第23話 二枝兄妹による1週間サバイバル生活

 別々の高校に進学した兄妹は、少しずつ昔の仲を取り戻していきました。


 兄の中二病は徐々に落ち着いてきていて、黒歴史ノートは押し入れの奥深くに封印されています。


 妹の反抗期は終わりを迎えて、母親のお弁当を毎日楽しみにするようになりました。


 特に何か大きな出来事があったわけではありません。

 自然と、精神が成長しただけの話です。

 ですが、元鞘に戻ったわけではありません。


 幼い時みたいに、ベタベタすることは無くなってしまいました。

 第二次性徴を超えて、二人には〝性別〟という壁が出来ていたのです。


 幼い時はあまり変わらない体格をしていたのに、高校生にもなると、かなり差が出来てしまいました。


 兄の体格は、かなりガッチリしたものになっていました。

 顔は普通でしたが、ブサイクな訳でもなく、影と幸が薄い少年に育ちました。


 妹は胸の成長に乏しかったのですが、大和美人風な少女に成長していました。

 ただし、中身にはお淑やかさは全くありませんでした。


 二人はちょうどいい距離感を保ちながら、穏やかに暮らしていました。

 

 そんなある日、転機が訪れます。


 母親が突然、夕卓で言い放ったのです。



「一週間ぐらい、夫婦水入らずで旅行に行くことにしたから」

「「はあ!?」」



 いきなりの宣言に、二人は抗議しました。

 しかし母親は頑として譲りません。



「あなたたちももう高校生なんだから、もう大丈夫でしょ」



 兄妹は助けを求めるように父親に視線を移しましたが、さらに驚愕することになります。


 普段寡黙な父親の頬が、ポッ、と赤くなっていたのです。

 その上、母親もモジモジし始めていました。

 明らかに発情している様子だったのです。


 そんな両親の姿を見せられては、子供二人は呆れる他ありません。


 こうして、年の離れた兄弟が産まれないことを祈りながら、旅行に行く両親を見送りました。



「じめにい。どうしようか」

「ある程度お金を置いて行ってくれたから、なんとかなるだろ」



 両親が1週間分の食費として、3万円を支給されていました。

 十分すぎる金額と言えるでしょう。



「そうだよね。変な使い方をしなければ、」

「そんな使い方するわけないだろ」

「「あはははははは」」



 しかし、その予測は非常に甘いものでした。


 普段お小遣いに飢えている若者が、そこそこの金額を手に入れてしまったのです。


 その結果は火を見るよりも明らかです。



「使いすぎちゃったね」

「これは……詰んだな」



 二人の手の中には、リンゴ1個分のお金しか残っていませんでした。


 兄は欲しかったゲームを、妹は服や化粧品を買ってしまったのです。



「お前が買いまくるから!」

「じめにいだって、人のこと言えないでしょ!?」



 兄妹は、激しい言い合いを始めてしまいました。


 なお、妹は兄の2倍以上の金額を使っていたのですが、対等な言い争いになっていました。

 普段からのパワーバランスがうかがい知れます。


 30分程言い争うと、お腹が空くだけだと悟って、仲直りすることにしました。


 それから両親に電話をしてみましたが――


『バカじゃないの!?!?』


 その一言で、通話を切られてしまいました。


 ちょうど夏休みの真っただ中だったので、学校で友達から弁当をせがむことも出来ず、食料を調達する術はないでしょう。


 ですが幸いなことに、備蓄としてインスタント麺や缶詰が戸棚に残っていました。

 それでも3日分程度の量しかなくて、二人は肩を落としました。


 つまり、残り4日分の食料を、自力で確保しないといけなくなったのです。



 こうして、双子の兄妹による〝1週間サバイバル生活〟が幕を開けました。



 妹は川に魚釣りを、兄は山や空き地で山菜を集めることにしました。


 妹は虫が苦手だったので、このような分担になりました。

 釣り竿は父親が買うだけ買って使っていなかったものを、物置から引っ張りだしたものです。

 野草は家の中にあった『食べられる野草ガイド』という本を参考に探していました。


 ですが――

 最初の一日の成果は、ほとんどありませんでした。



「じめにい、そのままのやつも悪くないね」

「たくさん噛む分、満腹になりやすそうだ」


 その日の夕食は寂しく、チキンラーメンを半分にして、お湯を使わずそのまま食べました。

 

 今思えば、なぜ、そのまま食べていたのか謎です。

 お金なんてなくても、お湯なんていくらでも沸かせるし、一緒に温かいお茶を飲んでいました。


 きっと、異常事態に動転してしまっていたのでしょう。


 そんな調子は、2日目以降も引き継がれていきました。


 兄は野草を取りに、妹は魚を釣りに出かけ続けました。

 日を追うごとに成果は増えていきましたが、それでも成長期の若者のお腹を満たせる量には足りませんでした。

 

 徐々にひもじい気持ちになってきた二人は、自然と体を寄せ合うようになりました。

 中学校3年間に離れていた分を埋めるように、ベタベタにくっつき出したのです。 



 3日目になると、肩をくっつけていました。

 4日目になると、指を絡めていました。

 5日目になると、一緒のベッドに寝ていました。

 6日目になると、■■■■をしていました。



 一緒に生まれてきたのですから、一緒に生きることも、一緒になることも、きっと自然なことだったのでしょう。


 そうして〝1週間サバイバル生活〟は最終日に突入しました。


 ですが、この最終日に、悲惨な事件・・・・・が起きるのでした。





◇◆◇◆



 紙芝居を捲るレイを前に、リツが突然立ち上がった。


「ちょっと待った!!!」

『ごめん、止めなーい』



 レイは愉快そうに笑っていて、らちが明かないと悟ったのか、訴えかける相手をハジメに変える。

 


「先輩、嘘ですよね!?」

「あ……えっと……」



 ハジメは明らかに狼狽うろたえていた。

 そのモジモジとした仕草が、すべてを物語っているだろう。



『それじゃあ〝1週間サバイバル生活〟最終日のはじまりはじまりー』



 レイは強引に、紙芝居をめくり出すのだった。






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