第3章 双子の兄妹と、愉快な後悔

第22話 昔々あるところに

 昔々あるところに、双子の兄妹が暮らしていました。


 ですが、双子と言っても二卵性双生児なので、見た目も性格も全く似ていませんでした。


 妹は眉目秀麗・才色兼備。非の打ちどころがありません。

 それに対して、兄には、これといった取り柄がありませんでした。

 そこで周囲からつけられたあだ名が『母親のお腹の中から美女と野獣』という、あまりにも酷いものでした。


 そんな状況なら普通、妹に劣等感を抱いていてしまうでしょう。


 しかし、兄にも取柄と呼ぶべきか判断に困る、とんでもない才能が有ったのです。



 それは――


 妹に対する、異常なまでの愛情です。


 常に妹のことを観察し、見守り、愛していました。


 そんな彼だったからこそ、妹と比較されて、自分がののしられようとも、妹を褒められているととらえてしまっていたのです。



「レイ、好きだよ。双子として」



 それが兄の口癖でした。



「じめにい。きもい」



 口ではそう言っていましたが、妹もまた、そんな兄が大好きでした。


 二人は何をするにでも、ずっと一緒にいました。

 友達と遊ぶ時も、遠出するときも、いつも


 ですが、そんな優しい時間が長く続くはずもなく、大きな転機が訪れました。


 中学生入学。

 本格的な思春期の到来です。


 そして思春期と言えば――

 

 そう、反抗期です。


 妹は兄や両親を毛嫌いするようになってしまいました。

 特に母親との関係は酷くて、、顔を合わせれば母親と口喧嘩をしていた程です。

 夜に遊び歩くことが多くなり、



 兄はと言えば、中二病を患っていました。

 ですが、苦手なブラックコーヒーを飲んだり、ノートにポエムを書き溜めたり、ドクロマークをこよなく愛すような一般的な中二病とは、少し違いました。


 眼帯や手袋をつけて「くっ、右目がうずく」とうめいたり、時空のはざまを探すような、とても痛い人になっていました。


 いわゆる邪気眼系中二病というものです。


 兄の部屋は徐々に物騒でオカルトなものが増えていき、何故か風呂に入らなくなりました。

 妹にとっては非常に不潔で、近寄りたくない存在でした。



 兄は邪気眼系中二病。

 妹は重度の反抗期。 



 そんな二人が、分かり合えるはずがありません。

 喧嘩はしませんでしたが、口を利くことはなくなりました。

 その結果、兄妹には大きな溝が出来てしまいました。


 こうして、中学生という倦怠期が生まれてしまいましたが、好転する出来事が高校で待ち受けていました。




◇◆◇◆




「すみません」



 リツが手を挙げると、レイが口と手を止めた。 



「なんなんですか、その紙芝居は」とレイの手元を指さす。

『レイちゃんお手製の、レイちゃんの半生を大反省会物語』



 レイはロボットの指を巧みに操り、紙芝居を披露していたのだ。

 絵はキレイに書かれているのだけど、何故か少女漫画みたいな淡い画風である。



「せっかくパソコンの中なら自由にできるのに、手書きで描く必要ありましたか?」

『わかってないなぁ。紙芝居は手書きが一番なんだよ。それに、ロボットの体を動かす練習も兼ねてたから』

「それにしても、なんで時代に逆行を……。先輩もそうお思いませんか?」



 様子を伺うように横を向いたリツは、予想外の光景にギョッとした。



「お兄ちゃんは嬉しいよ……。こんなに想ってくれていたなんて……!」

「いや、ところどころ貶されてましたよ?」



 ハジメは妹の紙芝居を見ることが出来たのが嬉しくて、ボロボロ泣いていたのだ。

 その理由は、本人にしかわからないだろう。



「奇妙にジメジメしてるじめにいは放っておいて、さっきの続きから行くよ」

「まだやるんですか、この茶番」



 リツが呆れたようにため息をついても、レイは紙芝居をめくりだすのだった。






――――――――――――――――――――――――――――――――――――

今回短めで申し訳ございません


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