第7話 バディ結成!!
白い髪の少女から
(今日は、彼女の引き渡しのための書類を作成しなければ。)
黒薙には、保護した少女を
そんなことを考えながら、少女の病室に向かっていた黒薙は、廊下の向こうから病院には似合わないサンダルを
「お! いーちゃんじゃないか。」
「黒薙唯月です。
よれよれのコートを着て、眠そうな半目で微笑みを浮かべながら、黒薙に声をかけてきた男は、上司の
「宇奈月班長は、別の案件で本部の方に
「まぁね、でも抜けてきた。」
「…他の班長の方々が、それを聞いたら怒りますよ。」
「正直僕より
宇奈月に拾われてから3年ほどたつが、黒薙はこの男のことをいまだに
「それにしても、大変だったじゃないか。こっちに来て早々、任務外のアイテムを回収するなんて。キツかったら、今回の任務を交代させようか?」
「いえ、私が最後までやります。そんなことより、何の
「んー、何って、今から君のバディのササっちの見舞いに行くとこだよ。自分の部下が倒れたっていうのに、見舞いに行かないほど、僕は
「…そのことでしたら、申し訳ございません。私がもう少し
「まあ、
笹平の話題があがり、少しうなだれた黒薙に、宇奈月は言い放った。
「だが、“アイテム”の
そう言いながら、宇奈月は黒薙の横を通り過ぎて、笹平の病室に向かっていった。黒薙は、宇奈月の言葉を聞き、何か救われた気がするのであった。
「そういえば、いーちゃんの回収したお
黒薙の後ろから、宇奈月の大きな声が聞こえてきた。やはりよくわからない男だ。黒薙は、少し軽くなった気持ちで少女の病室へと急いだ。
黒薙が少女の病室の前まできた時のことである。
「キャアアッ!!」
女性の声が部屋の中から
(まさか、ニメルス教団の侵入者か! どうやって!?)
黒薙は、急いで病室の扉を開け、中に突入した。
中では、…涙目で病院の壁にしがみついている白い髪の少女と、
「え?」
黒薙は、あまりに予想外の展開を目の前にして、思わず困惑の声を上げる。
「あら、黒薙さん、ごめんね。貰った彼女の報告書に、非常に協力的ってあったから、検査のための
女性看護師は、少女を必死になだめながら、黒薙に話しかけてきた。黒薙は、その様子を見て、また少し頭が痛くなったように感じるのであった。
それから数分ほどして、彼女は落ち着いたようだった。女性看護師は、少女のことを黒薙に任せて出ていってしまったため、病室には二人だけになった。
「すみません。先ほどの女性の方にお願いをされて頑張ったのですが、ちょっと、想像していたよりも、痛くて。」
「…大丈夫です。無理はなさらないようにしてください。」
「ごめんなさい。」
ベッドの上で、少し落ち込んだ様子で、
昨日の気絶の件といい、この少女と一緒にいると、自分のペースが乱されてしまうのを感じる。
一呼吸置き、黒薙が、目の前の少女の今後の
「あ、あの、クロナギさん。一つお願いがあるんですが、聞いてもらえますか。」
バッグの中から引継ぎ用の書類を取り出していると、少女の方から
「どうかされましたか。」
「もしよかったら、私をあの場所に連れて行ってくれませんか。」
「あの場所とは?」
「私がこの世界に来た時に、最初にいた場所です。あの場所をもう一度見られないでしょうか。」
黒薙はそう言われ、押し黙ってしまう。回収した一般のアイテムを、
「お願いします。私は、自分が何のために、どうしてこの世界に呼ばれたのか知りたいんです。」
黒薙が黙った様子を見て、少女はさらに言葉を続ける。
(もし彼女が、この世界に連れてこられた
白い髪の少女の言葉を聞き、そう思った黒薙は、携帯している鍵付きのビジネスバックから、数枚の写真を取り出した。
「あの場所に、あなたを直接連れていくことはできません。ですが、あなたを保護した際に撮影した写真がありますので、それをお見せします。」
「しゃしん?」
「その場の
そう言って黒薙は、回収した際に記録していた複数の写真を、少女に渡す。
「あ、ありがとうございます。」
初めて見る
彼女は、渡された写真を不思議そうに眺めたあと、1枚1枚注意深く観察していった。写真には、報告書に
少女の手が、ある写真で止まる。
「クロナギさん、これってなんの羽だと思います?」
少女が見せてきたのは、部屋の中に散らばっていた発見した巨大な羽毛の1枚の写真であった。
黒薙には、その写真に写っているものが何なのかは理解できなかった。写真に写っている羽毛は、すでに本部に送っており、じきに
「すみません、私には分かりません。」
「うーん。この羽、やっぱり
彼女は頭を
「あ! 思い出しました!」
しばらく写真とにらめっこをしていた彼女だったが、
「これ、”コカトリス”の羽ですよ!」
「こかとりす?」
「あれ、こっちの世界にはいないんですか? 雄鶏と巨蛇を合わせたような姿の大きな魔物ですよ。なんで、こんなところに落ちているんだろ?」
それを聞いた黒薙は、勢いよく椅子から立ち上がる。それに少女は驚いて、思わず写真を手から落としてしまう。
ブー、ブー
黒薙のポケットの中のスマホが、振動していた。発信元を見ると、確保したニメルス教団の信徒の取り調べを依頼した本部からであった。
「少し待っていてください。すぐに戻ってきます。」
そう言って黒薙は、彼女の病室から出ていった。
「…そうですか。…はい。…ありがとうございます。それでは失礼します。」
黒薙はスマホの電話を切り、上着のポケットにしまい直す。黒薙の考えは当たっていた。やはりニメルス教団が、この町で起きている事件に関与している。
(手掛かりは増えたが、これからどう対処するべきか。)
本部からの電話を終えた黒薙は、痛む頭を押さえながら、病院のロビーから少女の病室へと戻るため
病室では、黒薙が出ていった時と同じ状態で、ベッドの上で呆然としている少女がいた。
「えーと。何かありました?」
ベッドのわきにある椅子に座り直した黒薙に、少女が恐る恐る聞いてくる。
「…あなたを
「それって!?」
「おそらく、その羽の持ち主のことでしょう。」
それを聞いた少女は、顔を
「クロナギさん、…私がコカトリスをやります。」
「?」
「コカトリスは
「それは、できません。」
「私なら、魔物の
「…ダメです。」
「どうしてですか?」
「理由は、あなたを守るためですよ。お嬢さん。」
黒薙の背後から、
「お話は聞かせてもらいました。僕は、黒薙の上司の宇奈月祐一といいます。よろしく。」
突然の事態に
彼女は恐る恐る差し伸べられた手を握り、握手を交わす。それを見た宇奈月は、ニッコリと
「僕たちの組織の理念は、あなたのように別の世界から来たものを守ることにあります。こちらの世界に連れてこられた側であるお嬢さんが、無茶を必要はありませんよ。」
「…しかし、私たちの世界でも、コカトリスはC級以上の
「確かに、最近この辺りの地域でその魔物と思われるものの被害が多発しています。それに、僕たちはその
宇奈月はそういうと、顔を少女に近づける。
「お嬢さん、もしよかったら私たちと一緒に働きませんか?」
「宇奈月班長! それは!」
後ろから呼びかける黒薙の声を、片手で
「あなたを保護の対象ではなく、一時的に僕たちの仕事仲間とさせていただきます。そうすれば、あなたは自由に行動できるようになります。」
「一時的?」
「そうです。今回の件だけで大丈夫ですので、そこの黒薙の仕事を、少しお手伝いしていただけますでしょうか。もちろん、それなりの
少女は、しばらく悩んだような素振りを見せたが、すぐに顔を上げて答えた。
「…分かりました。いいですよ。」
「ありがとうございます。それでは、今からあなたを黒薙のバディとさせていただきます。」
「バディ?」
「私たちの組織では、一緒に働くパートナーをバディと呼んでいます。お嬢さんのお名前を、お
「…フェリエッタ・ウィリアムズといいます。」
フェリエッタは、宇奈月の目を
「フェリエッタさんですね。いいお名前です。もしよかったら、親しい人から良く呼ばれる
宇奈月からの予想外の質問に、フェリエッタは少し戸惑った様子を見せる。
「え、えーと、家族や友人は私のことをフェティと呼んでいました、けど…。」
「フェティちゃんですね。どうぞよろしく。」
宇奈月は
「ということで、クロくんは、フェティちゃんとバディを組んでこれからは行動するように。あとの申請の手続きとかは、僕が処理しておくから、その間お前はちょっと休んでおきなさい。ちなみにこれ、班長命令だから。」
そういいながら、黒薙の手から引き渡しの書類を
「なんか、
「…そうですか。」
残された黒薙とフェリエッタの二人は、その後ろ姿を見ることしか出来なかった。
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