛ばされたアルフレッドさんは地上の俺を見る。
だが、もうそこに俺は居ない。
すでにアルフレッドさんより上空へ跳び上がっていた俺は、剣の腹で叩き落とす。
「ガハッ!」
意識を奪う程度の強さで地面へ叩きつけた。
しかし、驚く事にアルフレッドさんはすぐ立ち上がろうとしている。
だがダメージ深く立ち上がれないようだ。
「! 勝者ケイオス!」
勝者宣言され会場から大歓声や悲鳴が巻き起こる。
ふらふらとしながら立ち上がったアルフレッドさんが俺の傍に来る。
「僕は強くなったつもりだった……思い知らされたよ……まだまだだと」
「剣術では圧倒されました。アルフレッドさんと剣技で勝負出来る様になりたいです」
「1から体を鍛えなおすよ……またいつかお手合わせお願いしたいよ」
「もちろんです。もちろん次も負けませんよ!」
「ふふっ、僕だってさ!」
アルフレッドさんと握手を交わした。
観客からは大歓声と拍手喝采を浴びた。
俺とアルフレッドさんは五体満足だったので、このまま表彰式になるようだ。
優勝出来たんだし、何か賞品とか賞金ってあるのかな……
こういう大会に出るのは初めてだからわからないな……
これだけの大きな大会で優勝したんだよ?
少しは期待してもいいよね?
俺はわくわくしていた。
「勇者パーティへ加入するのは、優勝したケイオス殿に決定しました!」
は?
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