番外編③ ホラーゲーム配信で一番怖いのは愉悦民
※この話は第28話「ヤバイ残業の夜を推し兼妹とともに」後の時間軸です。
つまり、ハジメは『レイ=メタマちゃんで、電脳幽霊になっている』ことは知っているけど、仕事は辞めていない期間です
メタマちゃんの配信が始まった。
だけど、いつも言っている『こんメタマー』という挨拶もなくて、明らかに不機嫌そうな顔をしている。
『本当にやらないといけないの?』
メタマちゃんは不安げな声を漏らした。
でも、コメント欄は対照的だ。
:祭りだ
:やったぞ!!!
:キタ――――!!!
:待ってました!
:楽しみ
まるでお祭りに来た男子小学生みたいにはしゃいでいる
その理由は、今からプレイするゲームにあった。
配信にはすでにゲーム画面が映し出されている。
おどろおどろしいフォントで書かれたゲームタイトル。
ありきたりな駅の通路なのに、人が全くいない背景。
BGMは流れているけど、
それが逆に不穏さを掻き立てている。
『ホラゲー配信やりたくないんだけど!?』
:楽しみです!
:早く早く
:どんな声で叫ぶのかな?
:キタコレ
メタマちゃんの悲痛な叫びに対して、共感するリスナーは誰もいない。
◇◆◇◆◇◆
事の経緯は、前日に遡る。
その日、メタマちゃんは19時から配信枠をとっていた。
だけど、待てど暮らせど配信は始まらなかった。
初めての出来事で、コメント欄はカオスと化した。
『大丈夫か?』と心配する声や、『ゆっくり休め』と気楽な声、『寝坊きた!』とはしゃぐ声が入り混じっていた。
最終的に1時間ほど遅刻して、メタマちゃんは現れた。
『みんな。ごめん。枠とってたの忘れてた』
それから始まったのは公開処刑だった。
メタマちゃんはコメント欄の圧力に負けて、罰ゲームを受けることになった。
内容が『ホラーゲーム配信』に決まった瞬間、メタマちゃんは顔をひきつらせていた。
『わかったよ。やればいいんでしょ、やれば!』
リスナーの団結に弱いメタマちゃんは、なんだかんだで罰ゲームを呑むことにした。
◇◆◇◆◇◆
『ああ、昨日のメタマを殴りたい』
メタマちゃん嘆いても、コメント欄には《やれ》としか書かれていない。
普段はイエスマンばかりなのに、この時ばかりはリスナー達が一致団結して、配信者を追い込んでいく。
それ程までに、ホラーゲームで阿鼻叫喚する推しを見たいのだ。
そんなコメント欄を見て、もう逃げられないと悟ったのか――
『わかったよ、やればいいんでしょ、やれば!!!』とメタマちゃんは自暴自棄に叫んだ。
一連のやり取りを見て、ハジメは呆れたように頬杖をついた。
(幽霊なのに、ホラーが苦手なのか)
ハジメは冷蔵庫から缶を持ってきて、パソコンの前に戻ってきた。
そして、コメントを打っていく。
おっぱジメ:メタ虐たすかる
世の中には、推しが苦しんでいるのを見て楽しむ文化が存在する。
それを〇〇虐と言ったりする。
だけど『本人が完全に嫌がることは強要しない』というラインは存在する。
『何がそんなに面白いの!?
いいよ、どうせそんなに怖くないんでしょ!?』
メタマちゃんは半狂乱になりながらも、ホラーゲームをプレイし始めた。
このゲームは駅からの脱出を試みるゲームで、道中で様々なホラー現象がプレイヤーに襲い掛かってくる。
しかし、最初は何も起こらない。
『なんだ、大したことないじゃん』
言ったそばから、異変が発生する。
壁に擬態していた人間が突然、走って近づいてきたのだ。
全く気付いていなかったメタマちゃんは、慌てて逃げていく。
『ぎゃあああああああああああ!!!』
:すごい叫んでるw
:草
:wwww
:おもろいww
それからも何度も叫びながら、ゲームプレイを続けていく。
そして、我慢の限界が来たのか、メタマちゃんは叫んだ。
『なんでこういう時に限って、指示厨がいないの!?!?
最短ルートを教えてよっ!』
指示厨とは、ゲーム実況している配信者の元に現れては『そこは〇〇しろよ』とか『なんで〇〇しないの?』とか命令をする人達のことである。
ゲーム配信をしていると、必ず湧くような人達だ。
だけど、ホラーゲーム配信では全然湧いてこない時がある。
通常のゲーム配信では『ゲームを楽しむ配信者を見る人』や『ゲームプレイ自体を楽しむ人』など、様々な観点から楽しむ人がいる。
でも、ホラーゲーム配信においては『ゲームで泣き叫び配信者を楽しむ人』しかいないのかもしれない。
『もういやああああああああああ!!!』
そんなメタマちゃんの姿を見ながら、ハジメは缶のプルタブをプシュッと開けた。
そして、グビグビと一気に飲み干す。
(ああ、推しのホラゲ配信を見ながら飲むビールは格別にうまい)
ニヤケ顔を貼り付けながら、視聴を続けた。
だけど、メタマちゃんは慣れてきたのか、その後はすんなりとゲームクリアしてしまった。
そして――
『今日は疲れた! おつメタマ!』
いつもより雑に配信を切った。
その様子をみて、コメント欄は再度盛り上がっていた。
:草
:雑すぎw
:楽しかった!
:メタ虐最高でした!
:おつメタマw
おっぱジメ:最高ww
(いやー、面白かった)
配信を見終えて、ハジメはビール缶を片付けようと立ち上がろうとした。
その時――
『なんで助けてくれなかったの!?』
突然、スマホの画面にゾンビ少女が現れた。
しかも、かなりリアルだった。
「うわあ!?」
ハジメは驚きのあまり、ゴツン、と後頭部を壁にぶつけてしまう。
『ざまあみろ!!!』
それだけ叫ぶと、ゾンビは姿を消した。
しばらく茫然自失していたけど、徐々に状況を飲み込めてくる。
(ああ、メタマちゃんの――レイの
まだ痛む後頭部をさすりながら、ペンダントライトの暖かい光を見つめた。
それから、消え入るような声でつぶやく。
「なんでオレだけ……」
ぼやきながらも、ハジメの顔はニタニタしているのだった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
読んで頂き、ありがとうございます!
カクヨムコンの期間も明日の正午で終わりですので、今日の夜にもう一本あげたい!
ホラゲ配信を楽しそうに思えたら、♡や☆、フォローをよろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます