第20話 後輩は重要参考人
「一体どういうことなんだ!?」
目の前にいる女性ーーリツを前に、ハジメは茫然としていた。
さっきまで妹のレイと思って接していたのは、後輩のリツだった。
その事実を受け入れきれなくて、頭の中は真っ白で空っぽになっている。
「ボクはレイちゃんに頼まれて、レイちゃんの振りをしていただけです」
リツは堂々と言い切った。
その表情には、迷いが無いどころか、怒りから来る
「さっき壊したのは、カメラ兼スピーカーです。そこから、レイちゃん自身が声を出していました」
「なっ、なんでそんなことを!?」
ようやく頭が回り始めたハジメが、大きな声で訊いた。
「ボクからは、これ以上説明する気はないです」
言うや否や、リツはハジメの手を取り、引っ張り上げる。
「ボクの家に来てください。レイちゃんがいます。そこで全部、レイちゃん本人から聞いてください」
リツはハジメを引っ張り、カラオケから出ようとする。
ハジメは抵抗する気力もなくて、素直に連れていかれる。
ハジメはリツの華奢な背中を眺めながら、今の状況を
(そっか。デート中の違和感の原因は、これだったのか)
言動と行動がチグハグだったり、いきなり気分が変わったり――。
おそらく、レイとリツの連携がうまく取れていなかったのだろう。
それに、レイは知らないはずの情報を知っていた。
最初からリツと繋がっていたのなら、説明がつく。
(今思えば、食べ方の汚さとか食欲旺盛なところとか、まんま村木じゃん)
頭の整理がついたころには、二人はカラオケの外に出ていた。
「デート中には手を繋げなかったのに、今は繋いでいるのは不思議ですね」
そんなリツの雑談は無視して、ハジメは口を開く。
「レイと知り合いだったのか」
「というか、レイちゃんはボクの家にいますよ。前言った同居人はレイちゃんのことです」
リツがサラリと答えると、ハジメは恨めしそうな視線を送る。
「なんで隠してたんだよ」
「ボクから答えることは何もありませんよ。全部、レイちゃんから聞いてください」
「本物のレイに、会えるのか……?」
長い沈黙があった後、足を止めることなく、リツは口を開く。
「先輩。レイちゃんは死んだんですよね?」
「あ、ああ、そうだな」
「じゃあ、なんで今『一星雨魂』としてVTuberをやれているんですか」
ハジメが言葉に詰まっているにも関わらず、リツは畳み掛けていく。
「VTuberにもちゃんと肉体があって、表情をトラッキングしているんですよ。当たり前ですが、死んでいては、VTuberなんて出来るはずがありません」
「でも、顔バレの時、はっきり顔が見えたんだぞ……」
「今のご時世、あんな映像は簡単に作れますよ」
「じゃあ、一体どういうことなんだよ!」
リツは少しだけ歩くペースを落としながら、告げる。
「その答えが、今からわかるんですよ」
リツの生暖かい声を聞いた瞬間、ハジメは足を止めた。
それに反応して、リツは繋いでいた手を離して、振り返った。
「……知りたくない」
「は?」
「知らなくたっていいじゃないか。今メチャクチャ楽しいんだから」
ボソボソをと言った後、爆発したみたいに語気を強めていく。
「オレ、ずっと生きるのがつらかったんだ。仕事も人間関係も辛くて、楽しい事なんて一つもなかった。
でも、メタマちゃんに出会って、暗かった世界が明るくなって、死んだはずのレイともお話出来た!
今、生きるのがメチャクチャ嬉しいだっ!」
感情の
「だから真実なんて、現実なんて、どうでもいいだろ!
どうせ辛いことしかないんだからっ!」
珍しく声を張り上げたハジメを前に、リツは一切動じていない。
「先輩。ボクはここで逃げ出すことは否定しません。それも一つの選択肢だと思います」
リツの声には、感情がこもっていなかった。
だけど、どことなく柔らかい口調だ。
「でも、よく考えてください。逃げた先に何があるんですか?」
ハジメは、冷たい息を吸い込んだ。
「『逃げる』という行為は、一つの大事なものを守るために、他の全てを捨てることだと、ボクは思っています」
リツは胸の前に手を持ってきて、何かを握りしめる。
「一番やっちゃいけないのは、大事なものが分からないのに逃げることです」
耳が痛いのに、ハジメは彼女の言葉を聞いてしまう。
切なそうな表情から目が離せない。
「ここで先輩が逃げてしまったら、きっとレイちゃんは報われないですよ」
「レイが……報われない」
その瞬間――
カチリ、と。
ハジメの中で、覚悟が決まった。
さっきまで怖かったのに『レイのため』と思うだけで、足の震えも止まっていく。
真っ暗だと思っていた未来に、少しだけ光が差した気がした。
「レイのためなら……」
決意のこもった瞳を向けると、リツは優しく微笑んでくれた。
「もう大丈夫みたいですね」
リツの暖かい声を聞くと、ハジメは生暖かいため息をついた。
「はぁ。なんか母親に叱られてるみたいだったよ」
「先輩みたいな子供なんて、ボクの方から願い下げですよ」
「言ってくれるな」
「言ってやりましたよ」
二人はクスクスと笑った。
いつのまにか、両者とも
「ちなみに、ボクの家はあそこのマンションですよ」
リツは目の前にあるマンションを指さした。
「ちか!?」
「ほら、さっさと行きますよ。先輩の気持ちが揺るがないうちに」
リツは生意気に笑いながら、ハジメの背中を押し始めた。
「覚悟を決めても、怖いものは怖いんだけど!」
「大丈夫ですよ。先輩の骨は拾ってあげますから。その後、骨をどうするかは教えませんが」
「死体撃ちよりもえげつなさそう」
軽口を叩いていると、厚底ブーツで足を踏みつけられてしまった。
尚、リツはおっちょこちょいにも、足首を
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明日は書く暇がなさそうなので、明日分も今日中に書いて、更新する予定です!
出来なかったら……ごめん……
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