番外編

番外編① リスナーは奴隷にされたい

※この話は第11話「カオスな復帰配信」後の時間軸です。

 つまり、ハジメは『レイ=メタマちゃん』とは知っているけど、電脳幽霊になっていることはまだ知らない時期です





「もう嫌だ、この仕事辞めたい……」



 終業後。

 ハジメとリツは喫煙所で雑談をしている。


 リツは至福の表情で煙を吸い上げ、ハジメは窓越しに夕日を見て黄昏たぞがれている。



「どうしたんですか先輩。今日は比較的暇だったじゃないですか」

「暇だからこそ、色んなことを考えてしまうんだよ」

「わからなくはないですが、何をそんなに悩んでいるんですか」



 リツが興味なさそうに訊ねると、ハジメは



「なんか、仕事に虚無感を覚えてきた」



「オレはどうせ、このまま会社の奴隷として生きていくんだ。

 奴隷のままで終わるなら、メタマちゃんの奴隷になりたい……」

「頭大丈夫ですか?」



 本気で心配そうな顔を向けられて、ハジメは唾を飛ばしながら声を張り上げる。



「誰だって一度は考えたことがあるだろ!

 推しの奴隷になりたいって!」

「いや、無いですよ。どれだけ好きでも奴隷にはなりたくないです」



 リツが呆れていると突然、バン、と喫煙室の扉が開いた。



「わかるぞ!」

「うわっ!? 上野課長!?」



 喫煙所に突然、上司が乱入してきたのだ。

 おそらく偶然通りかかって、話し声が聞こえたのだろう。



「俺もメタマちゃんの奴隷になりたいと常日頃から思っている。妻の奴隷は願い下げだがな」

「そうですよね! 同志がいて嬉しいです」

「いや、奥さんは大事にしてくださいよ……」



 それからしばらく、ハジメと上司は奴隷になってどんな扱いを受けたいのか、話し合い続けた。


 そして次の日、オッサン二人の願いは叶うことになる。




◇◆◇◆




 世の中には『自由度が高すぎるゲーム』というものが存在する。


 自由度が高い、というのは一見面白そうに見えるかもしれない。

 だけど、重大な欠点を抱えることがある。


 倫理観が壊れてしまうのだ。

 正確に言えば、倫理観のない手段が、最も効率的になってしまう。

 人間は効率的な方法があれば、そちらを選んでしまうものだ。

 ゲームという治外法権の中では猶更なおさらのことだ。


 結果、倫理観を度外視したゲームプレイばかりになってしまう。


 そんなゲームをプレイするVTuberの姿は、ファンの目からはどのように映っているのだろうか。



『あははははははははははははは』



 メタマちゃんは高笑いをしていた。


 会議室のプロジェクターで映し出されている配信画面では、原始人のように半裸な女性が殴っている。

 その標的は、癒し系のかわいいキャラクターだ。


 最終的に、弱ったところをボール形状のアイテムで捕獲した。


 一目見ればショッキングな映像だろう。

 だけど、昨今はこのようなゲームが流行っている。

 他にはデザインやゲームシステムがツギハギだと炎上していたりなど、かなりの問題作だ。


 だけどプレイヤー側からすれば、話題になっている楽しいゲームを遊べればなんだっていいのだ。



「すごい楽しそうですねぇ」とリツが呆れたように言うと

「いいなぁ」とハジメが呟いた。

「お、珍しくゲームに興味が出たんですか。せっかくなら一緒に――」



 リツは嬉々としてゲームに誘おうとした。

 だけど、衝撃的な一言に遮られてしまう。



「あのモンスターが羨ましい」

「え?」



 一瞬で、リツの表情が凍った。

 そして脱兎のごとく距離をとる。


 それに気づいて、ハジメは必死に弁明しようとする。



「しょうがないだろ。『推しに殴られたい』と思うのは普通のことだ!」

「いや、SMプレイじゃないですか。普通に不気味ですよ」



 リツはドン引きといった様子だが、その場にはもう一人がいる。



「わかるぞ! 妻に殴られたら容赦しないがな!」

「そこ分かんないでください! あと奥さんを大事にしてください!」



 リツは頭を抱えてしまった。

 深刻に悩んでいるようで、話しかけられる雰囲気ではない。


 少し会議室の空気が重たくなっても、配信は続いていく。



『乱獲だ乱獲。人間捕まえるのはおかしいでしょ。あはははははははは』



 このゲームは人間を捕まえることも、奴隷として働かせることもできる。

 だけど、人間以外のキャラクターに作業させた方が効率がいい。


 それをわかっていながら、メタマちゃんは人間ばかりを捕まえている。



『大量に捕まえて、全員にリスナーの名前を付ける!

 そして働かせてやる! 光栄でしょ?』


:草

:暴走してるww

:お願いします(スパチャ)

:奴隷なりたい(スパチャ)


ウェー↑ノ:鞭で叩いて頂けるのですか!?(スパチャ)

おっぱジメ:ありがとうございます(スパチャ)



 コメント欄は奴隷になりたいリスナーで溢れかえっていた。

 それが本心なのかはわからないが、スパチャもかなりの量が飛んでいる。

 完全にお祭り騒ぎだ。


 捕まえた人間全員にリスナーの名前を付けて、働かせていた。

 だけど――



『あー。リスナー達使えないなぁ』



 結局、あまりにも作業が遅いせいで、商人に売り飛ばされていった。



『出荷だ出荷だー』


:草。メタマちゃんのファンを辞めます

:リスナーを売った金で食う飯はうまいか?

:無慈悲ww

:出荷よー

:ドナドナドーナwww


 

 その後、メタマちゃんは普通にプレイをした。

 といっても、かわいらしいキャラクターを銃で撃っている。

 画面のショッキングさは相変わらずだ。


 そんな画面を見て、リツがボソリと呟く。



「本当にいいですよね、このゲーム。

 かわいいキャラたちを殴ったり撃ったりして倒せるなんて。

 あんなかわいらしい声で鳴いて、そのまま動かなくなってしまうなんて……。

 正直、興奮してきました」

「え?」



 ハジメが驚愕した顔を向けると、リツは冷や汗だらけの顔を逸らすのだった。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

この作品は実在する団体・ゲームとは一切関係がありません!!!


あのゲームのことか、と思った人は♡や☆、フォローをよろしくお願いします!!!


番外編はこんな感じでラフな話がメインです。

だけど、本編を補足する話も投稿予定です。

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