第10話 昼休憩
自分の病室へと、先に戻ったフェリエッタは、ベッドに
彼女は、
コン、コン
扉が叩かれ、黒薙が部屋の中に入ってきた。
「すみません、お待たせしました。」
「どうでしたか?」
「回復したあの男性の話によると、彼は意識を失う前に大きな鳥のような化け物に襲われていたそうです。その後のことは、記憶がないそうです。」
「鳥の化け物。やっぱりコカトリスの
「そのようですね。申し訳ありませんが、もう少しご協力をお願いしてもいいでしょうか。」
「もちろんです。この世界で、コカトリスをどうにか出来るのは、私だけなんですから!」
自信に
「ありがとうございます。」
黒薙が、冷静に
フェリエッタは、黒薙の感謝の言葉を、頭の中で
「魔法は、まだ使えるのでしょうか?」
「え?」
「先程の石化を解除する魔法を、他の患者に使うことはできるのでしょうか?」
「あ、はい! えーと、それが、難しいんです。」
フェリエッタは、申し訳なさそうに答えると、言葉を選びながら黒薙に説明する。
「えー、私の
「なるほど、分かりました。しかし、先程の男性に魔法を使った際には、それほど時間がかかっているようには見えませんでしたが。」
「あの時は一人だけだったので何とかなりました。でも、他の全員に解呪の魔法をつかうには、私の魔力が足りなくてできないんです。…すみません。」
「いえ。お気になさらないでください。」
「で、でも、それ以外の方法も知っているので安心してください。例えば、コカトリスは、石化して
「了解しました。ご協力ありがとうございます。」
黒薙のその言葉を聞いて、フェリエッタは、再び
「私、クロナギさんの“バディ”っていうのなんですよね。これぐらいお手伝いして当然です!」
「ありがとうございます。」
「早く、コカトリスの居場所を見つけて、次の犠牲者が出ないようにしないとですね!」
フェリエッタは、黒薙に笑いかけながら言った。
「ク、クロナギさん、少しいいですか。」
「どうかしましたか。」
「あ、あの。今朝の看護師?の方が、今からお昼ごはんを持ってきてくれるみたいなので…。」
フェリエッタは、少しモジモジとしていたが、勇気を振り絞り、次の言葉を言う。
「も、もしよかったら、私と一緒に、お、お昼とか食べませんか。」
顔を上げ、まっすぐとこちらを向くフェリエッタを見て、黒薙は少し
「…すみません。今から別の用事があるので、私は失礼します。」
黒薙はそう言うと、扉を開き、逃げるように病室を後にした。
黒薙は、病院に
その中で、コンビニで買ったばかりのおにぎりを一人でほおばっていた。
(…やはり、
そう思い、
「黒薙唯月さんですね。お疲れ様です。」
「あなたは…。」
黒薙に話しかけてきたその男は、先程までフェリエッタの病室の護衛をしていた組織の青年であった。
ニメルス教団幹部の
フェリエッタを“アイテム”を使用してまで、なぜこの世界に呼び寄せたのかは、いまだにはっきりとしていない。そのため、黒薙とのバディが組まれた後も、彼らによる病室の護衛は
「護衛、ありがとうございます。どうかしましたか?」
「なに、今からお昼だよ。」
そう言いながら、ヘルメットを脱ぎながら青年は黒薙の向かい側の席に座る。
「黒薙さんこそ、お昼?」
「そうです。」
「せっかくだったら、護衛対象のあの娘と一緒に食べてあげたら良かったのに。黒薙さんが出ていった後のあの子、すごく寂しそうな顔してたよ。」
「…分かりきった嘘です。あなたたちのいた扉の前からは、部屋の中は見られません。」
「ありゃ、バレてたか。」
そう言うと、青年は、軽く頭を叩くような動作をする。
「でも、彼女の食事を持ってきた看護師の口ぶりから、まぁ、なんとなく
青年はクッキー状のレーションを取り出し、それを食べ始めた。
「しかし、黒薙さんはストイックだね。何度か一緒に仕事をさせてもらう機会もあったけど、いつも今回みたいに
しばらく
「そんなに偉いものではありません。ただ私は…。」
そこまで言いかけた黒薙は、口をつぐむ。
黒薙は、彼女たちのことを見ていると5年前の“事件”を思い出してしまう、とは言えなかった。しかし、その様子を見て、青年は何かを察したようだった。
「…まぁ、こんな組織にいるくらいなんだし、黒薙さんにもいろいろあるよね。」
バックアップ部隊の青年は、そう言うと、食べ終えたレーションの
「ちょっと早いけど、俺は出るよ。」
青年は、出口に向かいながら、黒薙に話しかける。
「もしよかったら、ちょっとあの娘と外に出かけてみたらどう? きっと喜ぶよ。俺たちも、周囲を
青年が出ていった後、黒薙は、また一人残されるのであった。
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