12:閑話※ケイオスに恋するケイト


「ケイオス、こうよ! こう振るの!」

「こう?」

「ちがう! こう! こう書いてあるわ!」


 あれから、ケイオスは毎日図書館に来る。

 二人で一緒に剣術の本を見ている。


 アタシが本を見ながらケイオスに剣の振り方を教える。

 口頭では中々伝わらないので読んだアタシが棒を振って見せる。

 本には簡単な絵が描いてはあるものの、やはり文章を読まないとわからない事が多い。


「ねえ? アンタ、なんで流派に入らないの?」


 普通は幼い頃から流派を選んで門下生として剣術を学ぶみたい。


「【剣士】は底辺だ! って入れてくれないんだよ……」

「【剣士】はダメなの? 【賢者】となんか似てるのにね」


 アタシはケイオスと似た名前の天職で少し嬉しいんだけどね。

 というか名前もケイトとケイオスで似てるのよね……運命?

 って、アタシ何考えてるの! 


 それにしてもケイオスは【剣士】ってだけで苦労しているみたい。

 でも、そのお陰でケイオスは図書館に来てくれたんだから、少し複雑。


「【賢者】は勇者と旅をするくらいすごいんだぞ、ケイト」

「そうなの……でもアタシは……」


 あれから一度も魔法を使ってない……

 最近ではケイオスと一緒に過ごすのが楽しくて魔導書すら読んでいない。


「魔法が嫌いなのか?」

「そんな事はない……わ」

「……ケイトと一緒に冒険出来たらいいな。修行も一緒に出来るし……」

「剣と魔法で修行になるのかしら?」

「なる! それに楽しそうだろ」

「……そうかもね」


 お兄ちゃんに魔法を撃ってしまった時の事を思い出す。

 もしケイオスに当たって怪我をさせたら……

 また嫌われて捨てられる……

 アタシには魔法を撃つ勇気はない……



 ー・ー



 その日、いつもの様に図書館に来てみるとケイオスは居なかった。


「どうしたのかしら……」


 なんだか嫌な胸騒ぎがする。

 ケイオスを探しに図書館を出た。


『ケイトに会う前はよくここで修行してたんだ』


 いつかケイオスが言ってた秘密基地の事を思い出す。

 アタシはケイオスの秘密基地に向かう。


 町はずれの森近くにケイオスの秘密基地はある。

 秘密基地近くまで来てすぐに気がついた。

 金属の音と獣の声に。

 焦る気持ちを抑えて音のする方へ走る。


「ケイオス!」

「ケ、ケイト!」


 ケイオスが足から血を流して大きな狼と戦っている!

 どうしよう!

 町に戻って大人を呼んで来る?

 ダメよ、ケイオスは怪我していて今にもやられそう、間に合わない。


「お、おい! 俺が抑えてるうちに逃げろ! このままだとケイトも狙われちまう!」

「置いて逃げるなんて出来るわけないじゃない!」

「それじゃ二人ともやられちまうぞ!」

「ア、アタシが助けるわ! ケイオスそいつから離れて!」


 アタシが魔法を使うしかない。

 でもケイオスが狼の近くに居たらアタシは魔法を使えない。

 ケイオスに当たったらと思うと手が震えて集中できない。


「俺がコイツを抑えてないと……ケイトが狙われる!」

「!」

「もしかして魔法使うのか? 俺の事は気にせず撃て!」


 気になるし!

 人の気も知らないで!

 そうこうしているうちに狼はじりじりとケイオスを追いつめる。


「は、早く撃て!」

「でも! ケイオスに当たったら……アタシ……」

「大丈夫だって言ってんだろ!」

「もしアタシの魔法でケイオスが怪我したら……私の事嫌いになるでしょ!」

「はぁ?」


 もう誰からも嫌われたくないの。

 特にあなたからは。


「だから狼から離れてよ! 少しくらいならきっとアタシ大丈夫だから!」


 本当は全然大丈夫では無い。

 アタシは魔物と戦った事なんてない。

 剣士のケイオスと比べて私の体は脆い。

 魔物からもし一発でも食らったら……


「俺に当たるかもしれないから撃てないってか?」

「そ、そうよ! だから早く離れなさい!」

「いつも勝ち気なくせに! 俺に当たっても怒らないし嫌わないから撃て!」

「……そんなの……わからないじゃない……」


 臆病すぎるのはわかっている。


 家族から嫌われた。

 兄姉達に裏切られた。

 結局アタシは捨てられて1人になった。


 しかもあの兄の時とは違う。

 狼を仕留めるためには威力を強めなくてはいけない。

 当たればケイオスもただでは済まない威力に。


「そうかよ! ……なら! おい! ケイト! お前、剣術の教え方下手なんだよ!」

「は、はぁ?」

「もう少し優しく丁寧に教えられないのかよ!」

「なんですって! アタシがせっかく読んであげてるのに!」

「読んであげてる? 上から目線で偉そうに! 俺がぼっちのお前に付き合ってやってんだよ!」

「あ、あんたねえ!」

「だから、俺はお前の事が大嫌いなんだよ! その真っ赤な髪のお前が嫌いなんだよ!」

「!」

「元々嫌いなんだ! だから嫌われる心配なんて要らねえよ! ここで狼に食われるよりはマシだ! ケイトは【賢者】だろ! もし狼を倒せたら見直してやるよ!」

「……わかったわよ! 撃ってやるわ! 死んでも知らないからね!」

「俺はしぶといんだ、死なねえから早く撃て!」


 アタシは覚悟を決めて右手に魔力を集中する。


 久しぶりに使う火球。

 大きさは普通の火球の5倍はある。

 狼に向かって火球を投げ放つ。


 火球が狼へ飛んでいく……だけど……

 ああ……やはりケイオスをきっと巻き込んでしまう……


 思わず目を背けてしまいそうになったその時。

 ケイオスは急に剣を捨てた。

 そしてグイっと狼の頭を掴んで狼の体を盾にして火球を防いだ。

 火球が体に直撃した狼はドサリと倒れて動かなくなった。


「な!」

「すげえ威力だな! シルバーウルフを一撃かよ」

「アンタねぇ! そのつもりなら最初から言いなさいよ!」 

「今とっさに思いついたんだよ!」


 無事でよかった……でも……


「ありがとうな、助けてくれて、やっぱりすげえなケイトは」

「……」

「それとごめん、噓ついた」

「?」

「いつも剣術の本を読んでくれてありがとう」

「!」

「一人で居るよりケイトと一緒に居る方が楽しいぞ」

「は、はぁ?」

「その赤い綺麗な髪の可愛いケイトが好きだ」

「!」


 こ、こいつ!

 あまりの恥ずかしさに、火球よりも顔が赤く熱もっている気がする。


「魔法使わなかったのは、昔何かあったんだろ?」

「……」

「ごめんな、嘘とは言え酷い事言って」

「……べ、別にいいわよ、むしろアンタのお陰で気づいた事が有るわ!」

「気づいた事?」

「そうよ! 元々嫌われてたら嫌われる心配がないわね! 盲点だわ!」

「アホか!」

「天才的発想よ! それに……」

「それに?」

「アタシも嘘ついてたから……おあいこね」

「嘘? って何の嘘だ?」

「秘密よ! 自分で考えなさい!」

「なんだよ……」


 図書館でケイオスに初めて話しかけた時、ついた嘘。

 アタシが【剣術に】興味があると言う秘密の嘘。





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