第26話 双子に挟まる苦労人美少女?
「ただいまー」
リツは辛そうな声を上げながら、自分の部屋のドアを開けた。
その後、自分の肩に手を回している人物に声を掛ける。
「ほら、先輩。ちゃんと歩いてください」
「らいじょーぶ、らいじょーぶ」
ハジメは呂律が回っていない様子だ。
顔が真っ赤で、足元もおぼついていない。
完全な泥酔状態だ。
「大丈夫じゃないですよ。あと、変なところを触らないでください」
胸に触れていたハジメの手を無理矢理引き剥がした。
ガチャリ、と。
リビングに入ると、突然声が聞こえる。
『うわ、酒くさっ!』
レイが芝居がかった動作で、鼻を押さえていた。
「いや、匂いを感じるセンサーは付けてないですよね」とリツが冷静なツッコミを入れると
『だって、見るからに酒臭いじゃん。顔真っ赤だし、ベロベロだし』とレイは眉間にしわを寄せた。
「先輩、ボクよりも飲んでないはずなんですけどね」
『まあ、両親とも
仕事終わりに、リツはハジメに焼き肉を奢ってもらったのだ。
だけど、酔った勢いでアルハラをして、泥酔させてしまっていた。
しばらく迷った結果「都合がいいや」と自分の部屋に持ち帰ってきた、という経緯である。
グデグデになったオッサンをソファに寝かせると、リツは疲れたように息を吐いた。
その様子を見たレイは、クスクスと愉快そうに笑った。
『それにしても、じめにいをお持ち帰りとは、なかなかやるね。少し外に出てようか?』
「バカを言わないでください。兄妹で話し合わせるために連れて来たんです。むしろ、ボクが出ていった方がいい気がします」
『いや、リツちゃんにはいてほしいな』
リツは納得がいかなそうに、小首を
「なんでですか」
『ストッパーが欲しいから』
レイの素直な答えを聞いて、苦虫を噛み潰したような顔になる。
「まったく、何でボクはいつも損な役回りなんですかね」
床に散らかっているゴミや服を片付けながら、話を続ける
ハジメが起きた時に、見られないようにするためだ。
『ねえ、リツちゃんに、じめにいを任せられないかな』
リツはビクリと反応したけど、片付けを続ける。
「イヤに決まってるじゃないですか。それに、先輩はボクなんかに興味ないですよ」
『興味は無くても、懐いてはいるでしょ』
「懐いてるって……ペットじゃないんですから」
床の片付けを終わると、タバコに火をつけて、ゆっくりと煙を吸い始める。
だけど、すぐに『換気扇』と指摘されて、面倒くさそうにしながらスイッチを押した。
「それに、ボクは先輩より、レイちゃんの方が好きですよ」
真顔で言い放つと、レイは困ったようにハニかんだ。
『……返しにくいことがわかってて、わざと言ってるでしょ』
「バレましたか。でも本心ですよ。ボクの家族と言えるのは、今はレイちゃんしかいないので」
息を呑むのに十分な時間、無言が続いた。
ロボットは音は出せても、息を吸うことはできない。
『そっか。ごめんね。唯一の家族が幽霊で』
レイが暗い声音で謝ると、リツはテンションの高い声で返す。
顔に出ていないけど、リツも酔っぱらっているのだろう。
「むしろ嬉しいことですよ。捨てられることもありませんし、勝手に死なれることもありませんし。死んでも葬式の必要はありませんし、結構いいことずくめです」
『その物言いは酷くない? 泣きそうだよ』
「残念。涙を流す機能はつけていませんよ」
『そっか、アタシは泣くことも許されないんだ……』
下手な鳴きまねをするレイに向かって、リツは冷たい目線を送る。
「泣く暇があったら、配信してお金を稼いでください」
『酷いっ!
リツは大変だと言っていたが、本当に大変だったのはレイだっただろう。
なにせ、リツが突然泣き出してしまったのだから。
「それは悪かったですから……先輩には黙っててください」
『うーん、どうしよっかなー?』
それからしばらく、二人は談笑を続けていた。
リツが酔っているからか、普段よりも話が弾んでいた。
そんな中――
「んぁ……。ここはどこだ……?」
ハジメがムクリと起き上がった。
二人の話し声で目を覚ましたのだろう。
まだまだ寝ぼけているようで、目を擦っている。
まるで子供みたいな仕草だ。
見た目は完全に酔っ払ったオッサンなのに。
『じめにい。起きたの?』
レイが囁くように声を掛けると、ハジメはトボトボと振り向いた。
「あ、レイ……」
『寝ぼけてるね』
「もうどこにもいかないでよ、レイ。もうレイのいない世界は、メタマちゃんのいない世界は、考えられないんだよ。きっと、冷たくて暗いよ。」
きっと、ハジメの本心なのだろう。
相手の気持ちもを考慮していなくて、ただ自分の好意を押し付けているだけだ。
でも、それだけ純粋な想いだ、ということだ。
胸を打たれたレイは、口角を上げた。
『どこにもいかないよ、だから今は安心して眠ってね。じめにい』
優しい嘘を聞いたハジメが「……うん」と小さく頷いて、レイの近くでうずくまった。
すると、レイはその頭をそっと撫でた。
ロボットの冷たい感触は、酔っているハジメにはちょうど良かったのだろう。
またスヤスヤと寝息を立て始めた。
『あーもー。こういうところがかわいいんだから』
ハジメの寝顔を見つめると、レイは幸福に満ちた顔を浮かべた。
その姿は、双子の兄妹というよりは、年の離れた姉と弟のように見えてしまう。
『リツちゃん、悪いけど毛布を持ってきてくれる?』
レイは穏やかにお願いをした。
だけどすぐに動く気にはなれず、リツはタバコを一気に吸い上げた。
そして、どこか遠い目をしながら、小さく口を開く。
「先輩がダメダメになった理由が分かった気がします……」
タバコの煙を輪っかにして吐いた後、その中心をぼんやりと眺めるのだった。
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このままではVTuber詐欺になってしまうので
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