閑話:ケイトの過去編

11:閑話※ケイオスと出会うケイト


 ※ケイトの幼少期です



 アタシは家族から嫌われていた。


 この髪のせいだ。

 真っ赤な髪の色は珍しい。

 家族からは不気味がられた。

 お父さんも、お母さんも、お兄ちゃんも、お姉ちゃんも。


 お兄ちゃんとお姉ちゃんばかり可愛がられる。

 アタシは要らない子なのかな……



 ー・ー・ー・ー



「ケイトの天職は【賢者】です!」


 お兄ちゃんとお姉ちゃんの天職判定。

 ついでだ、と一緒に連れて来られたアタシ。

 その日からアタシの日常は一変した。

 ユニークの中でも、すごい逸材と言われる天職みたい。


 お兄ちゃんとお姉ちゃんは悔しそうにアタシの事を見ていた。



 ー・



 賢者の事を教わった。

 賢者は魔法が得意みたい。

 魔法は魔導書を読んで覚えるんだって。


 要らない子だったアタシは読み書きを教えてもらえなかった。

 両親は慌てて読み書きを教える先生を家に呼んだ。


 アタシは数日で読み書きが完璧に出来るようになった。


 賢者だから?


 覚えが早いと先生が褒めてくれた。

 褒められるのは嬉しかった。

 今まで褒められた事は誰からも無かったから。


 読み書きを覚えたらお父さんが魔導書をくれるようになった。

 貰った本は1日で読み終わる。

 次の日にはもう魔法が使える。


 やっぱり賢者はすごい?


 庭に作ってもらった練習場でたくさん魔法の練習をした。

 魔法を使うとお父さんもお母さんも褒めてくれる。

 もっと褒められたい。

 頑張ってたくさん魔法を覚えた。



 ー・



 ある日、魔法を練習している所にお兄ちゃんがやってきた。

 いつもはアタシを無視しているお兄ちゃんが話しかけて来る。


「魔法を見せてくれないか?」


 お兄ちゃんから頼み事をされてアタシは嬉しかった。 

 アタシは一番得意な火球を練習場の的に向かって撃った。

 火球は的の真ん中に当たった。


「すごいな、ケイトはまだ小さいのに」


 お兄ちゃんに初めて褒められた。

 もっと見せてくれとお兄ちゃんが言う。

 嬉しくなってアタシは何度も火球を的向かってに撃つ。

 それをお兄ちゃんはじっと見ている。


 すると突然お兄ちゃんが火球が飛んでいく的の前に飛び出した。

 アタシの火球がお兄ちゃんの背中に当たって服が燃えだした。


「きゃあー! ケイトなんて事を!」


 倒れたお兄ちゃんの元にお姉ちゃんがタイミングよくやってきて火を消す。

 あわててお姉ちゃんはお兄ちゃんを手当する。


 どうして?

 お兄ちゃん、なんで飛び出したの?



 ー・



「話は聞いた、大事が無くて良かった」


 お姉ちゃんのお陰でお兄ちゃんは大した怪我にはならなかった。

 お父さんが怖い顔でアタシを見ている。


「ケイト、兄を魔法の的にして虐めていたようだな」


 え……そんなことしてない……

 頼まれて魔法を見せていただけなのに……

 なんで……


「賢者だからと甘やかしたのは間違いだったようだな、お前の様な子は要らん」


 アタシは遠く町の親戚の家へ預けられる事になった。

 お兄ちゃんとお姉ちゃんは笑いながらアタシを見ていた。


 やっぱりアタシは要らない子だったのね……



 ー・ー・ー・ー



 読み終わった魔導書を閉じる。

 図書館はしんと静まり返っている。


 親戚が居るこの町に来てから1か月。

 アタシは毎日、町の図書館に来ている。


 親戚のおじさん達はすごく優しかった。

 だけど、家には居たくなかった。


 おじさん達が嫌いなわけじゃない。

 また嫌われたら……

 そう思うと家では落ち着けなかった。

 1人で居れば誰にも嫌われないからと安心できた。



 図書館で色んな本を読んだ。

 でもやっぱり一番好きなのは魔導書だ

 だけど、あの日から一度も魔法を使ってない。

 また人を傷つけたら……

 そう考えると手が震えて魔法が使えなかった。



 ー・ー



 いつもの様に図書館で本を読んでいて気付いた事がある。


 図書館の外で剣を振っている男の子が居る。

 窓に近寄り覗き込むとアタシと同じくらいの歳の子だった。


 その子は一生懸命に剣を振り回して、力いっぱい走りまわっている。

 1人ぼっちで……だけどその子の顔は笑っていた。


 アタシはその笑顔が気になって本に集中出来なかった。



 ー・ー



 ある日、あの男の子が図書館にやってきた。

 なにかを探して、キョロキョロしている。


 話しかけてみようかしら……

 でも嫌われたらどうしよう……

 迷っていると男の子が諦めて帰ろうとしている!

 アタシは慌てて声を掛けた。


「なにか探してるの?」


 ドキドキしながら男の子の反応を見る。


「あ、うん、剣術の本を……」


 よかった、嫌な顔はされていない。

 剣術の本が欲しいのね。

 私の魔導書好きと同じね。

 でも、まったく見当違いの場所を探しているわね。


「それならこっちよ」


 剣術の本がある棚へ男の子の手を引いていく。

 さっきからなんだかずっとドキドキしている。

 久しぶりに誰かと話したからかしら……


「ここよ、この棚に剣術の本があるわ」

「あ、ありがとう……えっと……どれ?」

「このあたり全部そうよ……ってもしかして読めないの?」

「う、うん」


 字が読めないのに本を探すって……変わった子ね……


「読めないならなんで本を?」

「剣術の勉強したくて……絵が載ってれば少しはわかるかなって」


 剣が好きなのね……だからあんなに笑顔で……


「仕方ないわね……アタシが読んであげるわ!」

「え? でも……」

「いいわよ、気にしなくて。アタシも剣術には興味があって読もうと思ってたから」

「本当に? ありがとう!」


 男の子はあの時と同じ笑顔でアタシの手を両手でぎゅっと握った。

 その笑顔を見て、私の顔は髪の色と同じくらい真っ赤になった。


「アタシはケイト! あなたは?」

「お、俺はケイオスだよ」






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