第8話 生着替え
フェリエッタは、一人病室のベッドに寝て、天井を見上げていた。黒薙は、宇奈月を追いかけて、外に出て行ってしまった後であった。
フェリエッタは、黒薙が置いていった“写真”というものを、頭の上に
(これが、私のするべきことなんでしょうか? 女神トリア様。)
コカトリスのような魔物は、
魔物は、人々にとって、最も
フェリエッタには、
(あの領主に
フェリエッタはベッドから体を起こし、布団から出て立ち上がった。
フェリエッタは、少し
フェリエッタは、すぐそばの机にたたんで置いてある衣服を手に取る。それは、自分が着ていた服がどこにあるのかを今朝の女性に
その人は、この世界で
ローブや着ていたワンピースを広げてみると、どこにもシミや汚れが見当たらず、新品のようにきれいになっている。ありがたいことに、一晩のうちに
(すごい。こんなにきれいになるなんて、どんな魔法を使っているんだろ。)
そんな風に感心しながら、フェリエッタは自分が着ていた
黒薙は、宇奈月の背中を見つけて、呼び止める。
「宇奈月班長。先のことは、どういうおつもりですか!」
その言葉を聞き、宇奈月は足を止め、後ろを振り返る。
「どうって、せっかく現地の人が協力してくれるって言うからには、利用する手の他にはないじゃない?」
「かもしれませんが、正式な検査や審査もなく、現場の独断でエージェントに
「んー、しかしなぁ。あのフェティちゃんの助けがないと、たぶんこの件は難しいよ。」
そう宇奈月からの言葉を聞き、黒薙は黙るしかできなかった。笹平も
「…でも、“アイテムを守ること”が“私の大事な人たちを守る”ことに繋がる唯一の方法だと、教えてくれたのはあなたのはずだ!」
黒薙は、強く宇奈月の目を見て言った。二人の間に、しばし沈黙の時間が流れる。
「…僕も、いーちゃんが考えている、下手に巻き込んで危険にさらしたくない、という思いはよく分かる。」
「それなら。」
「この件を、お前が自分でやり遂げたいと思うのなら、俺の判断を信じるしかない。どうしても嫌なら、おとなしく別の人間に交代するのをお
宇奈月はそう強く言うと、サンダルを鳴らしながら去っていった。
「心配しなくても、フェティちゃんの雇用に関する面倒くさい
宇奈月は、書類を持った手を振りながら、
「あ!」
黒薙が病室まで戻り、扉を開くと、着替えている最中フェリエッタと目が合う。彼女は、ショーツしか身に付けていない
「ひゃ!?」
フェリエッタは、黒薙が部屋の中に入ってきたことを理解すると、顔を真っ赤にさせる。彼女の胸は、一般的な日本人女性のものと比べると少し大きく、二つの
フェリエッタは、急いで両手で胸を
「ク、クロナギさん! す、少し待ってくれませんか。」
「…すみません。次からは扉を叩いてから開けます。」
黒薙はそう答えると、急いで扉を閉めた。
(…私より大きかった。着やせしてたのか。)
黒薙は、先の光景を忘れようと、頭の中で別のことを必死に考えるように努めていた。
しばらくして黒薙が部屋の中に入ると、着替え終わったフェリエッタがベッドに腰掛けていた。フェリエッタは、
黒薙は、フェリエッタのベッドの横の椅子に座る。
「すみませんでした。お体は、もうよろしいのですか?」
「あっはい! 大丈夫ですよ。体もしっかり治ったので、安心してください。」
「あまり無理はなさらないでください。」
手を振りながら、元気な様子をアピールするフェリエッタを前にして、黒薙はそう小さく呟くしかなかった。
「それより、私、クロナギさんと一緒に働くんですよね。バディでしたっけ。どんなことをすればいいんですか?」
「今回であれば、
「別の世界から来た存在。つまりコカトリスですね。その事件ってどんな感じなんですか? もしよかったら、詳しく教えてくれません?」
フェリエッタにそう問いかけられた黒薙は、今回起きている事件のあらましをフェリエッタに話し始めた。
「この町では、主に3つの事件が発生しています。
1つ目が、人々の
2つ目は、毒が付いた
3つめは、地域住人が、謎の症状に見舞われている事件です、その症状は、身体が石のように
どの事件も、コカトリスがこちらに来たと思われる1週間前から、起き始めました。」
「もうそんなに犠牲者が。…早くなんとかしないといけませんね。」
黒薙の話を聞いたフェリエッタは、しばらくの間、考え込んでいた。
「たぶん、最後の件は、聞く限りではコカトリスが関わっていると思います。けれど、他の件に関しては、まだ何とも言えないですね。」
「その、今更なのですがコカトリスとはどのような生物なのですか。」
「えーと、コカトリスは、雄鶏の
「なるほど。確かに
「もしよかったら、その硬直した人たちに会えますか? 私が見れば、本当にコカトリスの仕業なのかはっきりするはずなんですけど。」
「分かりました。少し掛け合ってみます。」
黒薙はそう答えると、椅子から立ち上がり、病室を出ようとする。
扉を開けようとして黒薙は、立ち止まり、後ろを振り返る。
「…先はドアを叩かずに開けてしまい、申し訳ありませんでした。以後気を付けます。」
「い、いえ。何も言わずに着替えていた私も悪いので、そんなに気にしないでください。」
頭を下げながらそう言うと、黒薙は病室から立ち去った。
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