第23.5話 何歳?

「ねぇ、フェリエッタさん。」


「はひ?」


 音沢おとざわがソファに座っているフェリエッタの肩を叩くと、彼女は、口に物を入れたまま振り返る。フェリエッタの口に周りには、クリームが付いていた。


 第三班のミーティングルームでは、フェリエッタの歓迎会が行われている真っ最中であった。普段は会議に使われている机の上に、笹平ささひらが持ってきたケーキや料理が、ところせましと置かれている。


「フェリエッタさんのこと、フェリエッタ“ちゃん”って呼んでもいい?」


「え!? はひ、んぐ! …喜んで!」


 フェリエッタは口の中いっぱいにあったケーキを、急いで飲み込みながら答えた。それを聞いた音沢は、嬉しそうに笑顔を浮かべる。


「ホント!? ありがとー。まじ、ひさしぶりに年の近そうな女の子が入ってくれて、良かったー。」


「わしも、ふぇりえったと呼びたいぞ。良いか!」


 枸橘からたちが、フェリエッタと音沢の会話に割り込んできた。枸橘の手には、紙コップが握られており、頬が赤く染まっている。そのまま、彼女はフェリエッタの膝の上へと、ちょこんと座った。


「もちろん、いいですよ。」


 枸橘からの問いかけに、フェリエッタは彼女の頭を、なでながら答えた。




「そういえば、皆さん、おいくつなのですか?」

 

「えー、それ聞いちゃうかー。ちなみに私、何歳に…。」


「25。」


 音沢の話を突然さえぎり、少し離れた場所で、飲み物を飲んでいた江良川えらがわが口をはさむ。


「25。」


「あのー、何が…。」


「そいつ、25。」


「ちょ、君!?」


 音沢が、フェリエッタの隣を飛び出し、江良川へと向かっていった。江良川は、その初動を、紙一重で回避する。


「なんだよ! ああいうノリが、一番うぜぇって知ってっから、止めてやったってんのに。」


「にして、もうちょっとやり方ってのがあったでしょ、君!」


 フェリエッタから離れた場所で、音沢と江良川が、互いに言い合いながら、軽く殴り合っている構図がしばらく続いていた。


「ははは…。」


「あの二人は、いつもあのような感じなので気にしなくていいです。」


 その様子を、フェリエッタが苦笑いしながら見ていると、黒薙が彼女に話しかける。黒薙は、ギプスを付けていないもう片方の手に持った紙コップを、フェリエッタに差し出していた。


「そ、そうなんですね。」


「ちなみに江良川さんは、16歳です。」


「へー、ちょっと意外です。」


 フェリエッタは、黒薙から紙コップを受け取りながら答える。黒薙は、フェリエッタの隣の席に座る。


「ところで、クロナギさんは…。」


「私は、今年で18です。」


「え! そうだったんですね。」


「…フェリエッタは?」


「わ、私も18です。何か運命を感じちゃいますね。」


 フェリエッタが、黒薙に、そう言いながら笑いかけると、黒薙は、紙コップを口につけた状態でそっぽを向く。


「…うん。」


 彼女は照れているのだろう。黒薙の顔は赤面していた。


「わし! わしはじゃな…。」


「そして俺は、28だぜ。」


 そんな二人の間に割って入るように、笹平がソファの後ろから顔を出す。


「フェリエッタ、ちゃんと食べているか?」


「は、はい。こんなにおいしい物を食べたのは、初めてです。特に、ここにあるケーキは、ホントに甘くて、フワフワして、おいしいです!」


「ありがとな。そう言ってくれると、頑張って用意した甲斐があるもんだ。」


 笹平はそう言うと、頬を搔いていた。




「ササヒラさんが、28歳ということは、ここでは一番の年長ということなんです?」


「あー、えー、まー、でも、そういう訳じゃないんだ。」


 笹平は、歯切はぎれの悪い返事をして、答える。笹平が見せるその表情に、フェリエッタは疑問を持った。


「え? でも。」


 フェリエッタは周りをキョロキョロと見渡すが、笹平より年齢が上の人は見当たらない。


「んー、あ! 分かりました。ウナヅキさんで…。」


「わしじゃ。」


 フェリエッタの膝の上で、枸橘が言う。


「え?」


「わしは、此度こたびとしで百二十じゃぞ。」


「えーーー!?」


 枸橘からの唐突とうとつな告白に、フェリエッタは思わず大きな声をあげてしまった。


「ふぇりえった、おぬしのことなんぞ、もう知らぬ!」


 フェリエッタの膝からぴょんと降りると、枸橘は、ムッとしたような表情を浮かべながら、離れて行ってしまう。


「え、あ! ご、ごめんなさい。」


 フェリエッタは、ソファから立ち上がると、他の班員に見守られている中、枸橘の後を小走りで追いかけるのであった。

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【第一部完結】IDIOM. 異世界から来た新人魔女は、現代で美少女エージェントに管理される @ruritate

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