第24話 一星雨魂爆誕!!
〝1週間サバイバル生活〟最終日。
兄妹の顔立ちは、初日から大きく変わっていました。
最初は平和ボケしていましたが、今は兵士のようにキリリと凛々しい顔になっています。
「それじゃあ、じめにい、最終日も張り切っていこう」
「ああ、気を付けてな」
二人は熟練の仕事人のような雰囲気を漂わせながら、食料を捕りに向かいました。
しかし、兄妹は大事なことを忘れていました。
天気予報を全く見ていなかったのです。
運が悪いことに、この日は気圧が不安定で、天気が崩れやすかったのです。
結果として、外でゲリラ豪雨に降られてしまいました。
しかも、ゴロゴロと雷が聞こえる程、ひどい雨でした。
そんな状況だったので、妹は釣りを中断して、雨宿りをしていました
すると――
「おーい。無事かー?」
兄が傘を持って駆けつけました。
そして、二人で暴風に耐えながら、家に帰ろうとしたのですが――
ピカッ、と。
強烈な閃光が周囲を覆いつくしました。
直後、地面を割るような、大きな音が耳をつんざきました。
兄はとっさに傘を閉じました。
傘に雷が落ちる可能性があったからです。
しかし、それは意味のない行動でした。
「じめにいっ!!」
突然妹は、兄を突き飛ばしました。
なんと妹の目線の先には、電線がありました。
先ほどの雷は電線に落ちていて、あろうことか断線させていたのです。
それが強風にあおられて、兄妹のいる方向に流れてしまっていました。
「じめにい……手を伸ばさないで」
電線が触れた瞬間、バチッ、という音とともに、妹の意識は途絶えていきました。
最後に感じたのは、焦げ臭さと、兄の悲痛な声。
それらに包まれながら、妹の瞼はゆっくりと閉じていきました。
もちろん、二度と開くことはありません。
こうして妹は『食費を使い込んだ挙句、雷に打たれて死んだ』という、なんとも間抜けな理由で、その人生に幕を閉じたのでした。
◇◆◇◆
次に目を覚ますと、妹はなんと、異世界にいました。
異世界といっても、中世ヨーロッパのようなファンタジー世界ではありません。
電脳世界――ネットワークの中にいたのです。
原因は皆目見当もつきませんでしたが、まず最初に抱いた感情は、
死んだときの恐怖が、まだ心にこびり付いていたのです。
今生きているとすれば、もう一度死の恐怖を味わうことになってしまう。
妹には、それが何より恐ろしいことでした。
ですが、どれだけ時間が経っても、自分の存在が消えることはありませんでした。
じっとしているのも嫌になった妹は、ネットの世界で生きていくことを決めました。
まず最初に向かったのは、有名な匿名掲示板でした。
そして匿名掲示板と言えば、もちろん――
荒らし行為です。
荒らしとしての頭角を現した妹は、一気に有名荒らしとしてのスターダムをのし上がっていきました
ですが、そんな栄光は永く続くわけもなく、すぐにアカウントをBANされたのです。
それでもめげず、新たな居場所を探していきます。
「そうだ。配信をしてみよう」
ですが、全く視聴者が集まらず、少ない視聴者を煽ってしまいました。
結果、視聴者はいなくなってしまいました。
次に挑んだのは、その時話題になっているものでした。
「そうだ。VTuberをやってみよう」
早速VTuberのモデルを動かそうとしました。
ですが、2Dの体と本当の肉体では、全く動かし方が違ったのです。
頑張って練習をしても、どうにもなりませんでした。
ですが、妹は閃いたのです。
「そうだ。顔を忠実に再現したロボットを作ってもらって、それを動かせばいいんだ」
幸いないことに、そのようなロボットの研究は
早速お願いしてみようとしました。
しかし、妹にはある
「アタシと同じか、アタシ以上にカワイイ子じゃないとイヤだ!」
自分より顔が良くない人間に、自分のかわいい顔を作ってもらうのは、プライドが許しませんでした。
ですが、そんな人材が、おいそれと見つかるはずがありません。
一年後。
ようやく見つけることができました。
それが、村木律でした。
彼女は大学で、表情を再現するロボットの研究をしていました。
しかも、とてもかわいらしいお顔をしていました。
お金を欲していたので、スパチャや広告収入をすべて渡すという条件を出してみました。
すると、あっさりと引き受けてくれたのです。
こうしてVTuber『一星雨魂』が爆誕しました。
それから半年ほど経った頃。
心に余裕ができてきて、妹の中には、一つの気がかりが生まれました。
(家族はどうしてるのかな)
早速、自分の実家を覗いてみることにしました。
スマホが普及していたため、そのカメラやマイクを介して、様子を見ることが出来ました。
まずは父親です。
普段は物静かなのですが、なんとSNSでレスバをしていました。
それを知った時は
次に、母です。
母は、昔と変わらずに過ごしていました。
月命日に、好きだった甘い卵焼きを、欠かさず供えてくれていると知った時には、涙があふれてしまいました。
両親のどちらも、元気そうに生きていました。
妹や弟が生まれていないことに安堵しながらも、最後の家族を見に行くことにしました。
その最後の、兄が問題でした。
兄はとても辛そうに生きていたのです。
毎日のように仕事をして、家に帰っても特に何もせず、寝てしまう。
笑顔を見せる瞬間なんてほとんどなくて、常に俯いていました。
完全に社畜の泥沼にハマっていました。
そんな兄の姿を見てしまった妹は、胸が締め付けられる思いでした。
そして、二人は双子ですから、その理由にも気づいてしまったのです。
(アタシのせいだ。あんな風に死んじゃったから)
その時、妹の中で、パズルのピースがカチリとハマりました。
ずっと疑問に思っていたのです。
自分がなぜ、電脳幽霊として
その答えが、ようやく見つかったのです。
「兄を全力で幸せにして、成仏してやる!」
こうして妹は、兄と再会することになったのでした。
ちゃん♪ちゃん♪
◇◆◇◆◇◆
紙芝居を終えると、レイはゆっくり顔を上げた。
その顔を瞳に映した瞬間、ハジメは思わず息を呑む。
『アタシは、じめにいに幸せになってほしいんだよ
少しでもいいから、励ましたかったんだ』
レイは、切なそうに微笑んでいた。
「レイ……」
「だから、幸せになって、アタシを成仏させて」
ハジメは息をするのも忘れて、レイの顔を触れた。
骨壺のように冷たいロボットの感触。
その冷たさが、ハジメの中から、
「レイ。ごめん」
それだけ告げると、ハジメは
顔を見せないように、
「ちょっ、先輩!?」
『待って、リツちゃん!』
「え!?」
リツとレイの切羽詰まったやりとりも、ハジメの耳には入っていなかった。
ただひたすらに足を動かしていた。
目を背けたい現実から離れようとしていた。
一刻も早く、何も知らなかった頃に戻りたかった。
つまり――
もう30歳にもなるのに、ハジメはみっともなく逃げ出してしまったのだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
重めの過去を、できるだけコミカルに、短くまとめてみました
雑でSFチックな内容ですが、ご愛嬌ということで……
逃げ出したハジメに苛立った人は、♡や☆、フォローなどをよろしくお願いします!
また、例のごとくギリギリの脱稿なので、誤字脱字などがありましたら、コメントして頂けると助かりますm(__)m
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