よくわかる現代祓魔学

畦道 伊椀

第1話『悪魔がいた。』

ダウナーなロックを聞いていた。

ギターを背負って。


両耳の穴にエアーポッツ突っ込んで。

部活終わりの学校帰りに。十字路を通り過ぎた時。


スポティファイの再生リストを回しづつけていた。一曲だけで永遠に。

ニルヴァーナのティーンスピリット。


声をかけられたのは、そんな折り。


「あなた、十字路の悪魔って、信じますか?」

と、人らしき影に。


これは隠れたコンプレックスだが、私には、最近のJポップが全然分からない。

何よりピッチが早すぎる。やたらメロディックで、曲のリズムにどうやってノッたらいいのか分からない。


「それは、きっと私たちに与えられた福音いいしらせだよ。」

そんな風にアユミは言っていた。

「あんな曲はさ。きっと音楽の聴き方が分からない人間でも聴けるように作られてんだ。たちの悪いことに、作ってるやつらはきっとそれを自覚してる。」

そんなことを言う彼女は、二ヶ月前に姿を消したけど。

消えた先は東京かどこかだろう。

きっとこの街の景色に耐えられなくなって、東京を目指したんだ。

私はいった。

「でも、売れ筋はそっちだよ。いつまでも洋楽の模倣をしてるわけにもいかないし、洋楽はリズムにノることばっかり考えて、全部ヒップホップになっちゃった。私はそれをいいことだと思わない。」

「おっしゃる通りだよ。リズムを合わせる方法だって、ビートを揃える以外にもある。現に古来日本の雅楽は、呼吸によって、調子を合わせていた。私たちが追求すべき音楽はそちらの方角にある。私たちにだって、まだ音楽は残されているんだ。」

「聞き手はそんな小難しいこと考えてないよ。ティックトックとかに合わせられる分かりずらいコードこ聞きやすい曲で、楽器みたいな声でさ。一人でも聴けるし、カラオケで上手く歌えたら、ちょっと仲間内で盛り上がれて、やり過ごせるみたいな。」


ねえ、いい加減認めなよ。私たちにはもう音楽なんて、残されてないんだよ。


「売れたいんだったら、プロデューサーやら、レコード会社やら、広告会社のそこそこ偉いヤツに抱かれてさ。適当にアドバイスに合わせて作った曲、バズらせて。そんな世間並みのゲームに溺れることだよ。私たちに残されたことなんて。」

「お前、本当にそんな腐った遊びに耐えられるのか。」

「ないよ。だから音楽も高校でやめるよ。やったとしても、せいぜい大学の三年まで?まさか、そんなことのために枕営業なんてするわけにはいかないし。」

「」

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よくわかる現代祓魔学 畦道 伊椀 @kakuyomenai30

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