第8話『冒険者たちの戦利品』

 後日。

 セリカはドルアダンのギルドにて、やきもきしながらカフカたちがやってくるのを待っていた。

 なぜなら、まだヒルデブラント討伐クエストの完了をギルドに報告していないからだ。

 ヒルデブラントを倒したあの日。

 ルフレオはなんと、討伐の証であるヒルデブラントの死体を、カフカたちに譲り渡してしまったのだ。

 その上で、こう命じた。


『あなたがたには、討伐の完了報告をお願いしたい。正直に・・・

 

「ったく、なに考えてるのよ! あんな金と名誉しか考えてない連中、自分の手柄にするに決まってるじゃない!」


 テーブルの対面で水を飲んでいるルフレオに、セリカは何度目かも分からない文句を言う。

 冒険者にとって、討伐対象の死体は、自らの功績を証明する唯一の証拠である。

 それを他人に委ねるということは、手柄を譲るも同義。

 事実はどうあれ、『証』を持つ者の言葉こそが真実となるのだ。

 ルフレオはすました顔でジョッキをテーブルに置く。


「セリカさん。我々の敵はなんですか?」


「なにって。魔族でしょ」


「その通り。では、カフカさんたちは敵ですか?」


「……味方ではないと思うけど」


「ええ。残念なことに、彼らは私たちと敵対していた。本来、手を組むべき人間同士であるにも関わらず。なら、私たちはどうするべきだと思いますか?」


「どうするって……」


 と、そこへギルドの扉を開け、カフカたちがやって来た。


「ようカフカ! やったな! あのAランクのグランドゴブリン、お前らが倒したんだろ!?」


「しかも魔王軍七十二神将ゾディアック・オーダーだったって話じゃねえか? さすがはAランク冒険者様だぜ! どうやって倒したんだ!? 聞かせてくれよ!」


 わっとほかの冒険者たちが、カフカたちを歓迎して取り囲む。

 しかし、当の本人たちは思い詰めたように押し黙ったままだった。

 やがて、魔法使いのアマンダがカフカに尋ねる。


「……本当にいいの?」


「ああ。決めたことだ」


 そして、カフカは懐から、ヒルデブラントの耳を取り出し、天に掲げた。


「グランドゴブリンを倒したのは、僕たちじゃない! セリカとルフレオだ!」


 一瞬、辺りが静まり返る。


「ど、どういうことだ? あいつらは、お前らがグランドゴブリンを倒したって……」


「それは嘘だ。あの二人は僕らに手柄を譲ったんだよ。それでAランクとしての面目を立てろって。だけどな……」


 カフカはギリッと奥歯を噛み締め、自らの胸元を掴んで叫んだ。

 

「僕にだってあるんだよ! 冒険者としての誇りってヤツがさ! そいつがうるさくてしょうがないんだ! 最近まで、忘れてたけどな! そんなヤツが居たことも!」

 

 カフカは憤然とルフレオのもとへ歩み寄ると、


「今に見てろよ、すぐに強くなって、お前なんかあっという間に超えてやる! だから、だから……僕に、剣を教えてくれ!」


 深々と頭を垂れ、カフカはルフレオに師事を乞う。

 ルフレオは満足そうに微笑んだ。


「ええ。喜んで」


「お――おいおいマジかよ! 本当にセリカとあのおっさんが、魔王軍七十二神将ゾディアック・オーダーのグランドゴブリンを倒しちまったのかよ!」


「と、とんでもねえ超大型新人じゃねえか!」


 そこへ、受付嬢が血相を変えて駆けつけてくる。


「る、ルフレオさん! セリカさん! 今のお話、本当ですか!? 魔王軍七十二神将ゾディアック・オーダーを討伐したというのは!」


「ええ。カフカさんのおっしゃった通りです」


「で、でしたら! お二人は即、Sランクへの飛び級昇格条件を満たしたことになります! あ、カフカさんの推薦が得られればのお話なんですが……」


 ギルド中の視線がカフカに集中する。

 カフカは肩をすくめて答えた。

 

「……ああ、推薦する。そいつらは僕なんかよりずっと強い。Sランクにふさわしい冒険者だ」


「では、お二人の昇格を認定いたします!」


「「「うおおおお――!」」」


「すげえええ! うちのギルドからSランク冒険者が出ちまうだなんて!」

 

 そこで、ルフレオは立ち上がると、ギルド中に響き渡る朗々とした声で告げた。


「皆さん! 昇格祝いに、今日は私の奢りです! 存分に飲んでください!」


「よっしゃああああ――!」


「ルフレオ最高~~!」


「お前こそが英雄だあああ――!」


 湧きに湧く冒険者たちを尻目に、セリカはコソコソとルフレオに耳打ちする。


「ちょっと! 大丈夫なの、お金! アンタ持ってんの?」


「まあ、魔王軍七十二神将ゾディアック・オーダー討伐ともなれば、それなりにギルドも弾んでくれるでしょう……ね?」


「え、えーと……はい、善処します!」


「本当に大丈夫なんでしょうね! あたし、知らないからね!」


 冷や汗をかいているルフレオを放置し、セリカは追加でジュースを注文する。

 すると、アマンダがセリカの隣に腰掛けた。


「ありがとね。あんたとあのおっさんのおかげで、カフカのヤツ、やる気出たみたいだから」


 やけ酒とばかりにジョッキをあおりまくるカフカを、アマンダは愛しげに見つめる。


「幼馴染なの。あたしたち。村を出て、冒険者として成り上がろうって。ずっとがむしゃらにやってきたのに、いつの間にか、つまんない大人になっちゃってたみたい。あんたに軽蔑されても当然ね」


 今まで敵対していた相手に親しげに話しかけられ、セリカはどう返せばいいか分からなくなり、

 

「……ふ、フン! これに懲りたら、精進することね!」


 結局、憎まれ口を叩くしかなかった。

 そんなセリカを、アマンダはからからと笑い飛ばす。

 

「あっはは! あたし、やっぱりあんたのこと嫌いだわ。若くて真っ直ぐで……見てるとまぶしくなっちゃう」


 セリカはルフレオの言葉を思い出す。


『ええ。残念なことに、彼らは私たちと敵対していた。本来、手を組むべき人間同士であるにも関わらず。なら、私たちはどうするべきだと思いますか?』


 今、自分がするべきこと。それは。


「……ね、ねえ。アンタの話、聞かせてよ。どうやってAランクまで上がったのか、とか」


「ちょっと、どういう風の吹き回し?」


「冒険者の先輩として、いろいろ、聞いてみたくて……」


 たどたどしく歩み寄ろうとするセリカの不器用さに、アマンダはニッコリと笑みを浮かべた。


「いいわよ。女同士、水入らずで話そうじゃない」


 こうして、冒険者たちの夜は更けていった。 


 ◆ ◆ ◆


 読者の皆様へ

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます!感謝感激の至りです!

 ここで、作者からのお願いです。

 おもしろい、続きがみたいと思われた方はブックマーク、評価をおねがいします。

 おもしろくないと思われた方も、面倒でしょうが評価での意思表示をしてくれたら嬉しいです。

 おもんないけど読めたから☆ひとつ。

 まあ頑張ってるから☆ふたつ。

 そんなつけかたでもかまいません。

 今後の執筆の糧にしていきます。

 作者としては反応が見えないのが一番ツライので

 何卒よろしくお願いします!

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