1章:追放前の無双してたあの頃編

1:無印剣士は底辺です


 と、その前にどうしてこうなった。


「キュイ?」


 考え事をしているとスライムが顔面に張り付く。


 ケイオスは元居た【世界】から追放された。

 仲間の裏切りによる追放である。

 しかもパーティからの追放じゃないよ?

 【異世界】への追放だよ?


 そこまでするか?


 町へと歩きながら過去の出来事を振り返る……




 ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー



 元居た世界の名は【ワンドール】


 ワンドールでは全ての者が【天職】を授かる。

 授かった天職によって将来が決まると言っても良い。

 【天職】にはランク付けがある。


 平凡な能力【コモン】

 優れた能力【レア】

 そしてにごく一部の人間が授かる【ユニーク】


 そしてケイオスが授かったのは【剣士】。

 【下級剣士】でも無ければ【上級剣士】でもない。

 ただの【剣士】だった。


 ケイオスは底辺ジョブと馬鹿にされ蔑まれた。


 しかし剣が好きなケイオスはあまり気にしなかった。

 そして、ただひたすら剣術と鍛錬に励んだ。

 何年も。


 ー・ー・ー・ー



「ケイオス! 聞いているのか!」

「聞いていますよ、師匠」


 師匠の【剣鬼】ギースが何度も俺に苦言を呈す。


「絶対にやりすぎるなよ! 特にユニーク持ちには気をつけろよ!」

「わかりましたって……やっぱり【剣士】の扱いって酷いですよね」


 俺は今、生まれて初めて剣術大会に出場していた。

 ユニークジョブ【剣鬼】ギースの弟子として出ている。

 なのに控室すら無い!

 【剣士】扱いはこんなもんだ。


「ユニーク持ちはプライドが高い上に権力持ちが多い」

「師匠は俺を差別しないですよね、ユニーク持ちなのに」


 これまで散々底辺扱いされてきた俺。

 ギースさんはそんな俺を弟子として拾ってくれた。


「とにかく、あんまり目立つなよ」

「そういえば師匠は出ないんですか?」

「……お前が出るなら俺は出ない」

「え? 俺が出るから師匠出ないんですか?」

「出ない! もし出て負けでもしたら……」

「いや、師匠が負ける様な相手は居ないでしょ!」


 (居る! お前だ!)


 

 ー・ー


 

 俺は適度に手を抜き勝ち進み、次は準決勝。


「いよいよ、次は【剣帝】ハインだな」

「【剣帝】かぁ、さすがにきっと強いですよね」

「知らん! くれぐれも、やりすぎるなよ」

「いや、本気出さないと秒殺されるかもしれませんし」


 (無用な心配だ……それよりオッズが馬鹿高いからケイオスに賭けとくか)



「【剣帝】ハイン、【剣士】ケイオス、闘技場へ」


 闘技場へ入り相手を見る。

 大柄でムッキムキの強面男が観客に余裕のアピールしていた。

 このマッチョが【剣帝】か……見た目はとりあえず強そうだ。

 一応挨拶してみる。


「よろしくお願いします」

「ふん! 底辺【剣士】風情が! 生意気に勝ち残りおって!」

「……」

「うちの弟子を姑息な手で倒した礼はたっぷりとさせてもらおう!」


 興奮したマッチョがすごくツバを飛ばしてくる。

 罵倒はともかくツバがスゴイ。いや、罵倒もスゴイ。

 飛んでくるツバに無性にイラっとしてしまった。


「お弟子さん? どの方でしょうか? どの方もあまり印象に残っていなくて……」

「ハイン流を侮辱しおって! 斬り刻んでやる! あの世で後悔しろ!」


 煽ってみたら激ギレされた。

 そして罵倒とツバが激しく飛ぶ!

 というか相手を殺したらルール違反だよ?


「試合開始!」

「シネエエエエエ!」


 だからそれはルール違反なんだって……

 初撃から殺意特盛の剣撃とツバが飛んでくる。


 キィーン!


 煽る意味でも無表情で受けとめてみせたが……軽い。


「! 底辺【剣士】が生意気に受け止めおって!」

「……これ、全力ですか?」

「キ、キサマ! コロスッ!」

 

 キンキンキン!


 剣と剣のぶつかり合う音が闘技場に響き渡る。

 ……同じユニークでも師匠の方が断然強い。

 ハインはずっと暴言をわめきちらしながら斬ってくる。

 暴言とツバを受け止めるのが辛いからもういいかな。


「気は済みましたか?」

「ハ? ナンダト……」


 受け止めていたハインの剣をグイっと強く押し返す。

 ふらつくハインに一気に詰め寄り剣を横に薙ぐ。

 力を込めた俺の剣撃は、ハインの剣をへし折り意識を奪う。

 そのままハインはくるくる回転しながら壁まで吹き飛んだ。


 倒れたままピクリとも動かないハイン。

 剣の腹で叩いて吹っ飛ばしただけだぞ、生きてるよね……?


 観客は呆然としている。

 水を打ったように静まり返る闘技場。


 俺が咳払いをすると審判は我に返った。

 

「しょ、勝者ケイオス!」


 

 ギースは大きなため息ついて空を仰いだ。


 (あのバカ……【剣帝】を一撃はやりすぎだ……)












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