第17話 絶望の蛇
黒薙が、コカトリスと
「クロナギさん、一体どこに行ったのでしょう。」
そう言って、立ち止まった彼女の耳に、
バァン!
「!! まさか、クロナギさん?」
何か嫌な予感がしたフェリエッタは、その音がした方向へと走るのであった。
「さすがの組織のエリートさんも、これは予想できなかったか。」
「ぐっ。」
「くそが、
森石が命令すると、コカトリスは器用にそのくちばしを使って、森石に
「おー、いいね。
森石は、自由になった手足を動かしていた。その様子を、黒薙は
「なぜ、コカトリスが、お前なんかの命令を聞く?」
「そこ、気になるよなぁ。いいだろう、この俺が教えてやる。」
森石は、立ち上がり、落ちていたライフル銃を拾いあげる。
「このでけぇ
「奴隷だと!?」
「俺の使った
よく見ると、コカトリスの蛇の頭辺りに、白い
「この化け物を、お前より先に捕まえることが出来て良かったよ。なぜか、ここから動かなかったから、楽勝だったがな。」
森石は、
森石が
「放て! “
黒薙は、森石が目を離した隙に、羽ペンを奴に向ける。そのペン先からは、黒いインクの弾丸が、森石へと放たれる。
バチン!
黒薙の弾丸は、森石に届く前に、蛇の
「おっと、危ないな。俺が、貴様の疑問に答えているんだぜ。静かに聞けよ。」
「…卑怯者め。」
黒薙は、すぐに身体を起こし、森石から距離をとる。
「少し、お
森石の命令と共に、コカトリスが翼を広げ、黒薙に飛びかかってきた。大きく鋭い
「
黒薙が唱えると、ペン先からインクが流れ出てきた。インクは、空中で
インクの塊は、コカトリスの鉤爪を受け止める。だが、コカトリスは
「くっ!」
その追撃を
体勢を立て直した黒薙に、再びコカトリスの鉤爪が襲う。
ドス!!
鉤爪は、黒薙の残像を切り裂き、深く地面に突き刺さる。黒薙は、鉤爪を
「放て!」
黒薙の持っている羽ペンから、インクの弾丸が発射される。インクの弾丸は、コカトリスの鶏の
蛇の頭部が、口を開き、
(なるほど、2つの頭部が、お互いをカバーすることで、広い
黒薙は、そのままコカトリスから離れると、冷静に状況を判断する。
(私の“
コカトリスは、黒薙の方へと向かってきている。
「拡散しろ!!」
黒薙が唱え、羽ペンで空に一線を引く。ペン先からは、
コカトリスは、黒い霧を切り裂くが、そこに黒薙の姿はなかった。
「何!? 奴はどこだ?」
コカトリスを操っていた森石は、黒薙の行方を見失っていた。黒薙の姿が見えなくなった森石は、
「探せ! 奴を探すんだ!!」
森石が、コカトリスに命じる。
(今の私では、コカトリスを止めるのは難しい。それなら!)
森石が、自分の姿を見失い焦っているのを見た黒薙が、身を隠していた木の陰から、跳びだす。
(操っている森石数馬を、抑える!)
羽ペンを構え、そのペン先を森石に向ける。
「捕らえろ!! “
ペン先からは、黒いインクが
インクの鎖が飛んだ先は、森石の
「え!?」
そのことに
ゴォン!
蛇の胴体による強烈な打撃が直撃したことで、黒薙は地面に勢いよく叩きつけられてしまう。
「ふん、まんまと引っかかったな。…おい、奴を
森石がそう命じると、コカトリスは、ヘビを黒薙の体に巻き付け、彼女を
森石は、黒薙がコカトリスによって縛られたのを見てから、彼女に近づいてきた。
「俺の奴隷であるこの化け物が考えていることは、主人である俺に伝わる。知っているか? 蛇の舌にある
コカトリスの
「とりあえず、これは取り上げておこう。」
森石は、黒薙の手に握られていた羽ペンを
「貴様は、まだ殺さない。俺には“魔女”が必要だからな」
「“魔女”?」
「俺が呼び出した、もう一人のことだよ。」
「まさか!?」
「そいつにも、この化け物みたいに、奴隷の刻印があるはずだ。それを使えば、彼女も自由に操ることができる。そうすれば、俺は本当の無敵だ。」
フェリエッタが狙われている、そのことを理解した黒薙は、必死にここから抜け出そうともがく。しかし、コカトリスの
「んっ!」
「まだ死ぬなよ。貴様が死ぬのは“魔女”の場所を案内してからだ。」
森石は、黒薙の髪を
一方で、黒薙は、森石のその言葉を聞き、安堵していた。
フェリエッタを、この場に連れてこなくて良かった。彼女なら、病院で待機していた部隊と合流している頃だろう。もうすでに、この町から出ていてもおかしくはない。
「フフッ」
「何が
「森石数馬。お前は、まだあの娘の場所を知らないのか。」
「それがどうした?」
「彼女なら、もうすでにこの町にいない。」
「何!? …ハッタリならよせ。」
「ハッタリなんかじゃない!」
黒薙の覚悟を決めたような
「それが本当なら、お前はもう本当に
「ぐっ。」
黒薙を締め付ける力が、さらに強くなる。
森石は、持っていたライフル銃を黒薙の
「クロナギさーん!! どこですか?」
森石の指に、力が入りかけたときである。誰かが、黒薙を呼ぶ声が聞こえた。
「!?」
驚いた黒薙が目を開けると、遠くに白い影が見えた。その影は、黒薙を探すフェリエッタだった。
森石も、そのことに気が付く。
「へぇ、今日の俺は、つくづく運が良いみたいだな。」
「! 逃げて!!!」
黒薙が、大声でフェリエッタに向かって叫ぶ。コカトリスから受けた
「クロナギさん!?」
「もう遅い。俺の刻印の
森石の手が、フェリエッタの方に向けられる。
「さぁ、刻印よ。あいつを、俺の奴隷にしろ!」
森石の手に、白い魔法陣が浮かび上がる。
「これって隷呪魔法!? どうして、私の手に刻印が? ぐっ!」
遠くの方で、フェリエッタは右手の甲を押さえて、その場にうずくまったのが見える。それを見た黒薙が、激しく抵抗するが、コカトリスから逃れることはできない。
「やめろ!! 森石数馬!!」
「やめないさ。それに、もうすでに終わった。…こっちに来い。」
森石が
やって来た彼女の手の甲には、コカトリスと同じ魔法陣が白く輝いている。
「せっかくのことだ。貴様を殺すのは、こいつにしてもらおう。」
森石は、一本のナイフを懐から取り出し、それをフェリエッタに手渡す。
「…このナイフで、奴を殺せ。」
森石が、フェリエッタの耳元で
「これで、本当に貴様の最後だな。」
「いや!! 森石数馬、もうやめて!! …こんなことは、させないで。」
黒薙は、涙目になりながら、森石に
彼女の訴えもむなしく、フェリエッタの持つナイフが、無情にも黒薙の首元に突き付けられる。彼女の顔は、少し俯いており、その表情は黒薙の角度からは見えなかった。
(私は、また間違ったのだろうか? …ごめんね。)
黒薙は目を閉じる。彼女の
「…ごめんなさい、ウィリアムズ、さん。」
黒薙の
黒薙は、死の
「やっと私の名前、呼んでくれましたね。」
フェリエッタ・ウィリアムズの声が聞こえる。
黒薙の首に突き付けられたはずのナイフは、フェリエッタの足元に落ちている。
「俺の頭が!! 痛む!」
森石は、頭を抱え、辺りをのたうち回っていた。
「でも、バディなんですから、呼ぶならファーストネームで呼んでください。」
フェリエッタは、顔を上げて、黒薙に微笑みかける。
「さぁ、反撃開始ですよ。クロナギさん!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます